２３　民法用語（２）物権

民法の条文を読むときの主な用語をグループで整理しました。

文章を訂正し、根拠条文を加えました（2012･4･22）

民法用語　（２）物権

用　　　　語	大まかな内容　　　★かっこの数字は民法の条文です。必ず確かめてください
物権の特徴	物権は物を排他的、直接的に支配する権利です。債権が特定の人に行為を求める請求権であることに比べると絶対的な権利です。　①物権の絶対性：　権利は誰にも侵害させない　②物権法定主義：　物権は法律で定めたものに限られる(175)。　③一物一件主義：　同一物に同一内容の物権は複数存在させない。排他性　④公示の原則：　　物権の変動は当事者以外にもわかるよう公示する。
物権の種類	民法は１０種類の権利を特定しています。　●本権：　　占有権を除く９種類　　①所有権、②地上権、③永小作権、④地役権、⑤入会権、⑥留置権、⑦先取特権、⑧質権、⑨抵当権をいいます。　●占有権：　事実上、物を支配している状態で他人の物（盗んだ物）を含みます。
制限物権	本権から所有権を除いたものが制限物権です。所有権以外は何らかの制限を伴います。土地を使用・収益するに限られる「用役物権」と占有したり登記を行って担保にする「担保物権」があります。
用役物権	他人の土地を一定の目的のために使用・収益する制限された権利です　①地上権：　植林及び工作物の所有を目的に他人の土地を使用する権利（265）★登記できます　②永小作権：　耕作又は牧畜をなすために小作料を払って他人の土地を使用する権利（270）★登記できます ③地役権：　ある土地の便益のために他人の土地を使用する権利（280）★登記できます　④入会権：　一定の地域に居住する住民集団が山林原野や漁場を集団的に支配する権利（294）★登記できません
担保物権	担保として利用する権利が担保物権です。法で定めている優先される権利を法定担保、契約で担保とする約定担保に区分されます。第三者に対する対抗力は登記に限りません。１法定担保　　　①留置権：　貸した債権の弁済を受けるまで、他人の物を占有して担保とする権利(295）★登記できません　②先取特権：　法律に定める特別な債権を持つ者が優先弁済を受ける権利（303）★登記ができます２約定担保　　　★登記をして第三者に対抗力を持ちます　①質権：　担保物を手元に置き、弁済がないとき売却して債権回収できる権利（342）　②抵当権：　登記の設定により弁済がない場合は競売申立てで優先弁済を受けられる権利（396）
担保権の性質	担保権には特有の性格があります。　①付従性：　担保物権は債権があって存在し、債権が消滅すれば担保物権も消滅します。　②随伴性：　債権が移転すると担保物権も移転します。　③不可分性：　債権の全部が弁済されるまで、担保物の全部に権利を行使できます（296・305・350・372）。　④物上代位性：　担保物が売却・賃貸・滅失・損傷した場合には、それによって発生した売却代金・賃料・保険請求権・損害賠償請求権などに対して、あらかじめ差押えを行うことにより権利を主張できます（304・350・372）。ただし、留置権にはこの性格はありません。
物権的請求権	所有権の排他性や絶対性として持ち出される権利。　①返還請求権：　　　　所有者以外が占有している物を戻させる権利　　　　　②妨害排除請求権：　所有していても妨害されている場合に排除させる権利　　③妨害予防請求権：　将来に妨害されるおそれを排除する権利
所有権の特色	所有権の全面的支配を表すもの(206)。ただし、所有権には制限があります。　●使用：　所有物を自分で利用する。マイカーの運転、自宅に住む　●収益：　所有物で利益を得る。生育して作物を得たり運用して家賃や利息を得る　●処分：　所有物を譲渡、放棄したり、物理的な変更を加える
所有権の取得原因	所有権の取得は「承継取得」と「原始取得」に区分されます。承継取得は前の人の所有権を引き継ぐもので、目的物を特定する「特定承継」と特定しない「包括承継」に区分されます。原始取得は前の人の所有権とは関係なく取得したものとみなされます。　①契約：　売買による　②相続：　被相続人の死亡による財産移転　③無主物先占：　所有者がいない動産の取得(239) 　④遺失物拾得：　届出後３ケ月で取得(240) 　⑤埋蔵物発見：　届出後６ケ月で発見者が取得。他人の土地の場合は所有者と発見者が折半(241) 　⑥付合・混和・加工：　説明省略(242-246) 　⑦取得時効：　所有の意志をもって平穏・公然に他人の物を占有したとき。善意・無過失は１０年、悪意又は過失は２０年(162)
相隣関係	私人間の円満な関係を保つために隣地の土地所有者と利害調整する規定です。　①囲繞地（いにょうち）通行権：　袋地の所有者が公道へ出るための調整(210ｰ213) 　　　　（※）袋地は周囲を囲まれた土地、囲繞地は袋地を囲む土地です。　②隣地の立木：　枝のはみ出しは所有者が剪定、根のはみ出しは自分で剪定(233) 　③境界標：　設置と保存費用の負担(223) 　④目隠し：　　臨地に接した囲障（いしょう）設置の制限(225)　　⑤排水受忍：　高地から低地への排水(220)
共有の形態	所有権を共同で所有している形態の区別です。　①共有：　複数の人が一個の物の上に所有権を数量的に分割して所有。「持分」(249) 　②合有：　各人が持分を持つが、持分権の譲渡や処分が制限・禁止される所有。組合財産（667･676) 　③総有：　共同所有者が団体を構成し、団体の財産として管理・処分する財産。入会権(263)
物件変動の表示	物権の変動を第三者に示すための方法です。日本の場合は次のとおりです。　●公示の原則：　公示した者を一応は所有者とみなす考え。不動産の対抗要件(177) 　●公信の原則：　公示があれば所有者とみなす考え。動産の即時取得(192)
対抗要件	当事者間で成り立つ要件が「成立要件」、第三者への対抗は「対抗要件」です。　当事者間は意思表示で成立しますが(176)、第三者に対抗するためには次の手続が必要です。　①不動産：　登記(177)　　（※）登記できるものは制限されている。　②動産：　　引渡し(178)
占有権の移転形態	占有権は自己のためにする意思をもって物を「所持」することにより取得し、盗品も含まれます(180)。　①現実の引渡し：　譲渡すること。相手が占有する(182) 　②簡易の引渡し：　相手がすでに占有している物を譲渡すること。貸しているものを売る(182) 　③占有改定：　相手に譲渡したものを引き続き占有すること。　家を売って、それを賃借する(183) 　④占有移転：　第三者が占有するものを他人に譲渡し、第三者がそのまま占有すること。家を譲渡し、賃借人がそのまま借り続ける(184)
占有訴権	占有が妨害されたり、奪われた場合の訴訟形態。いずれも損害賠償を請求できます　①占有保持の訴え：　占有を妨害されたとき(198) 　②占有保全の訴え：　占有を妨害されそうなとき(199)　　③占有回収の訴え：　占有を奪われたとき(200)
地上権と賃借権	地上権は物権(265)、賃借権は債権(605)で、いずれも登記が可能ですが利用権に次のような違いがあります。　①家主の承諾：　地上権は不要、賃借権は必要　②妨害排除請求：　地上権はできるが、賃借権は当然ではない　③存続期間：　　地上権は永久も可能ですが、賃借権では最長２０年（※）建物の所有のための土地利用（店舗や事務所を含む）は借地借家法で「借地権」として規制されています。
第三取得者	他の者より優先弁済される権利である先取特権に定められている第三取得者の保護規定です（民法３３３条）。先取特権の目的物である動産が第三取得者に引き渡されると先取特権の行使はできません。　「第三取得者」は抵当権が付いた不動産を取得した人です。　似たような用語に「第三債務者」があります。これは債務者が権利者となる場合の、債権の債務者です。債権者から見れば第三者に当たリます。債務者が代金の取立てをしない場合や、第三者と一緒になって財産を減らした場合（詐害行為）には債権者は第三債務者に、債務者に変わって権利を行使できます。
留置権と質権	留置権(295)は法定担保、質権(342)は約定担保ですが回収の効果が異なります。　いずれも相手も物を弁済を受けるまで占有しますが、留置権は自力で処分できず、質権は自分で売って弁済に充てることができます。　また、留置権は登記できませんが、質権は登記できます。動産では変わりありませんが、不動産の対抗要件で違いがでます。
質権	質権は質物によって制限があります。　①動産質：　目的となる動産を引き渡して、質物の取得と競売ができます(352)。　②不動産質：　登記を行うことが必要です。使用収益が元本に限られ、契約の存続期間は１０年以内に限られます(360)。　③権利質：　債権・株式・無体財産権に利用されます。弁済期を経過しても債務の履行がない場合は、質権者は自らの名で債権を取り立てることができます(366)。
抵当権と質権	どちらも競売で優先的な弁済が受けられます。　抵当権(369)は、質権と違って物の占有は行いません。　物を相手に利用させないと収益を生まず、弁済資金を得る道を断つ面があります。　物を移転させず所有者に運用させて収益を得る面と占有に係る管理費用の負担を避けるため、不動産は質権より抵当権が利用されます。
法定地上権	法定地上権は抵当権との関係で、建物について地上権が設定されたものとみなすものです（３８８条）。地上権は植林及び工作物を目的とする土地の利用権ですが、法定地上権は抵当権の章で登場します。　土地と建物が同じ所有者であったとき、競売により抵当権が実行されたことにより、所有者が別々になって不都合が生じるのを回避するための規定です。建物は、通行など土地と一体にならないと利用できない場合があるので地上権を認めるものです。　土地と建物は別々に登記し、抵当権も土地と建物の両方か片方に設定できるので法定地上権で建物の所有者を保護します。
抵当権と根抵当	根抵当(398の2)は物権の１０種類に数えられません。根抵当は抵当権の一部です。　抵当権は特定された者どうしが特定された取引、たとえば建物売買契約の担保に設定されます。　これに対して、根抵当は特定の相手に対し、一定の期間内の担保限度額を定めるもので、蓋然的な面が伴います。　抵当権の担保する価額は「限度額」、根抵当は「極度額」と区別されます。　担保権の実行にあたっての、優先順位や優先額にも違いがでます。
非典型担保	民法の物権編で規定されている法定担保と約定担保を典型担保（有名担保）といいます。これらの担保は設定手順や弁済順位まで決められています。　非典型担保は法律に規定されていませんが、契約自由の原則から生じています。　●譲渡担保：　金を融資する契約を交わすとともに相手の物を売買して担保とし、弁済がされれば物を返還する契約。　●仮登記担保：　代物弁済予約又は売買予約の仮登記をして担保とするもの。　●所有権留保：　車の売買で「登録」を行うことにより、代金の弁済が済むまで所有者を売主のままにしておくこと。　●その他：　担保といいませんが債権の「買戻し特約」や「再売買の予約」も担保的な効果があります。