思うこと 第34話 2005年4月26日 記
リーダーのあるべき姿・資質 ーその9(最終回)ー
昨年元旦(2004年1月1日)以来、本年4月18日まで8回にわたって述べてきたリーダーのあるべき姿・資質をいよいよ本稿をもって“とりあえず”最終回にしたいと思う。
はじめの頃はPM論を展開し、リーダーは、部下の能力を伸ばすことが大切なことを強調し、終わりの頃には、指導力、ビジョンが大切なことにも触れた。
この最終回では、これまで触れなかったことにも言及しながら、全体をサマライズしたい。私は、リーダーのありかたを論ずるにあたり、会社の社長や、大学の学長のように、組織の頂点にある人物についてだけ語ってきたわけではない。一家の主人もリーダーだし、主婦もリーダーシップを発揮しなければならないことも多く、いわんや、仕事場では、どの役職の人でも、それぞれの役割にともなって、リーダーとならなければならない事は多い。わたしは、最終回にあたって、2冊の本をもとに論じたい。ひとつは、ジョン・P・コッターの「リーダーシップ論」であり、もうひとつが御手洗富士夫社長が語る「キャノン人づくりの極意」である。前者は、リーダーシップとマネジメントは全く別物であることを認識することの重要なことを強調している。「リーダーシップ」とはビジョンと戦略を作り上げ、戦略の遂行に向けてそれに関わる人々を結集し、やる気を引き出すことによりビジョンと戦略を遂行することであり、対照的に「マネジメント」とは、計画と予算を策定し、階層を活用して職務執行に必要な人脈を構築し、既存のシステムを運営することを指す。組織においては、この両者とも必要であり、同一人物が両者を兼務することもあり、組織内で両者の比重の異なる人物が存在することもある。リーダーシップのあり方を論ずる時には、この両者の違いを認識することからはじめないといけないと説いているが、全く同感である。はじめに書いた家庭内の例でいうと、専業主婦の場合「マネジメント」により多くの時間を使うにしても、子供の教育では、いかにやる気を引き出すかなど「リーダーシップ」が重要となる。この本が「リーダーのあるべき姿」として述べている内容は、くしくも私がこれまで述べてきたこととほぼ同一であったことは驚きであった。さて、2番目の本は、私のリーダーシップ論を締めくくるには、この1冊しかないという本である。1995年にキャノンの社長に就任した御手洗富士夫氏は、8000億円以上の有利子負債をかかえていた会社を、この10年間で一変させ、年間売上高3兆4679億円、税引き後の純利益3433億円で、トヨタにも匹敵する超高収益企業に育て上げ、国内外から注目を集めている。そして、本年1月に、前年度の最高の経営者に贈られる「財界賞」を受賞した。このキャノンの目を見張る成長は、氏が社長就任以来断行してきた「激烈な改革」なしにはありえなかったことである。氏は、社員の意識改革を成し遂げ、「人づくり」に成功したが、これは、現場に足をくまなくはこび、“辻説法”をくりかえし、なぜ今改革が必要かを、全員が理解するまでくり返し説いて回って全員一丸となって改革に取り組んだ成果である。私は、この御手洗流“辻説法”の話を読みながら、私の恩師の井形先生が、若くして病院長になられ、当時あまりにも先駆的すぎて誰も理解してくれなかったコンピューターによるオーダリングシステムの導入を決意され、頭の固い教授陣をはじめ全職員に“辻説法”され、とうとう、病院としては日本で最初の導入・確立に成功された時のことを思い出すことであった。
それでは、これをもって、「リーダーのあるべき姿」のシリーズの締めくくりとさせていただく。