まだまだ!?おジャ魔女どれみ
第53話『おジャ魔女は止まらない!』
(2005/10/23 入稿)
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フランス、マルセイユの郊外、小高い丘からは見える景色は、目に焼き付けられないほど綺麗だった。地中海の波はとても綺麗な淡い青色をしていて、その境目は空と調和し、どこから海でどこまでが空か分からないほどだった。
メアリー「だいぶ暖かくなってきたわね・・・冬ももう終わりかぁ・・・。」
メアリー・ヒルスはそう呟くと、頬を撫でる気持ちよい風に吹かれるままに海を見つめていた。
メアリー「この景色・・・いろはが見たら、何ていうかな・・・。」
???「私が見たら、きっと“懐かしいね”って言うわ。」
メアリー「そっか・・・って、え?」
驚いて振り返ると、そこにあったのは、忘れもしない、親友の顔だった。
いろは「“懐かしいね。”海の青さも、この街の景色も、なにもかもが。」
いろはがそう言うのを待っていたかのように、心地よい風が2人の間を流れ、去っていった。
メアリー「いろは・・・。」
いろは「来ちゃった、人間界に。」
そう囁いたいろはの表情に浮かぶ笑みは、今の心地良い気温とは対象に、どこか冷たく、寂しげだった。
メアリー「・・・これでも、この街も結構変わったんだよ?」
一方のメアリーは、とても嬉しそうな笑みを浮かべながらそう言ったのだった。
いろは「そうなんだ・・・その変わったところ、案内して欲しいな・・・って言いたいところだけど・・・。今日は、メアリーに話したいことがあって、来たんだ・・・。」
メアリー「私に話したいこと?」
いろは「・・・聞いてくれるよね?」
メアリー「えぇ、もちろん。」
いろは「私ね・・・決めたんだ。」
いろはは、突然そう切り出した。
メアリー「決めた?」
いろは「うん・・・これからどうするか。人間界に戻って、またメアリーやしずくと楽しく暮らしていくか・・・それとも、魔女界に残って、こがねたちと共に生活していくか・・・。」
メアリー「戻ってくるか・・・魔女界に残るか・・・。」
メアリーはそう呟いて、いろはの次の言葉を息を呑んで待った。
いろは「私ね・・・。」
一瞬の間があく。実際はほんの数秒、いや、1秒もないような短い間だったのだろうが、メアリーにとってはそれがとてつもなく長い時間に感じた。実際そうだったのかもしれない。メアリーにとって、いろはが戻ってきてくれることは、いろはが居なくなった5年前から望んでいたことだった。
そして、いろはの口からは、当然人間界に戻る、と、そういった答えが返ってくるだろうと、今の今まで信じていた。
そう、今の今まで─。
いろは「私、魔女界に残ることにしたの。」
メアリー「え・・・いろは・・・?」
メアリーは耳を疑った。今度こそ、今度こそは人間界に戻ってくる決断をしてくれたのだと、そう思っていたのに・・・。
メアリーの期待は見事なまでに打ち砕かれた。
メアリー「嘘、よね?嘘って言ってよ・・・ねぇ、いろは?」
気が付けば、大粒の涙がメアリーの頬を伝っていた。
いろは「メアリー、ごめんね・・・本当にごめん。でも、マジョダークが死んでからの1年間、これが私が悩みに悩んで導き出した結論なの・・・。」
メアリー「どうして、どうしてなの?いろはは・・・そこまでして人間界に戻ってくることが嫌なの?」
いろは「違う・・・それは違う・・・。本当は、今このことを言ってメアリーが泣いていることも・・・逃げたくなるくらい・・・耐えられないくらいにつらいんだ。」
いろはの頬も、一筋の涙が伝う。その雫は、地面に流れ落ちたかと思うと、またすぐに新しい雫が瞳からあふれ出してきて、止まらなかった。
いろは「でも・・・親友だから・・・。だから、言わないわけにはいかないから・・・。私の気持ち・・・私が考えてることを・・・。」
メアリー「いろはの気持ち・・・?」
そのメアリーの呟きに、いろはは黙って頷いた。
いろは「私、魔女界でやらなきゃならないことがあるんだ。」
メアリー「やらなきゃならないこと・・・?」
いろは「そう。私、実は、マジョダークさんが生きてたときに、約束したんだ。どんなことがあっても、絶対にマジョダークさんに仕え続けるって・・・。マジョダークさんが地獄界出身の魔女だからって差別する人が居なくなるまで、私は魔女界で戦い続けるって、マジョダークさんと誓ったから・・・。だから、マジョダークさんが死んじゃっても、この戦いはまだ終わって
ないから・・・。
私は、まだ魔女界に残って、マジョダークさんのために戦い続けなきゃいけないんだ。もちろん、メアリーと一緒に日々の生活を送りたいって気持ちはあるし、出来るんだったら人間界に戻って、昔と同じようにこの街で生活を送りたい。だけど、約束は約束だから・・・。」
メアリー「約束、か・・・そういえば、昔、いろはが人間界に居た頃・・・。いろはが約束を破ったこと、一度もなかったもんね・・・。」
いろは「じゃぁ・・・メアリー、約束しようよ・・・。」
メアリー「え?」
いろは「もし、マジョダークさんのような地獄界出身の魔女が差別されることがなくなったら、その時は、絶対に人間界に戻ってくる。そしたら、またメアリーと一緒にたくさんおしゃべりできるし、たくさん遊べる。だから、その時まで待ってくれる?私が、マジョダークさんの意思を受け継いで、それを叶える日まで・・・待ってくれるかな?」
メアリー「・・・いろはが今まで約束破ったことないから、今回もきっと守ってくれるって・・・私は信じてる。だから・・・待つよ。私は人間界で待ってる。10年でも、20年でも、ずっと待ってるから・・・。だから、もしも約束守らなかったら・・・その時は承知しないからね。」
いろは「あはは、OK。絶対、絶対戻ってくるよ。ここに、人間界に。」
メアリー「その時は、しずくと一緒に迎えてあげる。頑張ってね・・・マジョダークさんのためにも。」
いろは「メアリー・・・ありがとう、私の気持ち分かってくれて・・・。」
メアリー「当然じゃない・・・私たち・・・親友、でしょ?」
いろは「うん・・・。」
無理につくろっていたメアリーの笑顔は崩れ、瞳からこぼれ出る涙をは止め処なく流れ落ちる。
それにつられるかのように、いろはの瞳からも再び涙が流れ落ちた。
メアリー「本当は・・・本当は、寂しいんだよ・・・。」
いろは「うん・・・うん・・・。」
メアリー「だから・・・約束破ったら・・・本当に承知しないんだから・・・。」
いろは「うん・・・絶対守るから・・・約束、守るから・・・だから行くね。だから、今だけ・・・今の間だけ・・・
『さよなら。』
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