思うこと 第236話 2007年7月21日 記
続・リーダーのあるべき姿 −その1−
−『日産ゴーン改革挫折』から学ぶもの−
2004年1月1日の『リーダーのあるべき姿・資質−その1−』以来、2005年4月26日まで9回にわたって述べた。『リーダーのあるべき姿・資質』のシリーズは、『−その9−』をもって“とりあえず”最終回にしたのであったが、2年余りを経た現時点で、その続編を再開することにした。今後、特に急がず、折に触れ語りたくなったときに触れることにする。
前回のシリーズでは、はじめの頃はPM論を展開し、リーダーは、部下の能力を伸ばすことが大切なことを強調し、終わりの頃には、指導力、ビジョンが大切なことに触れた。
今回、『続・リーダーのあるべき姿』をシリーズで始めるにあたり、その第1回として、文藝春秋7月号:94〜113ページの『日産ゴーン改革挫折の内幕』(下写真)にからめて、リーダーのあるべき姿を論ずる。
『日産ゴーン改革の挫折』については、一般にはまだそれほど認識されていない。業績の表面的な数値だけでみるかぎり、日産は、一時の勢いがなくなったものの、いまだに利益を出し続けている会社というのが一般的な認識であろう。 90年代後半、倒産の危機にあった日産をフランスのルノーが買収、1999年にカルロス・ゴーンが社長兼CEOとして来日、1999年度にはグローバルで250万台の販売台数で営業利益が1%であったものを、2005年度には350万台に引き上げ、2006年度は販売台数こそのびなかったものの、7.4%の営業利益を達成している。 この数字は『挫折』のイメージからは程遠い。もっとも、今回のこの文藝春秋の井上久男氏の記事で、やっと一般にも『日産ゴーン改革の挫折』の実態が認識されることになるであろう。私は、ここでは、挫折そのもの各論的内容に深入りして論ずるつもりはなく(それを知りたい人は文藝春秋を読んでほしい)、この『日産ゴーン改革の挫折』を話の材料にして、私の考えるリーダーシップ論について、一言だけ語りたいと思う。私は前に、『リーダーのあるべき姿−その9(最終回)−』で、ジョン・P・コッターの「リーダーシップ論」(下写真の本)を紹介して、
リーダーシップとマネジメントは全く別物であることを認識することの重要性について話した。「リーダーシップ」とはビジョンと戦略を作り上げ、戦略の遂行に向けてそれに関わる人々を結集し、やる気を引き出すことによりビジョンと戦略を遂行することであり、対照的に「マネジメント」とは、計画と予算を策定し、階層を活用して職務執行に必要な人脈を構築し、システムをうまく運営することを指す。組織においては、この両者とも必要であり、同一人物が両者を兼務することもあり、組織内で両者の比重の異なる人物が存在することもある。キャノンの御手洗富士夫社長や、京セラ創業者の稲盛和夫氏はこの両者を最高レベルで備えているモデルといえよう。さて、この様な観点からカルロス・ゴーン氏をみてみたい、というのが今回の私の主な目的で、結論から言うと、カルロス・ゴーン氏はマネジメント能力では卓越しているが、リーダーシップ能力は不十分であると思う。就任後今日まで一貫して推進したのが『コミットメント(必達目標)』という概念の導入であった。部品の購買コストの削減にも、販売台数の増加にも、この『コミットメント』が掲げられた。当初はこれでうまくいき、一躍、時代の寵児となった。しかし、この成功の裏で犠牲になったのが、技術開発の立ち遅れであり、社員のやる気の衰退であった。カルロス・ゴーン氏の目指したものが、『どれだけ利益を上げるか』、であり、トヨタやキャノンが最大目標に掲げた『世界で最高の品質の製品作り』は、カルロス・ゴーン氏の言動にも、行動にも全くといっていいほどみられなかった。いかにマネジメントの能力に秀でていても、『リーダーシップ』が伴わないと、永続性のある発展はあり得ないこと教えてくれたという意味で、ゴーン氏は格好の反面教師であったといえよう。