ある私立中学校の靴置き場で少年はあぜんとしていた。
少年が靴を入れるロッカーがチョコレートで埋まっていた。
よくそういう漫画があるがまさか自分の身にそんなことが起こるとは。
「あー・・・。」
少年は諦めと疲労感からため息をついた。
そして、一個一個丁寧にとりだす。
びっしり詰まっていたので結構時間がかかる。
「おおっ、アーク!もてるなー、お前!」
友人で銀髪の少年が言った。
「で、で?本命からはもらえたのか?」
うっ、鋭い。
一回も好きな人がいること、言った事ないのに。
「いや、くれるわけないから。」
「ほおほお、切ないねぇ。」
アークはチョコレートをカバンに無理矢理しまいこみ、生徒会室に向かった。
生徒会室に着くまでにだいぶかかってしまった。
「おはよう、ダグラス、リオン。」
二人とも、機嫌が悪そうだ。
どちらもソファにもたれかかっている。
来なきゃよかったかも。
赤毛のダグラスが口を開く。
「おはよー・・・・こんにちはー・・・・こんばんはー・・・・。」
「ダグ、ちょっと大丈夫?まさか、昨日の数学の抜き打ちテストに引っかかったの?」
「そうよ。」
リオンがこたえた。
「再試、再々試、再々再試・・・・・付き合ってあげたけど、あれは疲れたわ・・・。」
そう、なぜか塾で二年生だけ抜き打ちテストがあったのだ。
だいたいの科目は二人ともクリアしたが、ダグラスは超苦手科目の数学に引っかかっていた。
「で、この机の上においてあるチョコは・・・やっぱ、ダグの?」
様々なチョコがある。
「やっぱり、非常用食にとっとくべきかな?」
「たぶん、そういうものじゃないと思うけど。生チョコとかは容赦なく期限切れになるわよ。」
「ふ〜ん、じゃ、ぼちぼち食べろってことか。」
「まあそういうことね」
そういったリオンの視線を追うとチョコがあった。
「で、この机の上においてあるチョコは・・・やっぱ、ダグの?」
義理チョコと思しきものものもあれば、手作りっぽいものもある。
「ううん・・・・それが違うのよ・・・。」
リオンがため息をついた。
「それ、半分は私宛のチョコ。」
「バレンタインデーって普通女性が男性にチョコ渡すよね。」
「それが、格闘技ができて力があるせいか・・・くるのよ、私にも。姉御ー!って・・・。」
うっ
アークはリオンにちょっぴり同情した。
「ダグの試験を待ってたから、チョコ作るのが徹夜になっちゃって・・・眠いわ・・。」
そこにまたしてもデュリーがやってきた。
「おはよー!」
よく通る声で挨拶をする。
「おはよ。」
「・・おはよう。」
「&%#$%((((''&%&%%&~」
それぞれが挨拶する。
「ダグ、ちょっと寝たら?宇宙人みたいになってるよ。」
そう言うとダグラスはソファにもたれかかった。
「全くもう。」
リオンはそう言ってから寝てしまったダグラスの腹に手作りと思しきチョコレートを置いた。
「あたしはあんまり料理できないんだから、期待しないでよ。」
ああ、今日だけで何人ふっただろう。
学校の帰りの電車で考えた。
朝は怖そうな女子が五人集団で迫ってきて、昼は木刀で殴られ、授業終了後はしょっちゅう呼び出され。
しかも、この一ヵ月後、ホワイトデーという嫌な試練がある。
ふった女の子をどうしろというのだろう。
ふらふらとそんなことを考えつつアークは家に着いた。
あれ、玄関先に何か置いてある。
高級メーカーのチョコだ。
アークはそれを手に取り、一緒にくっついているメッセージカードを見た。
「ハッピー・バレンタイン エリィシア」
これは素直に嬉しい。
たぶん義理チョコだろうが本気で嬉しい。
ちょっと疲れが取れた気がする。
アークは一人、にこっと笑って玄関を開けた。
END
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*atogaki*
バレンタインです、いかがでしょうか。
みんなチョコもらってます、リオンまで。
ホワイトデーも書かなきゃいけないかなあとひっそり思ったり。