天空大陸上の都市、ティカーノ市の中心部。
アーガスティン大学寮の一室では、通信販売のカタログが大活躍していた。
「あー、どうするかなー。」
大柄な青年がカタログを見ながらうめいた。
「フリスク、静かに見てろ。」
イスに座って優雅にカタログを見ていた美青年が、半眼になって言った。
「うっとーしいのはすっごく理解できるけどねー。フリスクもフリードリヒも代理人でも立てればいいのに。」
ベッドに転がりながら、やはりカタログを見ていた少年が言った。
「世の中そううまくはいかないものだ・・・。学生で暇だろうから自力でやっていろと、当主に言われて逆らえるか。」
「俺もフリードリヒとほとんどいっしょ。金持ちの基本原則、無駄な金は使うなってやつさ。学生だし、暇だろ?とか言われると・・・。」
「そう?私たちは、多分、他の人に比べて忙しいと思う。」
棒読み口調で言って、無表情な青年が首を傾げた。
「いや、兄貴や姉貴はもっといそがしいぞ。」
「・・・父や兄に比べれば・・・。」
「うかつに比較すると人間関係にひびが入るからノーコメント。」
三者の答えに満足したのか、青年は表情を動かさずに手元の紙とペンに視線を落とした。
「アーク・・・どれぐらい進んだ?」
フリードリヒが尋ねると、
「えーっとね、まともな分は9割、お礼参りはまだ3割くらい。」
と少年は言った。
「うそ!?げげっ!俺が一番遅いのか!!」
フリスクが叫んで、通信販売のカタログをより真剣に見た。
「でも、お礼参りも入れると、僕が一番遅いんじゃない?どうしてもお礼参りは手作りだから。」
「そんなものが売っててたまるか!って、お前、そんなにきたのか。」
「そうなんだよ、大漁だったんだよ・・・チェッ。」
フリードリヒはこの物騒な会話には加わらないと決心したらしく、黙々とカタログを見ている。
「ディトナは終わった?」
アークが無表情に紙とにらめっこをしている青年に話しかけた。
「・・・まだ。」
「ディトナは多少大味でも怒られないだろ。っつーか、まだだったら、さっさとした方がいいぞ。このカタログ、フリードリヒが持ってきたやつだから、フリードリヒに愛想尽かされると自力でがんばることになるぞ。」
「それは終わった。困るのは返事・・。」
ディトナは穴が開きそうなほど、手に持った便箋を見つめた。
「やっぱ、断るの?」
「当然。よくわかりません、と言うつもり。」
「そのまま書くなよ、あとで余計に迫られるぞ。」
「そうだろうな。"ごめんなさい、そういうことはそういうことはよくわからないのでお断りします"などと書いて、あとで本当に迫られたバカもいるしな。」
フリードリヒが横目でフリスクを見ながら言った。
「すごいよ、ある意味。マジでやったんだ、フリスク。」
「フリードリヒー!それを言うなよ!」
「ふん。泣きついてきたのはどこの誰だ?」
「フリードリヒに頼ったんだー。」
「こいつ、高校生にもなってそんなことやってたんだぞ。」
「・・・私は大学生なのに・・・。」
「ディトナは気にしなくていいって。実質稼動して何年?」
実質稼動とは、生まれてから実際に人間として活動し始めるまでが長い人造人間が、実際に人間として活動している年月の長さを指す。
肉体的には若い男性または女性であることが多い人造人間の年齢である。
「今年で6年。」
「ならいいって。フリスクは稼動して16年から18年で、似たようなことやってるんだから。」
「あっ!しげしげとこっちを見るな!アーク!!」
「だって、その通りじゃーん。」
「この場合、アークが正しいな。ところで、終わったか?」
フリードリヒが尋ねると、フリスクは言葉に詰まった。
「終わったー!ありがとー、フリードリヒ。」
「いつの間に!」
フリスクの一言にディトナが答えた。
「アーク、話しながらカタログ見てた。印もつけて、メモもしていた。」
「わー、ディトナ、よく見てるねー。」
「手紙の文面が思いつかなくて、つい。」
アークとディトナの会話は和やかだった。
「わーっっ!待ってくれー!!」
「・・今日の午後三時までだ・・。」
「努力するからー。」
「努力はしても結果が出なければな。」
フリードリヒの一言でアークは目を見開いた。
何かを思い出したらしい。
「お礼参り用のヤツ、作んなきゃ!三時までに宅配に出さないとホワイトデーに着かないよね!」
「そんなものをいちいちホワイトデーに届ける必要があるのか?」
フリードリヒが思わず聞くと、アークはニヤリと笑った。
「小さいこだわりだよ。友達によると、そういうものがないと、人生つまんないんだって。」
その日の午後三時ごろ、「小さいこだわり」のせいか、四人が締め切り地獄を見る羽目になったのは言うまでもない。
END
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*atogaki*
結局、03/15に紙に話を一旦だーっと書いてから、メモ帳に打ち込んだ話。
妙にドライアイでパソコンの画面見るのがつらい・・。
ええっと、いかがでしょう?
走り書きに近いんだけど・・・。
一応、ホワイトデーでした。