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雑誌 Circles 7巻 1号 2005年1月号 

フロントエッセイ


医療人が患者を体験することの大切さ

 私は小さい時から体は丈夫で、病気らしい病気をしたことがありませんでした。ところが、3年前、59歳の時はじめて痛風発作を体験し、そしてまた、2年前、還暦を迎えてしばらく後、過労と高血圧のため短い期間ではありましたが入院生活を余儀なくされたのです( http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/tsuufuu/tsuufuusonogo/tsuufuu-sonogo.html )。元気だけが取柄と自負していた私にとって、病気になった当初はどちらの場合も、かなりのショックを受けました。しかし、今ふり返ってみると、これら2回にわたる患者体験は、私にとって極めて貴重な出来事であったと思えてなりません。まず、痛風患者になった時のお話をしましょう。私が教授を務めている第三内科は痛風の患者さんも多く、私も痛風については熟知しているつもりでした。しかし、いざ自分自身が患者になってみると、それまでの知識がいかに医療を行う立場からの知識であって、患者の立場に立ったものではなかったことを思い知らされました。例えば、痛風や高尿酸血症の患者さんには「アルコールはよくないので、飲むのを止めてください。特に、ビールにはプリン体が多く含まれているのでひかえてください。」と言っていました。ところが、いざ自分が患者になったとたん、本当にビールを止めないといけないのか、と悩んでしまいました。というのも、私はとてもビールが好きで、宴席ではかなりの量のビールを飲むことが多く、それを止めるということは、はっきりした根拠が必要と思ったのです。そこで、1年間にわたり自分の体を実験材料にして(何と、200回を越える採血までして!)、最終的には「痛風患者もビールを飲んで結構」という結論に達したのでした。この結果は、高尿酸血症や痛風の方々への朗報と考え、この度(2004年11月)小学館文庫から「痛風はビールを飲みながらでも治る!−患者になった専門医が明かす闘病記&克服法−」のタイトルで出版しました( http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/tsuufuu/tsuufuu-bunko/tsuufuu-bunnko.htm )。また、2つ目の病気から回復して退院してからは、私の患者さんへの接し方は周囲が驚くほど変ったのです( http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/omoukoto/yamikarakaifukushite-2.htm )。最も端的な象徴的出来事は、それまで17年間続けてきた“大名行列的”教授回診を廃止して、数人で回ることにしたことをあげることが出来ます。このことの詳細は次のページ http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/omoukoto/9wa-kaishinn.htm をご覧ください。私は、医療人にとって、病気を体験することは大きな意味を持っていると思えてなりません。

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