思うこと 第125話           2006年8月17日 記

リーダーのあるべき姿ーイエメン戦からオシムに学ぶ

 私がオシム監督に興味を持つ(というより、今や熱烈な心酔者である!)理由は、彼の姿にリーダーのあるべき姿をみるからである。 楽しみながら、リーダーのあるべき姿を学ばせてもらっている。 彼は、『身に私を構へない』リーダーである。 だから、部下はついてゆく。 Jリーグの試合翌日にもかかわらず、新潟合宿の初日の13日の練習から“鬼トレ”を実施したが、きびしい練習にも不平一ついわずに、皆、必死で学ぼうとする。 さらに監督は、自身が所属した千葉の選手を特別扱いしないことも明言。 この、あたりまえのことを実行するから、選手は今回選ばれなくても不満に思わず、自分がさらに伸びて選ばれるようになろうと努力する。 ジーコ前監督の場合はこの逆で、国内で活躍する選手よりも、ヨーロッパに出ていた選手をやみくもに重用し、国内勢の選手のやる気をつぶした。 
13日からの合宿が開始される直前の12日に発表された22名のイエメン戦日本代表メンバー(下記)の構成も監督の公平・公正の心で貫かれており、選ばれなかった選手の多くが納得の発言をしているという。

GK 23 川口 能活         ジュビロ磐田
   43 山岸 範宏         浦和レッズ
DF 14 三都主アレサンドロ    浦和レッズ
   20 坪井 慶介         浦和レッズ
   21 加地  亮          ガンバ大阪
   31 駒野 友一         サンフレッチェ広島
   45 田中マルクス 闘莉王   浦和レッズ
MF  4 遠藤 保仁          ガンバ大阪
   30 阿部 勇樹         ジェフユナイテッド千葉
   35 長谷部 誠         浦和レッズ
   50 中村 直志         名古屋グランパスエイト
   51 羽生 直剛         ジェフユナイテッド千葉
   55 鈴木 啓太         浦和レッズ
   56 山瀬 功治         横浜F・マリノス
   57 佐藤 勇人         ジェフユナイテッド千葉
   58 田中 隼磨         横浜F・マリノス
   59 小林 大悟         大宮アルディージャ
FW 36 巻 誠一郎          ジェフユナイテッド千葉
   37 佐藤 寿人         サンフレッチェ広島
   38 田中 達也         浦和レッズ
   65 我那覇和樹         川崎フロンターレ
   67 坂田 大輔         横浜F・マリノス 

この背番号が大きいことが話題になったが、このことこそが、ジーコ・ジャパン時代とメンバーが大幅に一新された事を意味している。 すなわち、ジーコ時代の2月アジア杯の登録番号が42番までであったので、新たな追加メンバーは43番以上にせざるを得ない。 22名中11名が43番以上の背番号で、すなわち新旧半数ずつとなったわけである。

さて、この中から、イエメン戦のスターティングメンバーは以下の11人であった。

GK 23 川口 能活         ジュビロ磐田
DF 20 坪井 慶介         浦和レッズ
   21 加地  亮          ガンバ大阪
   31 駒野 友一         サンフレッチェ広島
   45 田中マルクス 闘莉王   浦和レッズ
MF 14 三都主アレサンドロ    浦和レッズ
     4 遠藤 保仁          ガンバ大阪
   30 阿部 勇樹         ジェフユナイテッド千葉
   55 鈴木 啓太         浦和レッズ
FW 36 巻 誠一郎          ジェフユナイテッド千葉
   38 田中 達也         浦和レッズ

私はこの11人のメンバー構成にも、監督の気配りと作戦を感じた。 自身が所属していた千葉の選手を2人しか入れず、出せば活躍するに違いない羽生 直剛と佐藤 勇人を外したのである。 佐藤 勇人の双子の弟で出場が期待されていた佐藤 寿人も外されていた。 しかし、結果は、公式戦交代3人枠のキーパーソンとしてこの3人が投入され、その采配がみごとにあたったのであった。 まず、後半戦の最初から羽生を投入、羽生は監督の「サイドに開け」の指示通り左右に動きまわり、相手の中盤をサイドに開かせ、その動きが後半中続き、仲間の動きを良くした。 実際、後半24分に羽生がペナルティーエリア手前中央からドリブルで右に切り込んでいったことがきっかけとなって、三都主のコーナーキックと、それに見事に合わせた阿部のヘディングにより、待望の先制ゴールが生まれた。 後半26分に投入された佐藤 勇人の動きもチームに活気を呼んだ。 そして、なんと終了間際の後半44分、佐藤 寿人が投入され、三都主のFKに頭で反応、GKがはじいたこぼれ球を押し込んで駄目押しの2点目、その直後タイムアップのホイッスルが鳴った。
 試合後の記者会見が始まるところで、テレビ中継は終わった。 そこで、再び、今朝コンビニでスポーツ紙をあるだけ買い込み、これとネット情報でオシムの会見談話を追った。 その中から、2,3の言葉を紹介する。

『公式戦初勝利おめでとうございます』に対して、オシム監督は『選手におめでとうと言ってくれ。』と答え、今回の試合への不満を次のように述べている。 『私は不満だ。それはディフェンスでのボール回しが非常に遅かったことだ。しかも各駅停車並みだった。だから相手の陣形を崩すことはできなかったし、相手のディフェンスラインを左右に動かすこともできなかったし、スペースができない。ボールが相手陣内に到達すると、もう相手は戻ってきている。味方はそのときにフリーであっても、数的優位を作ることができない。それというのも、ディフェンスラインのボール回しが遅かったからだ。だから中盤で不利な状況が生まれた。それが一番の不満だ。』 監督は次のような不満も述べた、『FKについては満足していない。キッカーが事前と違う蹴り方をしてしまったからだ。もっと力のある相手だったら、そのミスで取り返しのつかないことになっていた。FK、CK合わせて20回以上のチャンスがあったが、日本のように高い技術を持つチームであれば、最低5本に1本は決めていなければならない。つまり阿部や遠藤やアレックス(三都主)、闘莉王といった素晴らしいフリーキッカーがいるわけだから、もっと確実に決めてほしかった。代表ではセットプレーの練習をする時間が取れないので、彼らにはクラブに戻って十分に練習してほしいと思う。』と。 さらに、オシム監督曰く、『日本のサッカーをもっと強くするためには、もっと走る、もっとアグレッシブなチームをもっと(Jリーグで)増やさなければならない。そのためには、ある部分を犠牲にする必要がある。例えばそれは、プレーのエレガントを犠牲にしなければならない。エレガントであることと、効果的であることは両立しないことが多い。それが両立しているのは、多分バルセロナだけだろう。』 この『エレガントを犠牲にしなければならない』の意味を記者団から聞かれたオシム監督曰く、『あまりにもエレガントなプレーヤーは難しいかもしれない。普通に美しいプレーヤーはどうか? 格好いいかもしれない。美しいプレーをして、その結果はどうなるか? その結果を考慮したい。美のために死を選ぶという選択はある。だが、死んだ者はサッカーができない。美しさを追求して死ぬのは自由だが、そうなるともうサッカーではない。現代サッカーのトレンドはそうではない。今はどんなに美しいプレーをしたかではなく、何勝したか、それが求められる。残念ながら。』 最後に、アウエーでのイエメン戦にふれ、『来月またイエメンと対戦するが、まったく違うチームになっている可能性がある。ギリシャ神話にも似た話があるが、自分の土地に再び踏み出したときに、エネルギーが大地から湧き上がって兵士の体を満たすということが、もしかしたらホームのイエメンに起こるかもしれない。だから今日の試合で勝っても、また次の試合で楽に勝てるとはまったく考えていない。今、こういう話を申し上げた方が、皆さんはがっかりしないだろう。』

次の9月3日のサウジアラビア戦と6日のイエメン戦(どちらもアウエー戦)でまたオシム語録を聞けるのが待ち遠しい。

追記      2006年8月18日 記

 今日の東京スポーツ新聞に、昨日のオシム会見の内容を補強するような記事がでていた。
三都主が記者に語る、『ハーフタイムにオシム監督に怒られました。 あれはチームではなく、個人でのプレーだと。 私の言ったとおりにやれと言われました。』と。 三都主は試合前日の練習でオシム監督から“セットプレの心得”を教えられた。 その中の『ゴールに向かってボールを蹴りなさい。 誰かに合わせるより、そのまま入るようなボールを蹴りなさい』という約束を守らなかったことが、個人プレーとして注意を受けたというのである。 昨日のオシム会見の言葉と読み合わせると興味深い。