思うこと 第255話           2007年9月26日 記

ドル覇権の崩壊』の可能性を論ずる

 「思うこと 第137話」において、「ユーロ1人高をどう読むか」を論じた際、私は『5年以内に1ドル90円程度まで円高ドル安になる』と予想した(これについては『思うこと 第253話』でも紹介した)。この私のおぼろげな予想などとは異なり、もっと具体的な事実をもとに『やがてドルは暴落し、円は1ドル=80円になる』と予言した著書が最近出版された(下写真)。

この本は徳間書店から2007年7月31日に出版されたばかりの本であるが、その直後に起こったサブプライムローン問題も本の中で的確に予見している。著者の副島隆彦氏は常葉学園大学教授で、ベストセラー『預金封鎖』(祥伝社)の著者でもある。私はこの本を読んで、副島氏の緻密な分析と鋭い洞察に感嘆したのであった。この米国ドル覇権の崩壊に関しては、『思うこと 第253話』『思うこと 第254話』で主役を務めた松藤民輔氏と、主張するところは同じであるが、副島氏が中国元が上がると予測しているのに対し、松藤氏はこれには懐疑的である。しかし、両者とも共通して、近い将来『ドルが大きく下がり』、『円とユーロが上がり』、そして『金の価値が上がる』とみている点では共通する。
 副島隆彦氏はドルの歴史を淡々と語りながら、鋭い洞察を加えており、極めて説得力のある主張となっている。第2次世界大戦で力をつけたアメリカは、戦争が終わった時には政府の金庫は全世界のゴールドで満杯であった(当時米国が保有するゴールドは5万トンにも及んだ)。1944年7月の戦勝国側による戦後の世界体制を協議した重要な会議『ブレトンウッズ会議』では『IMFと世界銀行からなる戦後世界の通貨体制』が決定された。いわゆる『ブレトンウッズ合意』である。それは、『米ドル1ドルは、35分の1オンス(1オンスは約31.1グラム)のゴールドに等価である』という決定である。このようにして、世界は米ドルを世界中の貿易決済や金融・借款の決済の手段としての準備通貨として受け入れた。この比率で全ての外国の中央銀行が自国通貨と交換可能とされたので、どの国も安心してこれを受け入れたのである。しかし、アメリカは、保有する金を大幅にこえる紙幣を印刷し、使用した。これを心配したフランスとイギリスの蔵相が、1960年代末に、米財務省に対して、仏、英に溜まった米ドル紙幣を、アメリカに輸送して、その輸送されたドルにつき、「約束どおり35ドルごとに1オンスのゴールドとドル紙幣を交換して、代金をゴールドで支払ってほしい」という要求をつきつけたのである。この結果、アメリカから英仏に膨大な量のゴールドが流出した。そして、遂には支払い不能となり、1971年8月15日にリチャード・ニクソン大統領は「ドルと金の互換の停止」を発表した。いわゆる『ニクソンショック』である。しかし、ドル本位制は継続した。何故か。アメリカの巨大な力で、石油代金の支払いはドルでなければならないと決めたからである。すなわち、『金・ドル体制』は崩壊したが、『ドル・石油体制』に変わり、今日に至るまで『米ドル覇権』は続いてきたのである。言い方を変えると、アメリカは『米ドル覇権体制』を維持するためには、石油代金をユーロで行うことは阻止しなければならなかったのである。サダム・フセインがイラクの石油をユーロ立てで販売すると宣言し、実行に移した直後に、イラク攻撃に踏み切ったことは、『ドル・石油体制』維持のために避けれなかった、これこそがイラク戦争を起こした真の理由であると著者の副島隆彦氏は断言しているのである。アメリカの連邦政府の累積債務残高が8兆ドル(約1000兆円)であり、カリホルニア州債やニューヨーク市などの大きな都市が発行している公債が合計で8兆ドル(約1000兆円)にのぼっている。米国は“毎年の”貿易赤字が約8000億ドル、財政赤字が約4000億ドルであるが、アメリカに“毎年”流入している短期・長期の資金が実にこれらの合計額の1兆2000億ドルにも達しているのである。このような信じ難いことが実行出来ているのは、『アメリカのドルは今しばらくは大丈夫であろう』との願望的予測に支えられてのことであった。まさに『思うこと 第253話』『思うこと 第254話』で紹介した松藤民輔氏が主張しているように、今、アメリカ経済の終わりの始まりであることは、私のような経済音痴の素人にも説得力を持つにいたっている。
 ところで、実は、『米ドル覇権の終焉』を昨年(2006年)2月にアメリカ議会で演説した下院議員がいる。それは Mr. Ron Paul、ロン・ポール下院議員である。その講演はよくもここまでアメリカの現状を把握し、よくぞここまで言い切ったものだと、感動的な内容である。内容は、上述の内容と殆ど同じで、下写真の講演内容の原文はインターネット上( http://www.lewrockwell.com/paul/paul303.html )で公開されている。


ロン・ポール下院議員は、2008年11月の米大統領選挙に共和党から立候補していて、これを歓迎しているニューイングランド在住の日本人のプログ『ニューイングランド通信 米大統領候補、Ron Paulに注目』
( http://blogs.yahoo.co.jp/giantchee2/34860274.html )は、面白いだけでなく、ロン・ポール下院議員の演説の日本語訳までしてくれているので、極めてありがたいプログである。ロン・ポール下院議員の演説の日本語訳は先に紹介した副島隆彦氏の著書のなかでも紹介されている。
 このロン・ポール下院議員の講演のさらに1年前の2005年に、やはり米国市民の一人である Mr. Clyde Prestowitz、クライド・プレストウィッツ氏により『ドル覇権の崩壊』について語った衝撃的な本(下写真)が出版されている。

この本は、翌年(2006年)3月25日に、日本放送出版協会から、柴田裕之氏による翻訳本(下写真)が出版されている。

私はこの本を読んだのが、『ドル覇権の崩壊』を真剣に考え始めるきっかけとなったことを、懐かしく思い出す。副島隆彦氏は著書『ドル覇権の崩壊』のなかで、「来年(2008年)のおわりぐらいから米ドルは暴落してゆくと予測しているが、米国のドル覇権の崩壊が現実に起こるタイミングは、ひょっとしたら、副島隆彦氏の予測時期よりもかなり早い可能性もある。流れがはじまったらそれはあっという間に大きな流れになってしまうからである。
 さて、ここまでは、『ドル覇権の崩壊』を主張する意見を中心に取り上げたが、では、今回のサブプライムローン問題の影響を識者や主要誌の社説はどうみているであろうか。9月18日にニューヨークで開かれた日本経済新聞主催のパネル・講演会で竹中平蔵氏は、「日本は今、2つの経済的リスクに直面している。第一は今後円高がさらに進む可能性。第二は米経済減速のリスクだ。ーーーーー米経済の動向に、新興国も含めて世界全体が影響を受ける。米国の経常赤字が持続可能かどうかが焦点だ。世界のマネーが米国に集まるのは米国の期待成長率が高いからだ。米国が高い期待成長率を維持していけるかどうかが重要なポイントとなる」と述べている。同じ会で、コロンビア大学経営大学学長のグレン・ハーバード氏は「米国は、今後1〜2年は年2%の成長になろう」と述べている。
 英フィナンシャル・タイムズ社説(2007年9月22日付)は次のように述べている、「利下げが外国の投資家に米ドルへの信頼性を失わせるなら、景気後退(リセッション)の可能性は強まる。ドル安は徐々に進むなら歓迎すべきだが、外国人投資家がインフレを予測し、巨額の対米債権を投売りするなら大混乱に陥る。最悪の場合FRBは金融政策のコントロールを失い景気後退に陥るだろう」
 あとしばらくは、世界の経済動向から目が離せないようである。