２６　民法用語（５）相続

民法の条文を読むときの主な用語をグループで整理しました。

文章を訂正し、根拠条文を加えました（2012･4･22）

民法用語　（５）相続

用語	大まかな内容　　　★かっこの数字は民法の条文です。必ず確かめてください
相続の考え方	現行の民法は地位の継承である「家督相続」から、財産の継承である「財産相続」に変更しています。そこで、基本的な考え方を整理しておきます。　①相続は人の死亡によって開始する。生前の隠居による家督相続ではない　②死亡により当然に発生する法定の効果です。法律行為の効果ではない　③財産上の地位の継承に限られる。身分上の地位を含まない　④財産上の権利義務が包括的に承継される。個別財産の承継ではない　⑤相続は一定の親族関係者または遺言で定められた者に限られる。　⑥相続人が複数の場合は一定の割合で公平に承継する。
相続の形態	死亡した人（被相続人）の財産の包括的な移転方法は、親族の順位、遺言または死因贈与で行われます。　●相続：　被相続人との親族順位に基づく財産の包括的移転（886）　●遺贈：　遺言書に基づく財産の包括的移転（965）　●死因贈与：　贈与契約により死亡を原因とする契約で、遺贈に準ずる（554）　（※）死因贈与は双方の合意で成り立つ契約で、遺贈は被相続人が一方的に行う行為です。その違いはありますが被相続人の意思に基づく財産移転として同じものと扱われます。
相続人の種類	親族の順位によって相続が行われるのが「法定相続」です。民法は、「法定相続人」を配偶者（常に同順位）のほかに子・親・兄弟の第３順位まで定めています。　なお、相続開始時に該当の順位者が死亡している場合は、その人の子や孫を「代襲相続人」として相続に参加させます（887）。　　　（※）民法32条の２「同時死亡の推定」もあわせて検討してください。
相続人の排除	被相続人を殺そうとした者や被相続人を虐待した者は相続人から排除されます。　●相続欠格：　殺害行為、遺言に対する不正行為を行なった者（891）　●相続排除：　虐待、重大な侮辱、著しい非行をした者（892）
相続の内容	相続人の人数によって遺産分割の呼び方が異なります。　●単独相続：　相続人が一人の場合。相続人がすべての権利義務を相続する　●共同相続：　相続人が複数いる場合。遺産分割が終わるまで共同相続とされます
相続財産	被相続人は、「身分上の権利義務」と「財産上の権利義務」を持っていますが、相続できるのは財産上の権利の中で「祭祀財産」と「一身専属的な権利義務」を除いた財産です。　●身分上の権利義務：　親権、認知請求権、扶養請求権、相続権　●一身専属的な権利義務：　雇用・委任・身元保証の債務、生活保護受給権など　●祭祀財産：　系譜、祭具、墳墓、遺体、遺骨、香典など　●承継可能な財産：　物権、債権、債務、知的財産権、社員権など
相続分の調整	相続開始前に贈与された物を相続財産に加えるとともに、相続前の財産形成に貢献した人に割増して相続分を調整します。みなし相続財産　●特別受益者：　被相続人の生前に贈与を得ていた相続人（903）　●寄与分：　被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人に加算する割合（904の２）
相続の方法	相続財産の分割は遺言の有無によって異なります。　●法定相続分：　遺言書がなく法定された割合で相続財産を按分する方法（900）　●指定相続分：　遺言書の指定による割合で相続財産を按分する方法（902）
相続の承認と放棄	被相続人の財産が債務超過の場合もあるので、３ヶ月の熟慮期間（家裁により延長可能）で相続人が決定する方法。財産にはプラスの「積極財産」とマイナスの「消極財産」があり、相続によって義務だけを負うこともあります。もらえるだけが相続ではありません。　●単純承認：　負債を含め無条件で財産を相続する（920）　●法定単純承認：　限定承認や相続放棄を行なっても、一定の行為をとらえて単純承認とみなす実質に着目した処分（921）　　●限定承認：　相続人全員が共同して、積極財産だけを相続する（922）　●相続放棄：　相続人が相続をしないこと（938）
相続人の不存在	人が死亡しても、相続人が「不存在」な場合があります。これは、相続人が存在するものの放棄して相続人とならない「相続人不明」と異なります。　また、相続放棄した人は自己の財産と同様の注意義務を負います（944）。相続財産は「相続財団」）となり、選任された財産管理人が相続人を発見するように努めても相続人が不存在な場合は特別縁故者に相続させるか国家に没収されます（959）。　●相続人不存在：　宙に浮いた財産は「財団債権」という法人扱いをされます（951）　　●特別縁故者：　被相続人に相続人が存在しない場合は、内縁者は家裁に請求し、審判を受けて、相続財産を自己のものとできます（958の3）
遺言能力と遺言要式	遺言は被相続人の意思決定が伴います。そこに「遺言能力」がかかわります。　また、遺言は書面で行われる要式契約です。そこに「書面要式」の適格性がかかわります。　●遺言能力：　民法は遺言能力の取得を画一的に満１５歳としています（961）。　●遺言要式：　①一人がひとつの用紙で行う、②自筆証書遺言のほかは証人または立会人が必要、③文字等の訂正方法に決まりがあります
遺言の方法	遺言はいつでもできますが、特異な状況でなされることもあります。そこで、「普通方式遺言」と「特別方式遺言」に大別され、その中で細分化されています。　１普通方式遺言　　①自筆証書遺言（968）、②公正証書遺言（969）、③秘密証書遺言（970）　２特別方式遺言　　①死の間際（976）、②伝染病隔離（977）、③船の乗組員や乗客（978）、④遭難船で臨終間際（979）
相続の訴訟	相続をめぐる争いは、「寄与分の請求」（904の2）「分割協議の請求」（907）「相続開始後に認知された者の価額の支払請求権」（910）のほかに相続財産が遺言で一人に引き継がれた場合に相続人が行う「遺留分減殺請求」と、相続できたはずの財産を偽計によって失った相続人が行う「相続回復請求」に大別されます。　●遺留分減殺請求：　配偶者、子および父母には生前贈与・死因贈与および遺贈が行われても生活を維持するために相続財産の一定割合を受ける権利があります。これを「遺留分」（1028）と呼び、法定相続分の半分です。遺言によって財産を相続した人に遺留分を有する相続人は減殺請求ができます（1031・1042）。　●相続回復請求：　相続の開始を知り得なかった相続人が、すでに行われた相続に対しやり直しを求めることです（884）。