個人的出来事 第75話 2007年4月23日 記
第2回納光弘展を振り返って−その3(最終回)−
出品全作品とキャプション
第2回納光弘展で展示した全ての絵とキャプションを、展示した順に提示する。
まず、入り口ローカ正面。
『マウントクックとターコイスブルーの湖面』
私は、この一つの絵の中に2つの感動を描き込むことが出来たように思う。その2つの感動とは、一つは崇高な山の姿であり、もう一つが手前のプカキ湖( Lake Pukaki )のターコイズブルー ( tourquoise blue ) の湖面であった。どういう種類のミネラルによるのか知らないが、心臓につきささるようなターコイズブルーの不透明な神秘的な色であった。この色を再現するのに、私は数ヶ月悪戦苦闘した。そして、ついに、私が感動したあの色を描けたと感じたのは昨年末であった。結局10種類以上の岩絵の具を重ね塗りしたが、その中核に使ったのがトルコ石 ( tourquoise stone )であった。宝石の一種のトルコ石は歴史的には岩絵の具として使用されているが、現在、まれにしか作られず、捜し求めたがしばらく入手出来なかった。京都の放光堂でも今は作ってないとのこと、自分で原石から作るしかないと思っていたところ、ウエマツ渋谷店で、ウエマツ横浜店に昔作った残りがあると聞き、取り寄せてもらった。そして、この湖面が完成したのであった。私が大事にしているトルコ石の原石を展示するので、湖面の色と見比べてほしい。
引き続き、脳卒中予防卓上カレンダーに使われた挿絵の原図を1月から順に12月まで掲示。
1月 『初日の出』
日本画独学時代の最後の作品(第3作目)で、力を込めて描きこんだ。城山展望台から金色も日の出の感動を金箔に託したもの。
2月 『雪の桜島』
鹿児島では年に1〜2回しか雪は降らない。この様に桜島が雪化粧することは珍しく、しかも満月の夜と重なることは極めて稀である。この夜の感動を天然群青岩絵具に託した。星と街の明かり以外は全て群青一色で描いてあるのでこれを『群青の墨絵』と呼ぶ。
3月 『夕焼け』
スケッチの時、夕焼けの赤い空と噴煙に感動した。そのイメージを描くのに選び抜いたのが天然岩絵の具『朱砂』である。『朱砂』の原石の赤い結晶部分だけを集めてすりつぶした、入手困難な石で桜島と空と噴煙を描いた。
4月 『希望』
桜と共に新しい希望の人生を切り開きたい、という定年退職に掛ける思いを花に託した。
5月 『朝焼け』
生まれて始めてパステル画に挑戦した私のパステル画第一作目。 日の出の熱い情感をパステルの強い色に託した。
6月 『梅雨』
6月、竹林でスケッチしている時、雨が降り始めた。その、梅雨の風情に背景の桜島が溶け合ってくれた。
7月 『船影』
旧鴨池空港跡に建つ東急ホテルの前の海岸は、漁船の船着場で、ここから眺める桜島の日の出は7月が一番美しい。海面の光と影の輝きを、パステルで描いてみた。
8月 『灼熱』
2006年8月、ギラギラと照りつける重富海岸の真夏の木陰に強烈な印象を受けて描く。
9月 『十五夜』
9月の満月は、桜島を群青色のシルエットに浮かび上がらせる。まさに、群青の岩絵の具を引き立たせてくれる風景である。
10月 『燃える』
約50年前、私が小さかった頃の桜島は休火山に近い状態で頂上に登ることは子供達の楽しみの一つであった。ところが私が中学1年か2年の時、大爆発が起こり、登山中の若者に多数のケガ人が出て、一人が死亡した。以来、6合目以上へは登山禁止となり今日に至っている。私の中学2年〜高校時代は、桜島の噴煙は3〜5千メートルの高さまでのぼることが多く、夕暮れ時に爆発が起こると桜島の頂上付近と噴煙の全てが真っ赤に燃え、一方、山の中腹から鹿児島の市内はすでに夕闇に包まれ、明かりが点灯し、その対照的なコントラッストが今でもはっきり脳裏に焼き付いている。あの時の感動を再現したくて、記憶を頼りに絵筆をとり、日本画の朱一色で描いたもの。『朱の墨絵』とも呼べよう。
11月 『静寂』
九州高速道路の加治木インターの横にそびえる蔵王岳は、運転の疲れを癒してくれる。桜島に大雪の降った夜、蔵王岳の向こうに広がる錦洪湾は静寂そのものであった。
12月 『夢』
オーロラの感動を日本画に描く夢と、私の絵の情熱の根幹をなす桜島、この2つを一枚のキャンバスに描くことは私にとって夢であった。南国鹿児島にオーロラはありえないので、タイトルを『夢』とすることで、夢を実現しました。オーロラ日本画第二作目。
『北斗七星にかかるオーロラ』
群青の夜景に色を付けたいと思った。その思いが、何時とはなく、オーロラを描きたいとの思いに発展した。そして、その夢をかなえる為に、2006年2月、年休をもらってアラスカにスケッチ旅行に飛び立った。そして感動した。それは、想像を超える幻想的な世界だった。オーロラの感動が頭の中から消える前に描き終わろうと、5枚の日本画を同時進行で描き始め、次々に完成し、とうとうオーロラが頭の中で舞っているうちに5枚目まで完成させた。この絵が、その第一作目である。オーロラの出現直後の、静かなたたずまいのオーロラ。
『静寂』
オーロラ日本画第3作目。フィヨルドの静かな海に写ったオーロラは静かに、静かに舞った。
『チェナ川に写るオーロラ』
チェナ川は昨日まで厚い氷で覆われ、その上を自動車が走っていた。ところが、昨日の気温上昇を受け氷が一部解けた。そのため、この得がたい感動のシーンに出会うことが出来た。この度第五作目が完成したときに、頭の中からオーロラノ映像が消え、これ以上オーロラを描くことが出来なくなった。
『カロリンスカ湖畔にて』
スエーデンはストックホルムのカロリンスカ大学に留学中であった教え子の東 憲孝君と愛君夫妻を訪ねた折のスケッチ。同君たちの住むアパートから研究所までの毎日の通勤路はとっても美しい湖畔にあり、そこからの眺めに私も感動したので、右上の水彩画を即興で(20〜30分で)描き、同君たちの思い出にプレゼントさせてもらった。スエーデンの人達は、国旗もそうだが、青の色を好むそうで、湖畔に揺れるヨットも青が目立ったのが印象的だった。草むらを走り回る野うさぎもかわいらしかったので、書き加えた。
『フィヨルドの昼』
フィヨルドの感動を日本画に仕上げるための、下書きスケッチの一つ。
『日の出を待つフィヨルドの静寂』
フィヨルドを一望に見張らせる展望台の横にあるホテルに2泊し、夜明けから日没までの変化を観察し続けた。朝、4時ごろうっすらと明るくなり始め、日の出前にうす雲がたなびき始め、日の出と共に雲消し飛んでゆく自然の変動に感動した。それらの時間変化を一枚の絵に閉じ込めた。
『桂林夜景』
桂林は夜景こそ美しい。水面に写る山荘と山影とを通して、川の流れを表現した。
『流れるフィヨルドの氷』
急激な気温の上昇でフィヨルドを覆っていた氷が急激に解けて海の水かさが増し、フィヨルドの海への出口方面へ向かってバラバラになった氷が勢いよく流れてた。オーロラはあまりはっきりとは海面に写ってくれず、画面の下方にオーロラの光が波に反映して写っている。オーロラ日本画第3作目とは対照的な動きをこの第四作目では表現したかった。
『南の島』
石垣島周辺はサンゴ礁の宝庫で、空からのサンゴ礁の島は、まさに“絵のように美しく”、日本画に描きたいという衝動にかられた。
『大空に舞う』
石垣島で離島診療と取り組んでいる教室の仲間の吉嶺君を訪ねたとき、パラグライダーの初体験をさせてもらい、その360度の景観に感動した。300メーターの高度からみた大地離島の情景を日本画に再現した。
『桜島噴火口』
噴火口も、山肌も、熱く燃えていた。私は圧倒され、感動で、震えた。
『マウントクックの朝』
マウントクックは、まるで我々の桜島のように、時間と共に色がかわり、空気も、雰囲気も変わる。朝、頂上付近に発生する流れる雲に朝日が当たって輝く様は、息を呑む霊験なものである。
『マウントクックの昼』
広大な高原にそびえる幾多の霊山を取り囲む大気は、崇高な霊気で満ちていた。
『マウントクックの夕』
山も空も夕日に燃えていて、私は夕日に燃える桜島を思い起こして、さらに感動した。
以上、26枚の全作品とキャプションの全てを提示しました。ありがとうございました。