魔女界にプロ野球チームを作ろう!!
第7話「擬宝珠負傷!!ホエールズ大ピンチ」
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 試合は終盤。いつも通りの纏の完封ペース。7回表、近鉄バッファローズの攻撃は4番サード中村紀洋から。2ストライクからの第3球。中村は思い切ってバットを振った。打球は物凄いスピードで飛んだ。
ガッ!!
鈍い音がした。それは纏の鼻からした音だった。ダグアウトにブルペンにいた選手も皆が飛び出した。 纏の鼻から血が吹き出ている。場内アナウンスがする。
「只今、擬宝珠選手が怪我の治療をしております。スタンドの皆様は、今しばらくお待ちください」
 心配そうに見守るさゆり達。ピッチャーの交代が告げられる。瞳が下を向いている。そして、その顔を上げると…目付きの変わった瞳がそこにいた。
「ホエールズ、選手の交代をお知らせいたします。ピッチャーの擬宝珠に変わりまして、南井。9番ピッチャー南井。尚、南井投手は今シーズン発登板でございます」
大野コーチが静かに言った。
「変わったお前を魅せてやれ」
南井は昨シーズンオフに投球ホームをオーバースローからアンダースローに変えた。その沈み込むフォームに近鉄打線は勘を狂わされて3回を三者連続三振に打ち取られた。
結局、この試合はプロ野球史上初の最年少投手(14歳。これまでの記録は日本ハムOB尾崎の16歳2ヶ月)の初セーブという形で終わった。

 試合終了後、瞳は纏のお見舞いに行った。鼻の中の骨と頬骨の一部にひびが入ったと医師は言った。
手術室の前。その薄暗い廊下。そこに置かれた長椅子に腰掛ける瞳。さゆりも兵動も苫米地も皆が駆けつけた。
こがね「何も瞳さん泣くことないじゃないですか」
瞳「いいや、悪いのは私‥。あのリードが悪かった。纏許して…本当にごめん」
こがねは(これが本当のバッテリーなのね)と思った。
兵動はその言葉を聞き逃さなかった。彼は病院の帰り道に携帯で来なかった全選手に一斉にeメールを送った。
 翌日、練習場にはたくさんの選手がいたそのうちの一人が
「瞳さん、水くさいですよ!一人で悩まないで下さいよ。僕らがいるじゃないですか。それとも、僕らじゃ信用できないとでも?ここにいるみんな、擬宝珠さんに世話になったことばっかりの人です。今こういう時に恩返ししないでどうするんですか!」
声の主は兵動だった。
瞳「お前ら…」と言いかけた途端、涙が溢れていた。
兵動「だ〜っ!もう泣かないで下さいって。それでも選手会長なんですか!」
瞳「よーし、ホエールズファイト!」
全員「おーーっ!!」
その「異変」をコーチ陣は感じた。
 こがねはまだ中学生なのに、連日200球投げ込む。そして彼女はマスコミを前で…
「こんなことで肩が痛いと言ったら、入院している擬宝珠さんに申し訳ないじゃないですか。あの人は300球〜400球も投げていました。私も頑張れます」
と言った。
野手たちはコーチに自分からノックしてくれと言わんばかりに前に出てくる。目標はただ一つ。

“擬宝珠を優勝旅行に連れて行く”

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