思うこと 第26話         2004年12月26日 記

リーダーノあるべき資質ーその6


 私が日経ビジネス誌の有訓無訓を愛読していることについては、「リーダーのあるべき資質ーその4」で述べたが、先日送られてきた12月6日号では広岡達郎氏が「人は必ず育つもの、プロ野球は原点に返れ」のタイトルで熱いメッセージを語っておられた。 出来上がった高齢の選手を高額で雇って、ベンチを暖めさせながら時々しか使わないようなやり方をしている球団を痛烈に批判し、在籍中の若い選手の持つ才能を見出し、その才能が開花するよう努力するのが監督の役目であり、それが出来ればチームは強くなると述べられ、1983年の日本シリーズで西部ライオンズを率いた同氏が、藤田監督の巨人を4勝3敗の激戦の末に破った回顧談も披露しておられた。「若い選手の持つ才能を見出し、その才能が開花するよう努力するのが監督の役目」の言葉は、けだし名言で、このことは大学の講座の運営にも共通していると思う。私が井形先生から鹿児島大学第三内科の主任教授を引き継がせていただいてより18年になるが、この間に12人の若者が教授になり巣立っていった。若者が立派になって巣立つことは正に教授冥利に尽きる感動的出来事であるが、一方ではこれまで教室を支えてきた大きな柱を失うという痛手を伴うことになる。しかしながら、必ずその大きな穴を埋めてくれる若者が程なくして育ってくれるという嬉しい体験を毎回経験させていただいた。 私が手取り足とりで指導して育てたことは一度もない。私にはその能力はなく、私に出来たことは、若者が育つ邪魔をしなかっただけである。一例を挙げると、かって教室の研究の中心であった栗山勝助教授が福井医科大学第2内科の教授として巣立って行ったとき、教室の生化学の研究を維持出来るか心配した。しかし、中川正法君が教室の研究を驚異的に発展させてくれた。その中川講師が京都府立医科大学の教授で巣立っていった2年前にも、同じ心配をした。しかし、それは杞憂にすぎなかった。若い高嶋君が、助手の身分ながら、中川君が築いた分野において、すでに数々の大発見を重ね、世界のスーパースターとして活躍するまでになってくれている。若者はそれぞれ能力に溢れており、場が与えられれば、そして、育つ邪魔をしなければ、すなわち出るくいを打ちさえしなければ、我々が予想出来るレベルをはるかに超えたスピードで伸び育ってくれる。 このことを最初に私に教えてくださったのは、私を育ててくださった井形先生である(エッセイ「井形昭弘先生」参照)。ところで、同じ12月6日号の日経ビジネス誌の特別編集版の「提言」のページで、国際基盤研究所会長の佐々木正氏は「相手を信頼しつつ意見をぶつけ合え」のタイトルで、次のような我が意を得たりの考えをのべておられる、「チームで仕事をしている場合、リーダーの役割が重要だと思う。リーダーが採用したいと思っているアイデアに固執してしまうと、ブレークスルーの芽を摘んでしまう。全く正反対の意見にも形だけでなく真剣に耳を傾け、正しく判断できる力が必要だ。最近の日本人はどうもその点が苦手だね。日本ではブレーンストーミングしても、なぜか金太郎飴みたいなアイデアしか出てこない。出る杭は打たれるということなんだろうけど、この習慣を変えてやらないと日本で大発明や大発見は生まれにくい」と。