まだまだ!?おジャ魔女どれみ
第53話『おジャ魔女は止まらない!』
(2005/10/23 入稿)
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小竹「ほっ、よっと、それっ!」
小竹の蹴ったボールは、吸い込まれるようにゴールに入っていく。小竹は薄暗くなった校庭で、一人シュート練習をやっていた。
???「先輩、まだ帰らないんですか?」
小竹「ん、あぁ、宮野か、もうちょっとだけな。」
ここは福岡県内にあるとある中学校、小竹哲也は美空中から転校してこの学校のサッカー部に所属している。宮野と呼ばれた少年は、小竹より1歳年下の後輩で、本名は宮野海(みやの か
い)といった。
彼は、何十人も居るサッカー部員の中で、唯一人の中学一年でレギュラーを持っ
ている選手だった。
宮野「手伝いましょうか、先輩?」
小竹「そうか?悪いな、じゃぁ俺がドリブルするからお前は俺からボールを奪おうとしてくれ。俺はそれを交わしてそのままシュートするから。」
宮野「分かりました・・・任せてください。」
小竹「行くぜ・・・よっと。」
小竹がボールを蹴った。宮野はすぐさま小竹の正面に立ちはだかった。すると小竹は、ボールを足の裏で停めると見せかけ、左足を軸に突然後ろ向きに半回転した。
宮野「え・・・?」
小竹はその回転をする時に、右足のかかとでボールをひそかに宮野とは逆の前方に軽くボールを蹴っていた。
宮野「マ、マルセイユターン!?」
マルセイユターン─別名マルセイユルーレット。それはレアルマドリッドのジダンが得意技とする、ディフェンスを華麗に交わして突破するフェイントの技術のこと。そう、中学生がそう簡単に出来るような生半可な技ではないのだ。
小竹は、今度は右足を軸に前方へ回転。が・・・。
小竹「ゲッ、ボールがあんな前に・・・。」
本来前方に回転した際足元にあるべきボールが、先ほど後方に回転する際に右足かかとで蹴った時に必要以上に前に飛んでしまっていたのだ。
小竹は、慌ててボールを追いかけて、シュートを放った。が、ボールはポールに弾かれ、ゴールには入らなかった。
小竹「あぁ、くそっ!」
宮野「先輩・・・でも凄いっすよ、なんかマルセイユターン出来そうでしたし・・・!」
小竹「練習でやるくらいならある程度なら誰だって出来るさ。実践でこれを使えなきゃ、出来たとは言えねぇ。それに本当のマルセイユルーレットはこれの3倍くらいの速さはあるぜ。」
宮野「さ、3倍も・・・でも、確かにそれくらいはあるかも・・・。」
小竹「よ〜し、あととりあえずあと25本行くぜ。」
宮野「えぇ、そんなにやるんすか?」
小竹「当たり前だろ、中途半端にやったって仕方が無いだろ?」
宮野「そうっすけど・・・先輩、凄いやる気ですね。」
小竹「あぁ・・・約束したからな・・・。」
宮野「へ?」
小竹(どれみに・・・“全国大会に出場する”って約束したから・・・。)
小竹は薄暗くなった空を見つめた。
彼が知っていたのかどうかは知らないが、その方向にはちょうど、どれみの居る美空市があった。
小竹「よっしゃ、行くぞ!」
小竹は思いっきりボールを蹴った。
その時の小竹の表情は、今までの彼のどの表情よりも清々しく、輝いていた。
***
ぽっぷ「風木ちゃん、居る〜?」
魔法堂書店の入り口の扉を、ぽっぷが開け中へ入っていく。中では、風木が一人、魔法堂の片付けをしていたところだった。
かぜき「あ、ぽっぷちゃん、どうしたの?」
ぽっぷ「いや、別にどうもしないんだけど・・・暇だから風木ちゃんの家に遊びに行ったら、風木ちゃんのお姉ちゃんに、居ないって言われてさ。だからもしかしてここに居るのかなぁ、って思って。何してるの?」
かぜき「片付けしてるんだ。」
ぽっぷ「片付け?」
かぜき「魔女見習い試験も終わったから、もうここに来ることも無いしね・・・。」
ぽっぷ「そういえば・・・風木ちゃんは、魔女になるつもりなの?」
ぽっぷの問いかけに、風木は、少し寂しげな表情を浮かべて答えた。
かぜき「・・・実は、悩んだんだけど・・・魔女にはならないつもり。」
ぽっぷ「え、ならないの?」
かぜき「うん・・・。リックスと約束したから、私はこの人間界で、待つんだ。リックスが戻ってくる日を、魔女としてじゃなくて、人間として待っていたいんだ。初めはさ・・・どれみさんたちやぽっぷちゃんが、どうして魔法を捨てたんだろうって、ずっと分からなかった。魔法があれば便利なのに、なんで魔女にならないんだろうって・・・。
でも、それって違うんだよね。魔法が使えたら便利だけど、それは違う。私の家は、お父さんは働かずに外でお酒を飲み歩いていて、代わりにお母さんは一日中働きに出てて、家には遅くまで帰ってこない、お姉ちゃんは学校と家事とバイトで急がしそうで、ずっと一人だった。だから、魔法堂は私が唯一羽を伸ばせる場所だった。魔法を使えるなんていう、夢みたいな世界に逃げ込んで、現実からずっと目を背けてきた。
だけど、どれみさんたちやぽっぷちゃんと会って・・・私、逃げてるだけじゃダメなんだって気付いたんだ。どれみさんはどんな時でも私を励ましてくれた。ぽっぷちゃんは、どん
な時も私のそばに居てくれた。それは、魔法を捨てて人間として生きる道を選んだみんなだからこそ出来たことなんだと思う。
だから、私も魔法は要らない。それで、今度は私がみんなに恩返しをする番。魔法に頼るんじゃなくて、自分の力でみんなに恩返しする番なんだって、そう思ったんだ。」
ぽっぷ「そっか・・・。」
かぜき「だから私は魔女にはならないよ。」
ぽっぷ「お姉ちゃんたちと同じ決断をしたってことか・・・あ、そうだ、風木ちゃん、片付け、私も手伝うよ。」
かぜき「え?そんなの悪いよ。」
ぽっぷ「良いから、良いから。」
そう言ってぽっぷは魔法堂の奥の部屋へと入っていく。
ぽっぷ「うわ、凄いほこりじゃん、喚起しなくちゃ・・・ケホッ、ケホッ・・・。」
そう言って窓を開けるぽっぷの顔を、風木は笑みを浮かべながらただ眺めていた。
***
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