思うこと 第185話           2007年2月1日 記       

『硫黄島からの手紙を観て−その3−

第184話の『硫黄島からの手紙を観て−その2−を読んだ方から次の質問をいただいた。
『「硫黄島からの手紙を観てーその2−」の本文中下から5行目にある「・・・残りは自決または毒物の注射で処置されたとのこと。・・・」に関し質問します。米国が硫黄島戦を高く評価し、大いなる敬意を払っている所以の一つに「唯一万歳自決をさせなかった戦場」である、と記憶しています(引用できる文書などは憶えていません)。さらに栗林司令官は「この戦場の意味は本土燒結を遅らせる事」、従って自決は許さないと言明・周知させていたと思っています。貴殿が引用されたあの本文は、野口院長の言?あるいは米軍資料からのコメント?なんでしょうかね。戦死した下士官・兵士の名誉に関わる事と思いメールしました。』
私は旅の途中でこのメールを読み、即座に以下のお返事をメールした。
『貴重なご意見ありがとうございました。貴殿が言われたとおり栗林司令官の指令は「出来るだけ生き延びて、最後まで戦って一人でも多くの敵を倒すように。万歳突撃はせず、最後に突撃しか方法がなくなっても、相手に気づかれないように声を上げず突撃し、一人でも多くの敵をたおすように。」であり、それはほぼ忠実に実行されました。私が、「・・・残りは自決または毒物の注射で処置されたとのこと。・・・」と書いたのは、栗林司令官の死後、洞窟の中で投降を呼びかけられ、それに応ずることをよしとしない上官(そういう教育に全身染まっているのが当時のほぼ全員でしたので、)のもとの兵団が火炎放射器で入り口が燃え、多くの兵が焼けただれて瀕死の状況にあった中で、自決する力の残っていない病人達に、上官の命で、軍医が泣きながら、一人一人注射を打っていった、自決の力が残っていたものは自決した、という小笠原兵団の第109師団副官部付だった陸軍軍曹龍前新也氏の証言によるものです。『軍医殿は泣いておられるのですね』と注射を打たれながら言う兵士に、『私はこのようなことのために医者になったのではないーー』と言いながら、涙をこぼしながら注射していったというのです。誰が悪いのではない、戦争がいけないのです、と、私は思います。米軍の立場に立って考えた場合、栗林司令官が優秀であればあるほど、米兵の死亡者の数は増えたわけで、その一人一人に故国で生還を待っていた家族がいたことに思いをいたす時、結局、悪いのは戦争だということになります。言葉足らずだったかもしれません。ご質問ありがとうございました。納 光弘』
この私のメールにすぐさま再び貴重なお返事のメールをいただいた。
『 早速のお返事ありがとうございました。私は、戦争をおこした日本人のなにが原因なのか、に強い関心を持ち続けています。先月、薦められて読んだ新書「転落の歴史に何を見るかー奉天会戦からノモンハン事件へ」齋藤健/ちくま新書も原因としては確信が持てませんでした。貴殿のご意見聞かせてもらえればと思います。』
私は、この質問は、私も思い悩んでいたテーマであったので、即座に以下のお返事のメールをお送りした。
『私は、軍を動かした軍本部の一人一人の人間に悪者がいたわけではなく、それぞれいいと思った方向に導こうとしたと思います。でも、やはり、声の大きなもの、特に好戦的というか、“勝つぞ”という心意気の強いものが主導権をとりますから、良識的な人間は主流からはずれるのは流れだと思います。それに、流れが出来ると、はずれものは処罰の対象にすらなり、ますます“敵を知らない”好戦集団(辻政信少佐などが好例)が出来てゆくような気がします。だから、流れが出来てからでは間に合わないことが多く、流れが出来る前にストップすることしかないと思います。納 光弘』
この私のメールに対し、再び即座に次の、感動的お返事をいただいた。
『早速のコメント、貴殿の見識・認識に触れ有難く思っています。歴史から、またこれまでの私の経験からも貴殿の意見に私も賛成で、[悪者」はいませんが、声の大きい人に対して無口になり傍観を決め込む人間が多数になっていく過程が[悪いベクトル」を形成し最後は「誰も悪くは無い」と傍観者がリードして幕引きをしてきているように感じています。苛める、苛められる、関係を当事者だけを対象にして教育再生会議の方々は分析し対策を出しましたが、傍観者グループへの関心を示していませんでしたので、苛め問題は益々減少しないだけでなく陰湿化していくと思っています。日本人は、当事者だけへの注目が強く、環境への視点が弱くバランスが悪いのでは?と思います』
私は、このご意見に心底感動し、私のホームページで一連のメールのやり取りを匿名で紹介したい旨お願いしたところ、ご快諾いただけたのでこうして紹介させていただいた次第。このようにすばらしいご見識の方が、私のホームページを読んでくださっていることに、改めて感動したと同時に、ネットのありがたさをも実感したのであった。
なぜ、このような悲惨な戦争を止めれなかったのか、という問題は、そう簡単に答えはないと思うが、極めて重要な問題なので、今日はここまでとし、また時間のあるとき、近い将来、第186話として改めて追加して述べたいと思う。