CQおじさん

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第1章 呼び出し

BIGと花言葉   
陽気なBEL     
内気なCEO    

アンテナ談義    
初心者DONの嘆き
念仏おじさん    
駄々っ子親父    
マフィアの集まり  
名物おじさん     
相手選び       
一期一会       
富士山に出向く   
恥さらし        
交信で雑談      
世話好きなBOO   
子どもを巻き込む   
釣りにたとえれば   

「メインから移られた方はいらっしゃいますか? こちらはJ×1CBA、横浜」

「CQ、CQ、CQ こちらはJ×1CBA、△区」

「誰も応答しないよ」
「静かにしなさい! 」
「今日は反応がないね、お父さん」
「どうしたんだろ」
「それでは交信を終了します」
「あれッ、今日は止めたの」
「静かにしなさい。爆発するから・・・」

「お父さん、今日は反応がなかったねー」
「うるさいな、脇でガタガタ言うから気分が乗らないぞ」
「あら、始まった。家族のせいにしないでよ! 」
「応答がない日もあるんだ。ガタガタ言うな」
「遊ぼうよ、お父さん」
「そうよ、遊ぼうよ」
「子供も楽しみにしてるんだから遊んでやってよ! 」
「今日は読書にしよう」
「まったく勝手なんだから・・・」

「J×1CBA、こちらはJ×1BIG」
「J×1CBA、こちらはJ×1BIG、聞いてるか? 」
「お父さん、BIGさんが呼んでるよ」
「あんた、ひまじんが呼んでるわ」
「J×1BIG、こちらはJ×1CBA」
「CBA、サブよろしく」
「またかよー、勝手な奴だから・・・」
「BIG、待機よろしく」
「長くなりそうだから、あんたたちは寝てしまいなさい」

                                 文頭へ戻る

●BIGと花言葉

「BIG、サブを探してから呼んでよ」
「起きてると思わなかったけど呼んでみただけさ」
「いつもそうなんだから・・・」
「バラの花言葉は何だったけ」
「愛情だったかな? 」
「いつものように頼むよ」
「俺は便利屋じゃないぞ」
「そこはひとつ我慢して・・・」
「《限りなき美と愛情》だって」
「そうそう、良い子だった」
「パンジーは何だったけ?」
「またかよ、求愛かな? 《私を想って》と書いてあるぜ」
「あいつは俺に惚れているんだな・・・」
「のろけ話を聞かせたくて呼び出したのか」
「ついでに、ユリはどうなってる」
「《高貴なる品位》だって。何だろう、これは? 」
「じゃあ、あいつも合ってるな」
「二又でなくて、三又もかけてるの? 」
「もてて困るんだ・・・」
「そういう話は困るんだよね、妻の側じゃ」
「花言葉でたとえればCBAは? 」
「サルビアだな! 《平和な家庭》。あんたは、アジサイかな」
「なんだい、それは」
「《高慢、移り気》。別の本だと、《ひたむきな愛情》さ」
「あってる。俺にぴったりだ」
「まったく、勝手なんだから・・・」

                                 文頭へ戻る

陽気なBEL

「あんた、おかしな人とつき合わないでよ。無線は誰でも聞くことができると言ってるんでしょ。近所の人が聞いていたらびっくりするわよ」
「まずい話は避けてるよ! 断るのが難しいんだ、無線は。切り上げるタイミングが難しい」
「家族のことは話題にしないでよ! 」
「必要最低限にとどめてるじゃないか」
「わたしの悪口を言ってるんじゃない! 」

「J×1CBA聞いてる。J×1BEL」
「珍しい。こんな時間に起きてるぞ」
「また、おかしな人から呼び出されて」
「J×1BEL、こちらはCBA」
「145・●●に移動よろしく」
「了解」

「移動したかい? J×1BEL」
「いつもなら寝ている時間でしょ、BEL」
「CBA、今晩わ。起きてたんだね」
「あんたこそ。こんな時間に珍しいな」
「子供は元気かい・・・」
「お蔭様で。この前はお世話になりました」

「●●峠は知ってるか」
「行ったことはあるよ? 」
「クルマは何台ぐらい停められたっけ? 」
「五台くらいかな。移動運用なの? 」
「週末に、バーベキューをしながら運用するつもりだけど、一緒にどうだ」
「その日は都合が悪くて・・・」

「かあちゃんを見せたくないんだろ・・・」
「みせる顔じゃないからな」
「横にいるんだろ。後でぶん殴られるぞ」
「さっきまで絞られていたところだよ。BIGの相手をしていたら、自分の悪口を言われていると誤解されて・・・」
「奥さん、勘違いしちゃダメだよ。ご主人はあんたに頭が上がらないんだから・・・」
「そうだよ、俺は無実だ! 」

「BIGは起きていたんだ。相変わらず酒場をうろつきまわってるんだな・・・」
「花言葉を調べさせられた挙句に、のろけ話を続けられて閉口したよ」
「BIGは身を固める気がないからな。CBA、箱入りかあちゃんを大切にしろよ」
「隠してるんじゃない、出せないだけだ!」
「強がりを言っちゃーダメだ。奥さん、許してやってよ」

「許しません! 」
「黙ってろよ! かっこう悪いじゃないか」
「CBA、どうした? 」
「ちょっと立て込んでるので、また次回よろしく」
「喧嘩しちゃダメだよ。またよろしく」

                                 文頭へ戻る

●内気なCEO

「あんた、箱入りかあちゃんなんて言ってるの?」
「俺は言ってないぞ! BELが言っただけじゃないか」
「出せないだけって、どういうことよ? 」
「可愛い女だから、他人に見せたくないだけさ・・・」
「ブスって言いたいんでしょ。どうせあたしはそうですよ! 」
「無線仲間と会いたくないって、お前はいつも言ってるじゃないか」
「どうせあたしはブスよ」

「言葉のアヤだよ、気にするな」
「無線なんて凝る人は、あんたと同じ変わり者よ。」
「ひがむなよ・・・」
「まったく。アンテナだけでも目立って肩身が狭いのに・・・」
「亭主が女狂いしたり、仕事中毒にならないだけましだろ」
「充分、無線中毒になってるわ! 」

「ちゃんと、家族サービスもしてるだろ」
「自慢することじゃないわ、あたしの友達のご主人はもっと優しい人だわ」
「そういうのと一緒になりゃ良かった! 相手を間違えたな・・・」
「これだけ変わり者だと知らなかったわよ」
「俺の知ったことじゃない」
「あたしの友達のご主人は・・・」
「他人(ひと)は他人。俺は俺だ! 」

「J×1CBA、起きてる。J×1CEO」
「また呼ばれて! いいかげんにしてよ」
「黙ってろよ! 」
「J×1CBA、J×1CEO」
「勝手にしなさい、寝るわ! 」
「J×1CEO、J×1CBA」
「サブを探してくる。CBA待ってて」
「了解」

「CBA、145・●●へどうぞ」

                                 文頭へ戻る

●アンテナ談義

「CBA、移った? 」
「CEO、今晩わ」
「起きてたんだ、元気かい」
「今日は珍しい人ばかりに呼ばれて・・・」
「それで夜更かしか? 」
「BIGとBELさ」
「BIGは女遊びか、BELさんはいつもなら寝てる時間だろ?」
「そうだよ。それで女房に絡まれて・・・。良いタイミングで出てきてくれた」

「家族持ちは大変だな。ところで、アンテナの面白いやつが雑誌に出てたぞ! 」
「見たよ! ヘンテナってやつだろ。前に試して給電点で悩んで諦めた」
「そうだな。雑誌の説明は分からない部分が付きまとうな」
「集合住宅だから、電波障害を出せないよ」
「アンテナが目立つから、変なことはできないよな」
「そうさ。夜中にテストするしかないんだ」
「夜は相手がいないから、テストも難しいだろ・・・」
「意外にひまじんもいるんだ。週末を狙えばできるよ」
「それで夜更かしして、かーちゃんに批難されるわけか? 」
「どうでもいいだろ! 」

「接地はどうしてる? 」
「アースを取ると、かえっておかしくなる場合がある」
「不思議だな・・・」
「同軸ケーブルだって、波長に合わせるだけでなく、材質の減衰率を加味してちょっとずらしたほうが良い時もあるぞ」
「半田づけが下手なんだろう」
「それもある。不器用だからな」
「臭くて家族も嫌がるだろう」
「臭いも嫌だけど、子供が小さいから寝てからやらないと火傷が心配さ」
「けっこう気を使ってるんだな」

「それに、無線を始めた頃は子供に風邪を引かせて大騒ぎさ」
「すき間止めぐらいしたんだろ」
「したけど、すき間風が入ってきて・・・」
「どこでも似たようなヘマをしてるな」

「台風や地震のときにも、アンテナが気になってベランダに出て大目玉さ」
「出口を間違えたわけじゃないだろ? 」
「子供を忘れて、アンテナを確かめる馬鹿がいるかと女房に叱られた」
「それは当然だ! 」
「他人に迷惑をかけたら、無線はできないから・・・」
「あんたの都合を優先するから、奥さんが怒るんだ!」

「独り者にしてはまともなことを言うんじゃないか・・・」
「ほどほどにしておかないと無線機を捨てられるぞ! 」
「そうさ。平日の無線は控えている・・・」
「でも、休みの日に家族を相手にしないで無線をしてるから余計刺激することになる」

「大当たり! 相手にしないと、女房、子供から批難される」
「やっぱり一人のほうが気楽だな」
「一人の暮らしが他人より長かったし、勝手なことばかりやってきた癖は直らないよ」
「一人も退屈さ・・・」
「それに耐えられずに身を固めたのが運の尽きだ」

「俺はBIGと違って酒も飲まないから退屈だよ、CBA」
「そうだ、今日はBIGに呼び出されて話をしたばかりに女房に馬鹿にされた」
「BIGは言いたいことを言うからな」
「BELが弁護してくれたが、かえって女房がムキになって、挙句の果てにはふてくされて寝てしまった」
「可愛いかーちゃんじゃないか。相手をしてやれよ」

「ところで、何の用だった? 」
「ファックスの改造に興味があるか確かめたかったんだ」
「アンテナだけで止めとくよ。これ以上手を広げたら子供まで敵になってしまう」
「さっきまでファックスの改造をしていたんだ。面白いぞ」
「面白いのが怖いんだ。無線もそういうところがあって、ハマルんだろうね」
「話すだけでは飽きるしね」

「始めは遠くに飛ばすことばかり考えたけど、カード集めも空しくなるときもある」
「立地条件や設備で差が出るからな」
「励みにはなるけど、それだけじゃつまらないもんな」
「機械いじりも楽しいし」
「どちらも楽しめばいいんだが・・・」
「悪いけど眠たくなった。またよろしく」
「そうだね。またよろしく」

                                 文頭へ戻る

●初心者DONの嘆き

「CBA、聞いてますか? 」
「あれ! DONさんじゃない? 」
「付き合ってもらえますか・・・」
「どうしたの? こんな夜更けに」
「CQを出すのが怖くてしょうがないんですよ」
「わたしもそうでしたよ。でも、慣れてくればそんなに怖くもないんだけど」

「この間、CBAさんに勧められたんでCQを出したんですが、相手の言うことが分からなくてドキドキしました」
「初心者だからと言えば良かったのに? 」
「それは最初に言ったんです。そしたら何と言われたと思います? 」
「・・・・・・」
「練習をしてから出て来い、と言うんです」
「それは相手が変わり者だったんだ」
「そうですかね。怖かったなー」

「先輩風を吹かしたり、押し付けをしたがるベテランもいるからね」
「そうじゃなかったですよ、あれは脅しだ」
「無線も社会の縮図だから、良い人ばかりじゃないからね」

「CQって難しいですよ」
「確かに、相手がどんな人かも分からないから緊張するね。他人の詮索をしたがる人とか自分のことばかり並べたてる人、話題が多くて楽しい人とか暗い話題で滅入る人もいますよ」
「話題が合わないと、話が詰まって先に進まないですね」
「ある程度のサービス精神と忍耐が必要なときもあるね」
「CBAさんと話しても緊張しないのに、CQだと力が入って」
「知り合いと他人では、話す内容と話し方が変わるもの。相手次第ですよ。話が合う人と合わない人はいます」
「すぐ会いたがる人もいますね?」

「わたしはそういう人は苦手だな」
「珍しいですね、CBAさんは」
「無線だから話せることもあるわけだし、家族を巻き添えにする気もないからですよ」
「CBAさんも変わってますね」
「無線はわたし個人の趣味だから、家族のことまで干渉されたくないですよ」
「それだけはっきり言う人も珍しいですよ」
「好き嫌いはやむを得ないと割り切っています。無理に他人に合わせてもつまらないし、相手が合わせてくれるのも気が引けます」

「無線の入門書には楽しいと書いてありますよ」
「良いことばかり並べて美化しても始まらないでしょう。良い人もいれば悪い人もいるのが無線の世界なんだから」
「そんなのおかしいですよ!」
「コンテストなんてそういう面がありますよ。高い場所で電力が強い局が運用すれば、弱小局は我慢するしかない」
「そんなものですか?」
「これはあくまでわたしの意見です。DONさんには押し付けるつもりはないよ」

「相手が選んだり、嫌ったりする面はありますね」
「わたしが好きだといっても女の子に相手にされなかったのに似てますよ」
「嫌っても好かれることもありますね」
「CQもそれに似たところがありますよ」
「また、出してみます」

                                 文頭へ戻る

●念仏おじさん

「念仏おじさんが出てきたよ」
「もう七十過ぎの人だよ」
「それでも無線をしてるんだ・・・」
「声を出すのは健康に良いんだよ」
「いつも同じ時刻に呼んでいるよ」
「でも、めったに返事がないじゃない」
「近くにいるとそれほどの印象がないけど、あの人の呼び出しを遠くで聞くとホッとするときがある」

「J×1BGM、J×1BGM、J×1ABC」
「J×1BGM、J×1BGM、J×1ABC」

「じゅげむ、じゅげむ、なんまいだって聞こえるよ、おねーちゃん」
「お坊さんかもしれないね」

「お父さん、あのおじいさんと交信したことがあるの」
「何回かあるよ。けっこう気さくなおじいさんだ」
「呼ばれてる人も知ってるの」
「お父さんより年上の人だよ。クルマで走ってる時に何度か交信したおじさんだ」
「お父さんも年取って、あのおじいさんと同じように呼び出すの?」
「お前たちが嫌がらなければ・・・」

「止めてよ! かっこう悪いから」
「大丈夫よ、お父さんは飽きるのも早いからそのうち無線なんて見向きもしなくなるわ」
「止めろといいたいのか!」
「そうよ。みっともないんだから」
「せっかくお父さんが無線をやってるのにそんなこと言って・・・」
「子供に風邪を引かせたり、台風や地震の時はアンテナばかり気にしてるのは異常よ」

「アンテナがあるから友達に説明しやすいのに・・・」
「ベランダから大きなアンテナを出して、振り回すのはウチぐらいのものよ」
「かっこういいじゃない」
「お母さんは、管理人や近所の人に肩身が狭いんだから・・・」

                                 文頭へ戻る

●駄々っ子親父

「お母さんは無線はしないの? 」
「しません! 」
「お父さんはいつから無線を始めたの? 」
「丸子が生まれてからよ」

「お父さん、何で始めたの? 」
「ドライブができなくなって退屈だったからさ」
「わたしに黙って買ってきたのよ! 」
「試験を受けずに使える無線機だったね」
「勝手に買ってきたんだから・・・」
「相談をして買ったじゃないか」

「脅したのよ! 駄々をこねて」
「太郎に似てるね」
「太郎がお父さんに似たのよ」
「一台ですまなくて、二台も買ったのよ」
「三台だ! 」

「ドライブで重宝したんじゃないか」
「クラブまで作って会報を出したり遊びまわって・・・」
「お前も子供も連れて行ったじゃないか」
「それで済むと思ったら、太郎が生まれてからアマチュア無線の試験に合格して、無線機とアンテナが増えるばかり」

「なぜ、お母さんは止めさせなかったの?」
「言って聞くような人じゃないのよ」
「言いたいことを並べやがって! 」
「酒を飲まないから、我慢したのよ」
「酒は、体調を崩して飲めなくなったんだ」

「それで一緒になったって、他人に吹聴してるんだから・・・」
「ばあちゃんが死んで、胃も悪くなったときに可愛い子が目の前に来たんで・・・」
「それがお母さんだったわけね」
「そういうことだよ」
「そのくせ、わがままは直す気がないんだから」
「お母さんが優しくてよかったね、お父さん」

「頑固者なんだぞ、お母さんは・・・」
「お父さんに比べると優しいよ」
「猫をかぶっているだけだ」
「何よその言い草は!」
「虫も殺さないような顔をして、けっこうきついことを言うんだ」

「あんたは被害者だって言うの」
「騙された俺が迂闊だっただけさ・・・」
「止めといたほうがいいよ、お父さん」
「あんたは、お父さんの肩ばかり持って!」
「子供を脅すことはないだろ」

「止めときなよ、家族だろ」
「太郎はお母さん子だから・・・」
「無線なんかするから悪いのよ! 」
「俺の趣味をああだこうだぬかすのか?」
「変な趣味よ。どうでもいいことを、いい大人がわいわい騒いでいるだけよ」

                                 文頭へ戻る

●マフィアの集まり

「お母さんは趣味がないの?」
「テレビを観て、ビールを飲むことぐらいだ! 」
「どうせ、わたしは馬鹿ですよ! 」
「お母さんの趣味は何なの? 」
「道楽はないわ」
「趣味と道楽は違うんじゃないか」

「家族を困らせる道楽ばかり夢中になるのがあんたじゃない!」
「無線はけっこう役に立ってるぞ」
「たまにはそういうこともあるわ。でも、火傷したり、ゴミの山を作ってまでやることはないわよ」
「話すだけが無線じゃない。技術の探究や向上も大切だ」
「作っちゃ壊し、また作っちゃ壊して何が面白いのよ! 」
「工作もできない無線家なんて恥ずかしいんじゃないか」

「お互いをコールサインで呼び合うのも異常よ! 」
「それが無線のキマリだ」
「《マフィアの集まり》みたい」
「悪者の集まりみたいな言い方をするな!」
「そうよ! 《変人の集まり》なんだから」
「お前だってけっこう変わり者だぞ」
「わたしは普通よ」

「お母さんは、何でもお父さんにさせてるわ・・・」
「そういう約束で一緒になったんだから」
「運転だって、勉強だってお父さんに任せてるわ」
「お父さんが好きだからよ」
「嘘付け! 試験を受ける気も勉強する気もないだけさ」
「家事や育児で忙しいのよ」
「勉強する時間はたっぷりある。テレビを観なけりゃ充分にあるぞ」
「必要がないのよ」
「やる気がないだけさ」
「ちゃんと早起きしてあんたたちを起こして、料理や洗濯をしてるんだから」

                                 文頭へ戻る

●名物おじさん

「やらないやつがいるから、やるしかないんだ」
「まさか、わたしが手を抜いてるって言うんじゃない?」
「やるべきことをやらない奴がいるから仕事が増えるんだ」
「無線家なんて《マフィアの集まり》じゃない。どうでもいいことをわいわい言い争うのも馬鹿みたい」

「シッキュ、シッキュ、シッキュ、J×1ASK」
「シッキュ、シッキュ、シッキュ、J×1ASK」
「シッキュ、シッキュ、シッキュ、J×1ASK」

「おねえちゃん、いつも同じ調子でCQおじさんがやってるよ」
「三回声を出すと止めてしまう人だね」
「念仏おじさんはゆっくり呼びかけるのに、このおじさんは早口だもの、答える間がないよ」
「さっき、あのおじさんに呼びかけた局もいたけど、聞こえていないみたいだよ」
「面白いおじさんだね、お父さん」
「発声練習でCQを出しているみたいだね。CQは《どちらの局でもいいから、相手をしてください》って呼びかけだけど、あの人は相手を探すつもりがないようだ」
「たまに応答があっても、プッツンと終わってしまうものね」

「どちらか聞いてますか、J×1BAD」

「誰か聞いてませんか、J×1BAD」

「相手をしてくれる人、いませんか」

「誰も聞いてないのか、J×1BAD」

「出てこいよ! ひまじんはいないのか」

「また怒りんぼおじさんが出てるよ」
「あの人の呼び出しはお父さんと違うね」
「酔っ払ってるみたい」
「お父さん、あのおじさんと交信しないの」
「酔っ払いと話す気にはならないよ」
「誰も相手にしないからムキになってるよ」
「くどいから相手にされないんだね」

「悪い人じゃないようだけど、いつも喧嘩調で呼びかけてるから煙たがられてるんだ」
「寂しい人なんだね」
「家族が聞いてたらびっくりするだろうな、恥晒しだもの」
「あんたのCQだって、そんなものよ」

                                 文頭へ戻る

●相手選び

「相手にしてもらうためには、それなりの呼びかけというものがあるのさ」
「どういうこと」
「まず、誰を相手にするかをはっきりすることさ。友達を指定するなら相手のコールサインを言わなければならないんだ。誰でも良かったらCQを使うんだよ」
「そんな決まりがあるの」
「運用規則というのがあるんだ」

「そんな決まりがあるんだ」
「もっと大切なことは、相手を不快にするようなことは口にしないのさ」
「小言を言ったり、しつこいのはダメね」
「それに、呼び出し周波数は短い時間に留めることになっている。別の周波数を探してから呼びかけるのが常識だよ」
「それじゃ、怒りんぼおじさんは手抜きをしてるんだ・・・」

「呼び出し周波数を使わないバンドでは、あのおじさんの呼びかけもあるんだ。でも、この周波数ではなじまないんだよ」
「頭の切り替えができないのか」
「そういう面もあるね。呼びかけの仕方は、周波数とかバンドとか、使う目的とか地域で少しずつ違っているんだよ。あのおじさんの呼びかけは横浜では珍しいほうだね」
「差別をしちゃいけないんでしょ」
「相手を選ぶのは誰もが自由だよ。絡まれるような人を誰が相手にするかい」
「楽しくなくちゃ相手にしないわよ」

「アマチュア無線は趣味の世界だよ。だから、嫌味を並べたり、他人の悪口を口にすると相手にされないんだ。これは無線だけでなく、世の中の付き合いでも同じさ」
「自分では気がつかなくても、他人には分ることってあるものね」
「無線は周波数が合えば誰でも聞こえるんだ。電話と違って話の内容が晒される怖い面があるのさ」
「あのおじさんが喋ってることはみんなで聞いているわけだ」

「無線は迂闊な話ができないぞ。知っていて黙ってる人もいるからね」
「お父さんが言う、《たぬき》って奴か」
「《ワッチ》が正しい用語だけど、《傍受》なんて固い呼び方もあるね」
「あんた、変な話をすると近所の笑いものになるから気をつけてよ!」

                                 文頭へ戻る

●一期一会

「お父さんはCQを出すほうが多いけど、BELのおじさんやCEOのお兄さんのCQなんて聞いたことはないね」
「あの人たちは、クラブの人との交信が多いから相手を指定すれば済むんだよ」
「何でお父さんはクラブに入らないの」
「昔作って面倒臭かったからさ。他人に拘束されるのが嫌なんだよ」
「わがままだから、相手にされないのよ!」

「何だその言い草は!」
「喧嘩をしないでよ」
「お母さんも変なことを言わないで!」
「知り合いになると細かいことまで知るから、無意識に互いの生活に干渉するのが嫌なだけさ」
「せっかく知り合いになったのに、もったいないじゃない」
「良い人と付き合えばいいじゃないか」

「BELのおじさんは顔は怖いけど、優しい人じゃない。おばさんも無線をしてるし、お兄さんやおねーちゃんも優しかったよ」
「弁当までくれたし、お菓子もくれた」
「お前たちはいいけど、お母さんは無線をする人が嫌いだよ。だから、相手の家に出かけて、我が家に入れないとは言えない・・・」
「まるでわたしが人を嫌ってるような言い方ね!」
「他人が来るというだけで緊張して、掃除や後片付けをするじゃないか」
「突然来られても困るわ!」
「お父さんも、自分の家の中を見せたくないこともあるよ」

「外で会えばいいじゃない」
「そうしてるけど、負い目も付きまとうんだ」
「CQのほうがあとくされがないからなの」
「そうだね、『一期一会』(いちごいちえ)って知ってるか」

「何よそれ・・・」
「そのとき、その場を大切にすることさ」
「一度だけの交信を大切にしたいんだ。緊張感を伴うけど、人との付き合いに楽しさがあるんだ」
「分からない!」
「めんどくさいから、その場限りで済ませようというだけよ!」
「投げやりな言い方をしないでよ! お母さん」

                                 文頭へ戻る

●富士山に出向く

「お父さん、もう帰ろうよ」
「子供も飽きてしまったわ、いいかげんにしてよ」
「それではJ×1CBAポータブル・ツー、これで終了します」

「お父さん、何局交信したの?」
「三〇局かな。久しぶりの大漁だ」
「馬鹿みたい、子供のようにはしゃいで」
「お母さん、せっかくお父さんが満足してるんだから・・・」
「太郎、飽きたか」
「お母さんが帰りたがってるよ」

「外で待つのは退屈よ。あんた分かってるの?」
「家にいればよかったのに・・・」
「温泉に寄る約束でしょ、忘れちゃ嫌よ」
「もう少しやらせてあげればいいのに」
「あんた、お父さんに味方するの」
「久しぶりに富士山に来て頑張ってるんだから・・・」

「おねーちゃん、止めとけよ! 」
「まったく、子供まで巻き添えにして」
「風呂には寄るよ、まったく・・・」
「家ではこんなに交信できないんだから大目に見てあげればいいのに」
「甘やかすと、いつまでたっても止める気はないんだから」

「お父さん、もっとやりたかった? 」
「このくらいでいいよ」
「どこの人と繋がったの? 」
「和歌山県の局とも繋がったけど、ほとんどが静岡県の人だな」

「おじいちゃんの近くの人も出たの? 」
「伊豆・沼津・富士・富士宮だから、じいちゃんばあちゃんの近所だよ」
「横浜は繋がらなかったの・・・」
「太郎、ここは静岡県だよ。箱根の向こうは無理でしょ、お父さん」
「富士宮五合目は、愛鷹山や宝永山の陰になるから無理のようだな」

「静岡県だから繋がらないわけじゃないのね!」
「御殿場や須走の五合目は静岡県だけど、関東一円に繋がるよ。でも、静岡県内の局とは繋がりにくい」
「太郎、無線って不思議ね」
「富士山の頂上だったら、もっと遠くまで繋がるね、お父さん」
「そうだろうな、でも歩かなければならないぞ! 」

「辛いからだね・・・」
「無線機を持って歩くのは辛いし、かっこう悪いな」
「クルマじゃ無理だよね」
「太郎、すごいことを言うのね」
「おねーちゃん、ヘリコプターってのもあるんだよ」

                                 文頭へ戻る

●恥さらし

「でも、交信数を増やすなら高い場所のほうが良いってお父さんは言ってるじゃないか」
「太郎、あんたいいところを突いてるよ」
「恥ずかしいじゃないか、みんなが集まる頂上でCQ、CQなんてやれるか・・・」
「親族旅行のとき、丹沢の大山でやったじゃないか!」
「それで、じいちゃんやばあちゃんに煙たがれただろう」
「一人でやればいいんだよ」
「家族を連れて行かなければいいのよ、ねえ太郎」

「恥を晒すのは止めてよ! 」
「お母さんが、恥ずかしがることはないよ」
「無線をして遭難なんてされたら、わたしが恥ずかしいわ」
「そんなの関係ないよ。亭主が勝手なことをしたと言えば済むことさ」
「コールサインを言えばどこの誰かが分かるでしょ。新聞に出たら笑い者よ」

「お母さんは、お父さんが一人で出歩くのが嫌なんでしょ」
「一人の方が自由に動けるんだけれど、お金を出してくれないんだよ」
「自分だけ楽しもうというのが許せないわ」
「やきもちを焼いているの? 」
「お父さんは、独身時代にやりたい放題で過ごして来たから羽を伸ばしたらキリがないのよ」
「四〇歳近くになって、人様の前でCQ、CQなんて口にするのは自分でもためらうよ」
「家の中とかクルマで出すのと違うのね」

                                 文頭へ戻る

●交信で雑談 

「CEOこんばんわ、今日はツー・エリアに移動したよ」
「どこに行って来たんだ」
「富士宮の五合目さ。三〇局稼いだぞ! 」
「朝方、クルマで移動してるとき呼んでいたから、どこかに出向くと思ってたけど富士山だったんだ」
「箱根ばかりじゃ飽きるからな」
「箱根なら応答ができるんだが・・・」

「天気がいいから足を延ばしたんだ」
「風呂にも寄ってきたんだな? 」
「それが運用のお約束さ・・・」
「家族サービスも大変だな」
「身を固めれば嫌でもそうするしかないぞ」
「家族もよく我慢できるね」

「CBA、聞いてる。J×1BEL」
「BEL、今晩わ」
「相手はCEOだね。入っていいかい?」
「BELさんどうぞ」
「メインでCBAが呼んでいたから、ちょっと聞いていたんだ、丸子ちゃんと太郎くんも一緒かい・・・」

「BELのおじちゃんだ。一緒だよー」
「静かにしろよ!」
「BELが出てきたんで、子供がはしゃいで困るぜ! 」
「太郎も一緒って言ってよ」
「静かにしろよ、丸子!」

「三〇局稼いだよ。CEOどうぞ」
「丸子ちゃんも太郎くんも元気だね。今晩わ」
「CEOのお兄ちゃん、こんばんわ」
「太郎も元気だよー」

「静かにしなさい! あとでお父さんが怒るからね・・・」
「ちょっと子供を別の部屋に置いてくるからBEL、CEOと話していて」
「CEOは今日はどこに燻っていたんだ」
「仕事だよ。飛び入りが入って休日返上さ。BELどうぞ」
「それじゃ悲惨だったね。今度いい子を紹介するからね。CEOどうぞ」
「みんなが聞いてるから、それは有線(電話)でお願いします。CBA、そろそろまわすよ」

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●世話好きなBOO

「ごめんごめん、あんたたちが出てくると子供がはしゃいでしまうんだ。富士宮はワン・エリアとの交信には不向きな場所だ、BELどうぞ」
「元気でいいじゃないか。温泉は御殿場か? この間は、その先へ移動したんだよ、CEOどうぞ」
「みんな移動しているんだな。俺は仕事で忙しいのに・・・。BIGはこのごろ出てきてるか。夜の遊びで忙しいのかな、CBAどうぞ」
「温泉は御殿場さ。日帰りで入れる場所は限られているからね。BIGとはこのごろ交信してないよ、どうしたんだろ。BELどうぞ」
「BIGは朝方に呼び出しをかけていたよ。多分ヨットじゃないか。あいつは俺と同い年だけど、今さら身を固める気はないようだ。CEOどうぞ」
「めんどくさくなるのかな? 俺はまだそこまで踏ん切りがつかないね。CBAどうぞ」

「人生相談なんて無線でやるなよ。BELさん、CEOに結婚相談所でも紹介してやってください。移動運用には邪魔なんだけど、BELどうぞ」
「さっきその話をしたところだよ。家のBOOも世話をしたがってるんだ。CEOどうぞ」
「二人でからかって、BOOまで出す気かい。奥さんは元気ですか、BELどうぞ」
「BEL了解。順番が狂ったな。BOOが横にいるから変わるよ」

「みなさん今晩わ。あんたたちウブなCEOをからかって・・・。いい子を探してあげるよ。どんな好みだったかしら、CEOどうぞ」
「この話は止めようよ。俺は次回に降ります、CBAどうぞ」
「からかうつもりはないいんだよ。家族を持つ楽しさを教えて上げただけさ、BELどうぞ」
「一人は毒だぞ。CBAのように家族サービスをして、かーちゃんの尻に敷かれる方がいいぞ。後で電話して! CEOどうぞ」

「後で電話をします。BOOもよろしく。それじゃ、みなさんおやすみなさい、CBAどうぞ」
「CEO、悪かったね、またよろしく。BELどうぞ」
「CEOおやすみ。待ってるよ。CBA、俺も終わるから、後をよろしく」
「CBA了解。各局ありがとうございました。以上で終了します」

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●子どもを巻き込む  

「また《マフィアの集会》をしたのね。かれこれ一時間もワイワイ騒いで・・・。ひまじんばかりね」
「お父さん、今日はBOOのおばちゃんまで出てきたじゃない」
「おばちゃんはいつも元気だなー」
「子供まで連れ回るから、変になついてしまうじゃない! いいかげんにしてよ」

「いい人たちだね、お父さん」
「優しい人たちだよ、お母さん」
「まったく、あんたたちは・・・」
「子供を叱ることはないだろ! 人を見かけで判断するなよ」

「わたしは変な人と関わりを持ちたくないのよ」
「俺だってそうだよ。でも、変な人と決め付けるのもおかしいぞ。いろんな人や家庭があるわけだから、それを批判しても始まらないよ」
「あんたは人見知りが激しいくせに、仲間になると変にかばうんだから」
「来るものは阻まず、去るものは追わずでいいじゃないか」
「深入りしないでよ。あたしまで引きづりこまないでね」

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●釣りにたとえれば

「CBAさん、今晩わ。さっきの交信を聞いていましたよ」
「入ればよかったのに・・・、DONさん」
「賑やかだったので入りそびれました」
「ところで、今日はどんな話ですか、DONさん」
「移動運用のコツを教えてもらおうと思ったんですよ、CBAさん」
「コツなんてありませんよ。でも、釣りに似てるかな。釣れそうな場所をあらかじめ探して、相手がいる時間を選んで、呼びかけることですかね」

「場所と時間と餌ですか?」
「釣りと同じで、釣れる場所でも潮時と撒き餌が欠かせませんよ。相手が起きている時間に、魅力がある場所で呼びかけることですかね」
「タイミングがようやくつかめてきました。珍しい場所なんてめったにありませんよ」
「近くの山でも観光地でもいいですよ」

「後はどんなことがありますか?」
「長話をしないことですかね。待ってる人が飽きて去ることも忘れてはならないでしょうね」
「何でですか? 」
「移動運用は珍しい場所だから応答してくれるわけでしょ。一人にかかりきりになっていたら他の人は諦めて去ってしまいますよ。カード交換が目的なら、一人二分以内でさばかないと、応答してくれませんね」
「慌ただしいですね。億劫ですよ」
「他の周波数とか他のバンドで運用すると手際の良さが問われますよ。極端に言えば、『おはよう、こんちわ、カードよろしく』と、互いのコールサインの確認で次に移りますよ。わたしは設備が非力だから、受信にまわりますが、次に応答してくれるまで我慢ができるのは三分以内ですね、DONさん」

「のんびりしていられませんね? ゆっくりやりたいときはどうしますか?」
「それはわたしの移動運用では無理ですよ。一時間以内に交信を済ませないと家族の批難が始まるから、長話をする気はありません」
「愚問でしたね。長話をすると断って運用するしかないですね、CBAさん」
「わたしの場合は、長く話すときは二一メガとかこの周波数のSSB(単側波帯)を使いますよ。あとは、特定の局を呼び出して交信しています。移動運用はバッテリーの制約があるから短時間の運用が原則でしょう」
「いつも質問ばかりですいません。そろそろ終わりましょうか」
「今日は早起きして動き回って疲れました。DONさんまたよろしく」

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