光と希望



天空大陸上の都市ティカーノ。
その中でももっとも豪勢な建物の中に少年はいた。
おりしも今日は移民祭、帝宮には要人たちが招待され立食式パーティーが行われていた。
移民祭とはこの大陸に移住しそして互いが出会えたことを喜ぶ祭りである。
まあ、絆にもあっていいものから悲惨な絆までいろいろあるわけだが。
招待された理由はスラムとの交流を断たせたい、というところだろう。
帝国の兵士として働くに当たってはそういうことを要求せざるおえないだろうから。
さあ、まずは、挨拶だ。
皇帝陛下を探す。
皇帝陛下は今別の人間に挨拶されていた。
彼に挨拶すると思うとドキドキする。
まさかこんな場でいきなり死刑を宣告されることはないと思うが、ちょっと不安だ。
前の人の挨拶が終わる。
アークは皇帝陛下に近づいた。
皇帝陛下は30代くらいの容姿で、とてもこれから即位1000年を迎えるようには見えない。
「本日はこのような宴に私を招待していただき、ありがとうございました。」
そう言うと皇帝陛下は鷹揚に頷いた。
そして少し笑顔になる。
「あなたは幼くして大学で勉強されているとか。私も誇りに思います。」
「たいしたことではありません、陛下。」
少年の緊張は少し高鳴る。
今ここで自分が皇帝の息子の一人だとばれたらどうなるだろう。
やはり死刑を宣告されるのではなかろうか。
いや、それ以前にアークは大学に入るまで賞金首だったのだ、その方がまずいかもしれない。
アークは人が待っていることに気付いた。
「では、失礼いたします、陛下。」
「ではこの宴を十分に楽しまれてください。」
アークはやっと皇帝陛下から解放された。

 少年が壁際で少し休んでいると。
「まあ、アークさん、あなたも招待されていらしたんですね。」
友人の双子の妹二人に話しかけられた。
以前彼女たちのパーティーに出席したことがあるので、一応顔は知っている。
「僕のような卑民にお声をおかけいただきありがとうございます。」
「いえ、そのようなことはありませんわ。本日は、これを持ってきましたの。」
そう言って双子のうちの一人が小さめの紙袋を取り出した。
きれいに包装されている。
「アークさんは今日、誕生日でいらっしゃるでしょう。以前パーティーに来ていただいたお礼ですわ。」
「僕ごときがこのようなものをいただいてもよろしいのですか?」
「ええ、そのために買ったんですもの。」
そう言ってアークにプレゼントを渡す。
アークは遠慮しつつ受け取った。
受け取ったということは来年も彼女たちの誕生日パーティーに出なければいけないということではなかろうか。
一張羅しかないのにまた行くのだろうか。
アークも今成長期なので来年も今年のスーツがはいるかどうかはわからないが。
「ありがとうございます、姫君。」
「おだててもこれ以上のことはできませんわ。」
「嬉しい言葉ですわ、姫、ですって!」
いろいろ別のことを考えつつ、アークはぼんやりと話をしていた。
「僕の身分からすれば姫君ですよ。僕はただ大学に合格して勉強させていただいてるだけですから。」
「まあ、それがすばらしいことです!私たちより年下でいらっしゃるのにもう大学でお勉強だなんて。」
パーティーは盛況しているようだ。
テーブルにさまざまな料理がのっていてどれもおいしそうだ。
正装した人々がパーティー会場を行きかっている。
使用人とおぼしき人々が時々料理をチェックしている。
ちょっとよだれが出そうだ。
「おい、そろそろ解放してやれよ。」
大柄な青年が妹達に声をかけた。
「フリスクお兄様。」
妹二人が大柄な青年の方を向く。
「ほら、コイツ変な脂汗かいてるぞ。」
皇帝陛下に挨拶したときの脂汗がまだひいていなかったらしい。
「ごめんなさい、アークさん。さ、私達も料理を食べに行きましょう。」
双子のうちの一人がそう言うと、二人は料理をのせる皿を探しに行った。
「悪いな、どうしてもあいつらがお前に何かプレゼントしたい、と言い張ってな。孤児だから気の毒だとでも思ってるのかもな。」
アークは首をかしげた。
もっとまともな親が欲しいと思ったことはあるが孤児だから気の毒、と考えたことはなかった。
親がいないのは当たり前だったし、友人もたいてい孤児なので大して意識したことはない。
「失礼な話ですまんな。ちなみにあそこに置いてある小さい揚げ物うまいぜ、ピザを上品にしたみたいな味がする。」
フリスクが薦めてくれた揚げ物を食べに皿をとりに行く。
皿は比較的早く見つかった。
しかし、揚げ物のあるテーブルが見つからない。

 そうこうしているうちに、アークは窓際に行ってしまった。
ここまで来るともう料理の匂いすらしない。
引き返そうか。
そう思いつつもアークはちらりと外を見た。
地上が明るすぎてあまり星は見えない。
ついでに見てしまった。
不審な男性が帝宮の庭を歩いているところを。
アークのしっかりした目は、男の正体を見破る。
名はエフラム=フリムといい昔は貴族として国に仕えてきたが、国家反逆罪によって今は追われている男だ。
立派な賞金首である。
しかし、アークは見逃すことにした。
一張羅を汚したくないし、今はそんな気分じゃない。
アークは再びピザっぽい揚げ物を探しに戻った。
END




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*atogaki*
結局祭りっぽいのはここまでなのでUPしました。
アンケートにお答えいただきありがとうございました。
この後はだんだん気持ち悪い話になるだけです。