HOME > 矯正歯科講座 【た】 > 中心位(ちゅうしんい)
矯正歯科講座
中心位(ちゅうしんい)

顎位 ってなに?

通常、私たち(矯正専門医)が、顎位が〜と話をする時は、その人が本来持っている中心位(CR)に対する、その人がたまたまその場所で日常的に噛んでいる場所(CO)までのズレの量を言います。その人が本来持っている中心位をどのようにして求めるか はとても難しいのですが、日常診療ではドーソン法という方法で確認をしています。数字でズレの量を調べようと思ったら模型を中心位マウントで咬合器装着を行い、MPI、CPIなどの計測器で読みとります。アキシオグラフでオクルーザルクラッチを用いれば、顎運動機能検査の一つとして採得も可能です。しかしながら、人はしばしば、顎関節の状態が壊れていたりしますので、中心位そのものが存在しないこともありますし、スプリント治療を行っていくと、みるみる中心位と思われていた場所が変化する事もあります。いずれにしても、かみ合わせとして適切なのは、中心位(CR)、もしくはそれに準じたストレスの少ない、機能的に問題の無い場所であるべき と考えられています。

なにがなんでも下顎頭の位置はCR?

さすがにCRを求めるためのスプリント治療は、全症例に対してはやっていませんが、なるほど確かにやった方が良かったかな と思うことも多いです。というのも、本来のかみ合わせの位置がどうあるべきなのか と考えたとき、はたしてドーソン法で確認できた場所が正解なのか・・・これには疑問がつきまといます。実際には、現在の不正咬合でいろいろな修飾をされた関節の環境ですので、スプリントやオーラルリハビリテーションなどで安静化を図った後に、明らかとなっていくと思われます。

<関節円板がほぼ正常な位置に存在しているケース>
概ね、ドーソン法やパワーセントリックなどで導ける顎位で問題なさそうです。しかし、僅かな顎位のズレがハイパープラスティックな関節円板へと変化させているかも知れません。もしかすると中心位だと思っていた場所はジワリと変化する可能性もあります。顎関節の形態に僅かな変形があったり、顎運動に僅かな乱れでもあれば、スプリント治療からの開始をお勧めするでしょう。スプリント治療によって、もう少し、タイトな顎関節の環境が得られたり、十分なシーティングに伴って、関節結節を十分に用いる事が出来るようになり、咬合にてディスクルージョンが容易となる好ましい変化が期待出来ます。また、関節頭が十分シーティングされる事で、トランスバースの遊びも消えます。すなわちイミーディエイトサイドシフトが減少します。適切な前歯、臼歯のミューチュアリープロテクションとこの関節環境が合わさると鬼に金棒です。

<関節円板が完全に転位しており後部結合組織がシュードディスク化しているケース>
ディスクディスプレースメントで非復位性もしくはレイトクリックを示しており、それほど顎位のズレが顕著でなく、骨変形も収束した安定した状況ですと、概ね、ドーソン法やパワーセントリックなどで導ける顎位で問題なさそうです。ただし、顎関節内障インターナルディランジメントとしては、進行したタイプと考えられるので、今後の関節頭の変化には注意が必要でしょう。治療的顎位セラポイティックポジションもエリアでしか特定出来ませんが、大きな臨床症状の見られない経過も期待出来ます。

<関節円板が僅かに転位しているが、明確なクリックは触知出来ないケース>
僅かに関節円板が転位できる顎関節環境である事が推察されます。本来ならば関節円板の中央狭窄部で関節頭がタイトに収まってなければいけない所が、後方肥厚部が抜け出る事が出来るほど、遊びがある状況が伺えます。おそらく顎運動機能検査では顎運動の乱れが見られ、各運動路の不一致も見られるでしょう。もちろんCO−CRのズレも計測されている可能性が高いです。レントゲン的には幾分の骨の変化が見つかる事でしょう。正確には顎関節MRIの各スライスを綿密に評価すれば見つけ出せます。放っておけば近い将来には明らかなパーシャルディスクディスプレースメント、コンプリートディスクディスプレースメント、そして復位性から非復位性へとナチュラルコースを辿るのでは無いでしょうか。このようなケースでは、治療開始前の十分なスプリント治療にて、顎位の安静化を図り、関節円板をソフトタッチにコンプレスすることで、ナチュラルコースを断ち切れると考えています。顎位に無頓着な矯正治療ではこれらのケースは救えませんが、十分な配慮が可能で有れば、かなり良好な治療結果も期待出来ます。

<関節円板が若干転位しており、アーリークリックが触知されるケース>
顎位の観点では最悪に扱いづらい環境です。普段はラクチンな円板復位させた位置で、噛む時はディスクディスプレースメントを起こしています。顎の触診をすると、僅かな顎位の誘導で、関節頭が関節円板から滑り落ちてしまいます。関節頭の後方偏位もダイナミックに進行中なので、痛みも伴います。前方のディスクについても、事あるごとに復位、転位を繰り返しますので、炎症を引き起こします。癒着を起こせば、開口障害を引き起こします。とにかく無理をせず、炎症を引き起こさないよう注意し、最も安定する場所をひたすら探します。おそらく結果的には円板は復位出来ません。かといって、後方偏位を引き起こされた顎位は、どれほど長続きするか予測出来ません。ディスクディスプレースメントが起こり始めてから年月も短いでしょうから、今から起こるであろう骨の変化も大きいかも知れません。成長期に重なると、今後の成長量の差も心配です。とにかくダメージが深くならないよう、いたわるようなアプローチが望ましいです。

<関節円板が完全に転位しており顎位も不安定で骨変形が進行しているケース>
顎変位(非対称)や開咬の問題を有している事が容易に推察されます。関節だけでなく、ペリオ、ウェアファセットの問題が目に浮かびます。ドーソン法でシートさせた場所で骨の形がマッチしないほど変形が進んでいるとしたら、骨形態が改善するのを待たないといけないかも知れません。せめて、関節表面にはレントゲン的に連続した皮質骨が見られる所までは改善させておきたいです。ゴールとしては、出来る事なら後部結合組織がシュードディスクとして機能出来る環境です。

例えば治療開始時にCOにて関節頭が2mm以上ドロップしているケースでは、いきなり動的処置に移行して臼歯の垂直的なコントロールをしても関節頭がシーティングして来ないです。CPIのみ計測して、ズレが有るな と知っていて、ならば治療メカニクスで十分考慮すれば、治るはず と治療に入ってもやはりズレが残る事が有るんです。どこかで計算間違いをしたのでしょうか?答えは以外と簡単で、最初に2mmドロップしていた と思っていたデータはイニシャルのデータであって、真実のスコアでは無い事が分かりました。同じように外科矯正のケースではそういう関節に限って術後に顎偏位が再発となりがちです。決して手術時にCRのチェックを怠った訳では無いのですがルーズな結合組織が関節窩を埋めていたのかも知れません。これらを徹底的に下顎頭がシーティングする環境にしておけば、すなわち矯正治療開始前、手術前にCRの位置を下顎頭にたたき込んでおけば結果が違ったように思います。現在、顎関節に機能的な問題を持っている患者さん(ほとんど全員の8割9割)と、外科矯正患者さんの外科処置前には、原則として3か月以上のスプリント治療を行うようになりました。3か月スプリント治療をしてみると、関節の問題がクリアーに見えるようになりますので、更に長期間のスプリント治療へと移行する事も多いです。

ところが色々な患者さんの噛み合わせを見ていると何が何でもナソロジックな噛み合わせが最善でも無いように思う場合もあります。現実的には成長期の段階では、関節自体ルーズに作られています。赤ちゃんはフニャフニャです。大人の段階まで壊れずに来てくれれば、途中の段階はあまり顎位に気を配らなくても良いのかも知れません。下顎の成長促進などは下手をしたらdual biteを作るような行為ですが、適切に用いるとダイナミックに顎関係が改善する場合もあります。また、人間の身体は適応能力が思いのほか高いのでgeneraticな下顎頭形成を起こす場合もあります。ナソロジックではない噛み合わせとしては、一般的に筋肉位と呼ばれる顎運動の終末の顎位が嵌合位として相応しいと考えている人も多いです。巷ではマイオセントリックと名前を付けたりしているみたいですが、ソースは確認していません。これはひょっとすると永年培った不正咬合にて教え込まれた顎位だったりもするので疑問ではありますが、筋肉における調和は保てるでしょう。しかし筋肉は変化する・同じように骨も変化する要素を抱えていますので、確定は難しい ということが結論かもしれません。結局、日常臨床にて下顎頭はどこに位置させているのかというと、機械的に解剖学的に求められた中心位です。でも、かなり強い習慣的な筋肉位が離れたところに有ると、どうしてもそちらへシフトした噛み合わせになってしまいます。言い換えると児童期には成長も加味した顎整形的な治療で上下顎のバランスをとり、マルチブラケット治療での咬合構築はナソロジックに仕上げ、ルーズな仕上がりの部分はわずかな成長でカバーしてもらい、成長が期待できない成人以降はナソロジックなゴールを目指してマイオセントリックなゴールを達成する といいところ取りするのが良いかなと思います。これが結果良しとなるか否か 今後の患者様のフォローアップでの安定性にて答えが出るでしょう。
▲前へ戻る
 
当院では無料相談にお越しの方にさまざまな特典をご用意しております。
無料カウンセリング・問い合わせなどはこちらから
プライバシーポリシーサイトマップ
(C) 2008 Copyright NONOYAMA ORTHODONTIC CLINIC Allrights Reserve