おジャ魔女どれみ+α
特別編「親子の絆」
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 ここは魔女界。そう、いろはの初めての魔女見習い試験の時がやってきたのだ。いろはにとっての初めての魔女界は言葉では言い表せないほど素敵で、不思議なものだった。はしゃぐいろはを連れて、マジョセスロインはようやくピンク色でピアノの形をした見習い試験の試験会場にたどり着いた。しかし、そこにはモタとモタモタの姿は無かった。
「おかしいな・・・。」
 首を傾げるマジョセスロインとはじめて来た魔女界の風景に目を輝かせるいろはの後で、突然煙が音と共に舞い上がった。マジョセスロインはそれに気付きすぐに後ろを振り向いた。そして、煙の中から一人の魔女が姿をあらわした。
「・・・誰だ?」
 マジョセスロインのそのセリフによって、異変に気付いたいろはは素早く身構えた。
「私は・・・今日一日魔女見習い試験の試験官代理を務めることになりました。マジョマインといいます。」
 マジョマインと名乗るその魔女はいろはたちに向かって深々と礼をした。それを見て、いろはは警戒心を解いた。
「モタたちに何かあったのか?」
「えっと・・・それは・・・。なんでも今日は温泉旅行に行くとかどうとか・・・。」
マジョマインは気まずいといった感じで言った。それを聞いてマジョセスロインは深くため息をついた。
「・・・なんだそれは。まぁいい、この子に魔女見習い試験を受けさせてやってくれ。今日が初めての試験だ。」
「分かりました。それでは・・・。まず、試験の説明から・・・。」
 マジョマインはいろはの方を見た。いろはの瞳は輝いていた。
(いい瞳だ・・・)
 マジョマインは心の中でそう思いながら、試験内容を説明し始めた。浅葱色の髪に浅葱色の見習服を来た彼女は一言一句聞き逃すまいといった雰囲気を漂わせながらマジョマインの話を聞き入った。
「それでは、九級試験を始めます。用意はいいですか?」
「うん。大丈夫だよ。」
「では・・・青いみかんを出してください。」
「青い・・・みかんね。」
 いろははポロンを握りしめた。
「パーランストーン ピレドラコンピロン!青いみかんよ、出てきて!」
 いろはが呪文を唱えた時、一瞬、本当に一瞬だけいろはの首に下げていたネックレスが青白く光った。マジョマインはもちろん、マジョセスロインもその光を見ていた。
(やはりこの子は・・・)
 マジョマインは、出てきた青いみかんの皮をむいて食べると、表情ひとつ変えずに合格を告げた。

***

 日本では紅葉が始まるこの日、いろははフランスの南部、マルセイユという街に居た。父親の仕事の都合でついにフランスへ引っ越すことになったのだ。地中海に面しているこの街は、以前住んでいた北海道の街よりも緯度的に北にあるのもかかわらず、暖かかった。翌日になって、すでに親が転校の手続きを済ませてくれていたため、いろははフランスの学校へ行った。朝、いろはがもちろんフランス人である先生に連れられて教室に入ると、教室がざわめき始めた。
「えっと・・・はじめまして、藤崎いろはといいます。」
 いろはが慣れないフランス語でそう自己紹介をはじめると、教室はやや静かになったものの、まだヒソヒソ声は聞こえてきた。
「よろしくお願いします。」
 いろははそう言った後、軽く礼をした。礼をして、頭を上げるとすぐに先生が一番後ろの席に座るようにいろはに言った。いろはは言われたとおり、その席に座った。

 家に帰ったいろはは、まだダンボール箱ばかりの自分の部屋に入ると、すぐにベッドに横たわった。日本とフランスとの時差はおよそ八時間、フランスで昼の二時だったので、日本ではもう夜の十時である。まだ小学校一年生の彼女が眠いのも当然である。そして、いろはは十分も経たないうちに眠りについた。 しばらくして、何かの物音に気が付いたいろはは、目を覚ました。
「何?今の音・・・?」
 いろははあたりをキョロキョロ見渡したが、物音のなるような物は何一つ無い。そしていろはは、外が真っ暗なのに気付き、窓の外を見ると、そこには何か小さな物が飛んでいるのが見えた。
「あれ・・・?もしかして。」
 いろははおそるおそる窓に近づいてみると、そこには一匹の妖精がいた。マジョセスロインの妖精だった。
「ファーラ!どうしてここに?」
いろはは窓を開けながら尋ねた。
「やっと見つけたわよ、いろは。ここが新しい家?」
「うん。」
「あのさ、新しいMAHO堂できたから、明日でもいいわ、来てくれる?」
「ううん、今すぐいく。」
「でも、もう夜の十時よ、大丈夫なの?」
「え、もう十時なの?」
 いろはは家に帰ってから八時間も寝ていたことに、このときやっと気が付いた。
「でも、大丈夫だよ。それに、どうせ眠れないし。」
「時差が八時間ぐらいあるからね。慣れるまではしんどいでしょうけど・・・。まぁいいわ。ついておいで。」
「うん。分かった。あ、ちょっと待ってね。」
 いろははそう言うと、ポケットから見習いタップを取り出し、タップのボタンを押した。そして、いろはは見習い服を着終えると、箒を取り出してそれにまたがった。
「お待たせ〜。じゃぁ、行こう。」
いろははファーラの背中を追って空を飛び始めた。
「あ〜そういえば晩御飯食べてないや。おなかすいてきちゃった。」
「心配ないわよ。何か食べ物ぐらいならあるから。」
「そっか。」

***

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