「回顧」を意味する "Retrospective" と冠されたこの CD アルバム。

アナログ・ディスクに発するスクラッチ・ノイズの反復と
けだるい女声ヴォーカルが絡み合い、心地良い波を創出する曲が幕を開けます。

しかしそれは、ノスタルジックな雰囲気を楽しむ為のものとはちょっと違う感じがします。
何せ曲名が、"Strange New World"。

過去に忘れ去られようとしているかのエレメントを組み合わせてみれば、
立ち現れて来るのは何と神秘的でさえある見たことのない世界。

既視感を覚えるのに、見たことがない。

過去に存在したことのないものが懐かしさにも近い求心力を与えられるこの世界。
ここに収められた音楽は、世界のゆがみが成り立つプロセスそのものを表すのかも知れません。

そして、そんな激しいゆがみの中でさえスティーヴは一点の曇りもない眼差しを投げ続けます。
何故か見ることのできなかった世界に向って。

日常であれ超常であれ、そこには見ることのできる世界と不可視の世界が共存しています。
そんな、不可視の世界を在るものとして認めるヴィジョン。

この CD に収められた音楽には、漫画のように素っ頓狂な風情を持った光景が次々に現れるけれど
そのどれもが世界の一部であり宇宙である。

スティーヴの意思が、音響の隅々にまで充満している、
まさしくヴィジョンの世界でしょうか。


あちこちに都会への愛惜残しているような雰囲気もありますが、
精魂傾けてヴィジョンの力を守ろうとする意思が顕かなアルバムだと言えます。

スティーヴにとってはマニフェスト的性格を備えるアルバムなのかな?

ファースト・ソロなのだから、
あながち的外れな憶測でもないでしょう。




なお、 "Retrospective" はロサンジェルスのレーベル Transparancy から
カタログ番号 0005 として出版されています。

初出は、1998-99 年辺りでしょうか?

左がレギュラー CD として出版された初出盤のジャケット。
右が絶版後にスティーヴが CDR で自費出版した際のジャケットとなります。

なお、この CDR 版からの図版を当ページ・トップに掲げております。


「透明」を意味する transparency からはもう一枚のレギュラー CD

Folding Pineapples

が、出版されています。

カタログ番号 0026。
どうも 2000 年に出版された模様であります。




振出しに戻る / Going Home




初版 2004年8月16日