天空大陸上の都市ティカーノ。
少年一人では市の中心部から程近いスラムでコーヒーを飲んでいた。
オープンカフェになっているので見通しがいい。
拳銃による攻撃にはちゃんと魔法で対抗できるようにしている。
少年はとにかくゆっくりとコーヒーを飲んだ。
客は少年の他にもいて誰も彼も貧しそうな身なりだ。
もちろん少年も貧弱な服を着ている。
目当ては、エフラム=フリムだ。
なぜこちらの命を狙ってくるのかわからないが、決着はつけるべきだろう。
マメ知識を少年は思い出していた。
エフラム=フリム、国家反逆罪によって死刑が確定している。
現在逃亡中のため、彼の首には賞金がかかっていた。
殺せば2ジェネラルほどになるだろう。
別にこちらに手を出してくるのをやめるなら殺す必要はない。
金は奨学金がある。
そして、彼の妻と娘と息子はすでに処刑され、処刑された人間専用の墓地に無造作に埋められている。
少年は暖かいコーヒーを飲んだ。
いくら晴れているとはいえやはり冬のオープンカフェは寒い。
雪が降らなかっただけでも良しとしなければならないだろう。
ゆったりしていると、店の店主に話しかけられた。
「久しぶりだな、アークさんよ。」
「マスターこそ久しぶり。今日は客の入りが悪いの?」
店主は背筋のしっかりした白髪の男だ。
これでも昔は賞金稼ぎで、今でも賞金首を受け付け首の代金を支払ってくれる。
要するに彼も曲者ではある。
「そんなことはないな。そっちこそ不景気なツラしやがって。大学なんぞに進んだおぼっちゃまが何のようかね?」
「人を待ってる。」
アークは短く答えた。
それは確かだ。
エフラム=フリムを処分するためにここに来たのだから。
「ま、大学生もいろいろさ。」
「ほう、言うな。昔、賞金首を山と持ってきたつわものがおぼっちゃんになるんだ、世の中わからないな。」
「人の過去を堂々と言うの、やめてくれない?」
アークは店主をにらみつけた。
店主は肩をすくめて店内に戻っていった。
確かに賞金稼ぎとして人を殺しまくっていた時期もあるが、はっきり言ってもう忘れたいくらいの思い出だ。
殺された側としては忘れられてはたまったものではないだろうが。
コーヒーも残り少なくなってきた。
店主に再度注文しようとすると。
アークの視界でボロ布をまとった男が動いた。
顔は知っている。
エフラム=フリム。
アークは慌てて代金を払って店を出た。
方向感覚はなくても男を追跡することはできる。
男は誘い込んでいるのか狭い路地ばかりを選んで通った。
追いかけにくくて仕方がない。
アークも男も走っていた。
肩がぶつかっただけで刺し殺される世界なので、人にぶつからないように気をつける。
しばらく走ると道は行き止まりになった。
そして、道の影になるあたりから10人以上の嘱託殺人業をしていると思われる男女が出てくる。
「コイツを殺してくれ!」
エフラム=フリムが叫ぶと、彼らは襲い掛かってきた。
アークも慌てず、魔術でけん制する。
「放たれよ光の矢!」
アークが叫ぶと光る矢がアークと嘱託殺人業の人々の間をすり抜ける。
相手の細身の剣による攻撃を左に避ける。
左の男の大剣の攻撃は手持ちの短剣で受け止めた。
「響け!雷鳴!」
アークが魔術を放つ。
アークの頭より少し上の範囲で電撃が広がる。
これで一気に刺客の数が半分に減った。
刺客がひるんだ隙に今度は短時間で魔法を唱える。
これまたアークの頭上に怪しい霧が生まれた。
真っ黒な霧だ。
上へ上へ上がる性質があるため、攻撃範囲にアークは入らない。
「浄化!」
刺客の一人が魔法を使う。
あっという間に怪しい霧は消え去った。
ちぇっ。
逆に。
「炎よ、焼き尽くせ!」
刺客が魔法を唱え、炎に被われた蛇が出現する。
そのころ、アークは別の刺客の剣戟を受けていた。
かすったため腕から少量の血が出る。
「聖なる水よ、浄化しろ!」
アークも魔法を唱える。
炎の蛇に水を浴びせかける。
蛇はあっという間に消えた。
目の前の刺客に針を投げる。
見事に命中し、目の前の男は倒れた。
残る刺客は二人。
「これで最後だ!」
アークは白い炎で×マークをかけるような炎を出した。
最後に残った刺客もこの攻撃で死んだ。
アークは路地の隅にいて難を逃れたエフラム=フリムにつかつかと向かっていった。
エフラム=フリムは逃げようというそぶりは見せなかった。
逆に短剣を持ち出す。
彼の体が震えていた。
「か・・・返せ!」
はい?
アークは心の中で首を傾げた。
刺客なら全員殺したが、この場合の返せというのはもっと深刻なことだろう。
「返せ!お前の顔の女がわたしから全てを奪った!返せ!」
アークは納得した。
多分、アークの母親のことだろう。
アークの顔は完全に母親似だから。
「わたしの妻を息子を娘を返せ!」
そんなこと僕に言われても。
死んだ人間は二度と取り返せない。
それは常識のはずだ。
「わたしを返せ!」
そう叫ぶと、エフラム=フリムは短剣で襲い掛かってきた。
アークは短剣を構えなおして、その攻撃を受けた。
「そんなに後悔するなら女と付き合わなきゃいいじゃないか!妻もいたんでしょう!」
武術は全くできないはずだが、エフラム=フリムはアークが内心慌てるほど力を発揮した。
「誘いかけてきたのはお前じゃないか!返せ、・・全てを返せ!」
アークは短剣を振るった。
アークの短剣はエフラム=フリムの短剣を叩き落し、彼の頚動脈を切断した。
大量の返り血がアークの服に付く。
エフラム=フリムは虚しくなるほど軽い音をたてて倒れた。
アークは少し考えてから、エフラム=フリムだった死体の首を持ち上げた。
そして、切断する。
さっきのカフェに持って行けば、金になるだろう。
アークは死体の頭をわしづかみにしてカフェに向かった。
アークは頭と金を交換してから、瞬間移動魔法を使って寮に帰った。
臨時収入だ。
この金でゲームでも買おうか。
血が付いた服はすぐに脱いで、魔法で焼却する。
新しい立派な服ならある。
アークが新しい服をおろしていると、部屋のインターホンがなった。
「はーい!」
「俺だ。」
どうも友人が来たようだった。
アークは彼は休み中は実家に帰るだろうと想像していたので少し意外だった。
「暇だったら遊ばねぇか?アクションゲームをやってるんだ。」
「あー、やるやる!ついでに面白いソフト教えてー、休み中にちょっと遊びたいんだ。」
「わかった。」
アークは話しながらも何とか服を着替え終わった。
床に血糊はついていない。
それを確認してドアを開ける。
「なにやってるの?」
「アクションだな。爽快だぞ。」
「わー、楽しみ!」
こうして、一日はむごいことも悲しいことも楽しいことも吸い込んで終わっていった。
END
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*atogaki*
書いてみたら予想以上にブラックになりました。
友人の意見じゃないけど、ちょっと暗すぎかも。
う〜ん、最初はもう少しソフトだったんだけどな。
やはりアクションは苦手です、ハイ。
ぎこちない文章ですいません。