まだまだ!?おジャ魔女どれみ
第53話『おジャ魔女は止まらない!』
(2005/10/23 入稿)
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澄み切った空、わずかに浮かぶ雲は空色と綺麗に混ざり合っている。
そしてその空の薄い青色と、地面を覆いつくす草の濃い緑色とが見事なコントラストを作り出していた。
春休みの夕日丘、ここに一人の少年が大の字になって寝転がっていた。
かずき「はぁ〜、気持ち良いぜ」
白岩一樹、美空中学校2年で、この4月から3年生になる。
大人とも子供ともいえない彼の体は、この草むらの上に無造作に横たわっていて、風が吹くたびに、彼の前髪は小刻みになびいた。
かずき「もうすぐ、中3なんだな、なんだか実感が沸かねぇよなぁ・・・。」
そんなことを呟きながら白岩は空を見上げた。ふいに、白岩の視界の一辺が暗くなった。
かずき「ん?」
白岩は、その光を遮る何かを見ようと目だけ頭の上の方へ見やった。
かずき「あ、新庄・・・。」
さつき「白岩君も来てたんだ、ここに。」
かずき「あぁ、まぁな。なんかすることもなくて暇だったから。」
そう言って起き上がり座りなおす白岩。それと同時に、さつきもスカートを折りたたんで草の上に腰を下ろした。
さつき「そっか。じゃぁ私と同じだね。」
かずき「お前も暇だったのか?」
さつき「うん。って、こんなこと言ったら受験勉強しろ、とか言われそうだけど。」
かずき「言わねぇよ。そんなこと、お互い様だろ。」
さつき「あはは、そうだね。もう4月から受験生だもんね、私も、みんなも。」
かずき「新庄は・・・、やっぱりカレン女学院受けるのか?」
さつき「うん。」
かずき「そっか・・・じゃあ寂しくなるな。」
さつき「え?」
かずき「あ、あぁ、いや、その、何だ、やっぱ新庄とも2年も同じクラスだったしさ、そんな奴ともうあと1年しか一緒に居られないって思うと、なんか寂しいなって。」
何故か顔を少し赤くしながら慌てた様子で言う白岩の話を、さつきは真剣な表情で聞いていた。
さつき「・・・私も。私も寂しい。」
かずき「え・・・春風とか相川と違う学校に行くことがか?」
予想だにしていなかったさつきのその一言に、白岩は慌てて聞き返した。
さつき「それもあるけど・・・。」
そこまで言って、さつきの口の動きが止まった。
かずき「あるけど、なんだ?」
さつき「え、いや、その・・・えっと・・・。」
さつきは、さっきの白岩のそれ以上に顔を赤くしてしどろもどろする。
─ティリリリ〜♪
突然鳴り響く電子音。それは、白岩にもさつきにも聞き覚えのあるメロディ。
さつき「あ、メ、メールだ。ちょっとごめんね。」
メールが来たことで話を誤魔化せると思ったのか、ちょっと安堵の表情のさつき。スカートのポケットから取り出した携帯電話を慌てて取り出すと、メールを確認した。
かずき「着メロ・・・瀬川おんぷの曲なんだ。」
さつき「好きなんだ、この“half point”って曲。それに、一応知り合いだからね・・・。」
さつきはメールを見ながら答えた。
かずき「あぁ、そういや春風が確か同じ小学校だったんだってな。」
さつき「うん・・・メール、お母さんからだった。」
さつきは携帯をたたんでポケットにしまうと、白岩の方を向いてそう言った。
かずき「返事しなくて良いのか?」
さつき「帰りに玉子買ってきてってさ、それだけだったから。」
かずき「あぁ、たまにあるよな、そういうメール。うちの親からもたまに来るよ、どっか出かけてるときとかさ。」
さつき「そうそう、私もよくあるんだ。」
かずき「結構うっとうしいんだよな、自分で買いに行けよな、みたいな。・・・っと、そろそろ行くかな。」
自分の携帯の時計で時間を確認しながら、白岩が言った。
さつき「もう行くの?」
かずき「もうって、俺、実は1時間くらい前からここで昼寝とかしててさ・・・。」
さつき「あ、そうなんだ。」
かずき「新庄はまだここに居るのか?」
さつき「うん、私はもう少しここに居る。」
かずき「そっか、じゃあな、また始業式に会おうぜ。」
さつき「うん。じゃあね。」
白岩は近くに止めてあった自転車に跨ると、いそいそと家路についた。
さつきは、白岩の後姿をじっと眺めながら、切なそうにため息をついた。
さつき「来年も同じクラスになれるかなぁ。」
さつきの視線は、いつのまにか空を見上げていた。空は、まだ綺麗な青色を保っていた。
さつきの元にどれみからメールが届いたのは、それから数分後のことだった。
“しずくちゃんの家に遊びに行くんだけど、さつきちゃんも暇だったら来ない?”
用件だけ簡単にそう書かれていたメールに対し、さつきは“行く!”と短く返した。
まだ夕日丘の草むらの上で物思いにふけっていたさつきは、立ち上がると、しずくの家に向かって走って行った。
***
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