セント・・・バレンタインデー


天空大陸、アーガスティン国立大学寮の一室。
そこでは四人の人間が自由に過ごしていた。
端正な顔立ち、青い瞳の青年は分厚い書類を見ており、体格のいい茶色っぽい髪の青年は専門的な辞書らしきものを読んでいる。
黒い髪、濃い茶色の瞳の少年と、深い緑の髪の青年は携帯ゲームの対戦をしているらしく、手に持った小さめの機械をカチャカチャと動かしていた。
「あ、ディトナ、ずるっ!」
「ずるいも何も。」
「と見せかけて、アターック!」
「あ。」
「やりぃ、勝ちっ!」
「残念。」
少年が勝ち誇った笑みを浮かべた。
ディトナと呼ばれた青年は、無表情に自分のゲーム機を見つめている。
「今年はここにいるからまだいいものの・・・試練は宅配業務のスタート時間に始まるな・・・。」
分厚い書類を見ていた青年が、部屋の時計を見て、深刻そうな顔つきで言った。
辞書らしきものを見ていた青年が不思議そうに、
「フリードリヒ?何かあったっけ?」
と言うと、フリードリヒはため息をついた。
「あるだろう、今日はバレンタインデーだ・・・。去年は義理チョコの山と嫌がらせチョコに悩まされたが・・。」
「うっ、思い出させないでほしかった・・・・っ。」
「フリスク、宅配便が来てから気付くのとどっちがいい?」
「アーク、おぼえてたのか?」
「まぁね。ボクも最近、いらない小包がくるから、警戒してるんだ。」
アークは顔をしかめた。
思い出すだに腹立たしい。
最近、地下社会のどこかで再編成でもあったらしく、挑戦状と受け取れる小荷物がよく届く。
例えば、動物の死体、時計がカチカチとうるさい物体、有害薬品入りの食品、などなど。
ほんと、イヤな世の中だよねぇ。
「毒入りを見分けるのが大変だ・・・毎年・・・。」
「オレもきっついぜ、毎年。お返しもバカにならん・・。」
上級貴族の一員とみなされる立場のフリスクとフリードリヒの表情は深刻だった。
贈らなければ贈らないで角が立つ、贈れば贈ったで当人達はこうなっている、世の中ってややこしいよね。
「で、なんでお前はそんな小包がくるんだ?」
フリスクがアークに話を振る。
「知らないよ。贈ってくる人にでも聞いてくる?」
「そんな面倒そうなヤツに会いたくない。」
フリスクは即答した。
この会話の間、ディトナは無表情に頷いたりしていたが、ここで冷静に言った。
「つまり、今日も危ない、と。」
ディトナ以外の三人は、いちように恨めしそうな目線をディトナに向けたが、文句は言えない。
その通りだからである。
「はい、そーです・・。」
アークはイヤイヤながら、といったかんじで肯定した。


 試練は事務室から回ってくることになった。
宅配の受け取りは事務室が一括して行っている。
事務室で危険と判断されたものは、寮内には出回らないようになっているのだ。
「でも、事務室の目を当てにはできんからな・・。」
事務室によってまとめられ、義理、本命、危険物がごちゃごちゃに入ったダンボール箱を持ちながら、フリスクが言った。
「階段を上がるのが一番の試練だ。」
同じような内容のダンボール箱を持ったフリードリヒが呻いた。
「僕よりましじゃん。」
なぜかフリスクやフリードリヒ並に大きいダンボール箱を持ったアークが言う。
「っつーか、何で僕にまでこんなにくるの?」
「私も疑問。」
他の三人よりはまだ軽いダンボール箱を持って、ディトナが首を傾げた。
「あー、多分、俺たちの巻き添え。将来は出世しそうとの見込みつき。」
「中身はともかく、外観は子供だから、甘い菓子でごまかせるとでも思っているのだろう。」
「ちぇー、ごまかされるわけないじゃん。そういう頭で大学入れるかっつーの。」
「私は子供ではないけれど・・・。」
「たとえ人造人間でも、贈っておいて損はない、と考えるのだろう。相手は金の余った人間ばかりだ。」
「フリードリヒが言うと、嫌味だね。ヒューヒュー。」
「アーク、お前でも嫌味だぞ。今年の税金の申告、所得がいくらになった?」
「うーん、ほとんど金貨に換えちゃったから計算に苦戦してる。」
「金貨?通貨ではなく?」
「うん、ここの通貨いつ暴落してもおかしくないし。金貨が賢い選択だと思うけど。」
「国家転覆の意思でもあるのか、お前は。」
「気をつけろ、国家転覆の前に階段で転覆するぞ。」
「うっ、前が見えない!」
「重心の移動がつらい・・・っ!」
「おい、大丈夫か?二人とも。」
「アーク、手伝う?」
「ディトナ、ありがと。いいや、時限爆弾入ってるとまずいし。」
「!おい、コラ!何かさっき危険な単語が出たぞ!」
「大丈夫だって。あ、ホラ、階段抜けたから、部屋はきっとすぐそこだよ!!」
「ごまかすな!!時限爆弾だと!!??」
「まあまあ、穏便に。ね?」
「ね?じゃないっ!」
そんな微笑ましい会話をしながら部屋に着くと、四人はダンボール箱を床において一息ついた。
「で、時限爆弾って、何なんだ?」
フリスクが聞くと、アークは答えた。
「ある一定の時間が経つと爆発する爆発物だよ。当たり前じゃん。」
そう言いながら、アークは魔法の起動の準備をし始めた。
「そりゃそうだ。聞きたいのは常識じゃないんだが。」
フリスクも魔法の起動準備に入る。
「まさか、送られてきたとでも言うのか?」
フリードリヒも魔法の起動準備に入った。
「うん。で、全員分調べた方がいいよね?」
アークが返事をしつつ確認すると、
「うん、で済ますな。とりあえず、全員分だな。」
とフリスクもきっちりと返答した。
「じゃあ、覚悟を決めて、行くぞ。」
フリードリヒがそれこそ爆弾の塊を見るような目で箱の群れを見ながら言った。
「了解。エクスプローラ、起動!」
ディトナが一番手になると、
「探査モード、スタート!」
アークも続き、
「分析開始!」
「検索起動!」
とフリードリヒとフリスクも続いた。
こういった危険物を判別する魔法は、一般的に判別された危険物は赤く光る。
しばらくすると。
「上のほう、全部赤いぞ!」
「うわ、やべっ!!」
「げっ、カチカチという音と腐敗臭が・・・。」
「ゴミ箱、どうしよう。」
「しまった!!どこに捨てる!?」
「燃えるゴミと燃えないゴミがいるよね?リサイクルは?」
「分別する余裕なんかあるか!何でもいいからデカイ入れ物!いらんものがいい!!」
予測された事態ではあるが、てんやわんやの状態になった。
アークが適度な大きさの箱を持ってくると、たちまちそこにゴミが集まる。
「ねーねー、接着剤ない?」
「ない!どうした!?」
「この爆弾の時計の針さー。」
「範囲区切って爆発させてろ、できるだろ!?」
「くそっ、何でとりにくいところに赤印が!」
「終わった。手伝う。」
「サンキュー、外れが多いみたいで苦戦してたんだ。」
「爆弾の時間だけ止めてみたんだけど、分解して分別して捨てなきゃだめだよね?」
「火薬だけ、しけらせてから捨てろよ。」
「臭い!今度は何だ!?」
「ごめん、何かの死体だと思う。見たかったら見ていいよ。」
「誰が!!」

 分別後、四人は真剣に中身をチェックしつつ、入っていたものが食べられるものなら食べることにした。
「なあ、俺にクマのぬいるぐるみ贈るヤツの意図は何だと思う?」
「不釣合いが趣味なのだろう。」
「何で子供に腕輪なんか贈るの?」
「いつもお前、右腕に何かアクセサリ着けてるからだろ。」
「ちぇー、メモっといてお返し考えないと。」
「?手紙?」
ディトナが声を上げた。
「ん?ディトナ、珍しい手紙でもあったのか?」
フリスクが苦笑いして言うと、ディトナは頷き、いつもの平坦で感情のこもらない言い方で手紙を読み上げた。
「そう。「あなたの美しく、真実のみをしか写さぬような瞳。しなやかな肢体。たくましい、動き。全てのものに惹かれます。」ええと・・。」
「読まんでいい。ラブレターだろ?」
フリスクが止めると、ディトナは無表情に手紙を見つめなおした。
「何レター?」
「え?ラブレターだよ。」
アークがきょとん、と言った。
「ラブレターを知らんということはないな?」
フリードリヒが念押しの色の濃いことを言うと、ディトナはあっさりと返答した。
「ある。何?それ。」
「恋文だって。よーするに、せつせつと相手がいかに好きかを訴える手紙だよ。」
「それ、どうすればよいもの?」
これには、フリスクが答えた。
「人それぞれだからな。」
「そうだな。ホワイトデーまでにどこかで調べて、きちんとした扱いでも学べ。」
「そうする。フリードリヒ、ありがとう。」


結局、荷物は一日中届き続け、うんざりするほどの菓子や贈り物、危険物の山ができ、この調子で作業はえんえん続きましたとさ。
END




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*atogaki*
atogaki
手抜き作品。勢い先行。
一応、続編があるつもり(墓穴?)。
ど、ど、どーしましょ?