図解編
追認を含めた意思表示
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もくじ
1無権代理と追認
2追認の意義
3追認の効果
民法総則は意思表示の展示室です。総則第5章の法律行為は意思表示が節をまたぎ、形を変えて登場します。
そして、三つの山を越えていく難義な縦走を強いられます。
意思表示というと本人の心の内(内心)かと錯覚しますが、民法が取り上げる意思表示は権利や義務の変動がかかわる法律行為として当事者や第三者に向けたものです。
第2節の意思表示は、心理留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫と例外的な意思表示を並べ、意思の存在・不存在や瑕疵ある意思が当事者と第三者に対して有効・無効となるかを規定するとともに隔地者に対する効力発生時点や公示による意思表示も規定しています。
第3節の代理は、各々の権限を定めるだけでなく、そこに派生する本人、代理人および第三者(相手側)を含めた意思表示の効力を規定しています。
そして、第4節は、第3節の無権代理を取り込み、初めから無効となる取消しを有効とさせる「追認」を取り上げ、一定の事実を追認とみなす「法定追認」も規定しています。
というわけで、最後の追認の山へ向かいます。
追認が飛び出すのは、代理の最後にある「無権代理」(113〜118)です。任せもしない無権代理が条文にあること自体がわたしには不思議でした。まして、本人が追認すること自体がありえないことで、これは想定外の事態です。言葉どおりに解すれば無権代理は本人に断りなく代理を主張する者で、飛び入りの乱入者ですから悪者になります。
しかし、権限はなくとも本人の利益になる行為もありうるわけです。だから、本人の追認もありえます(113条)。そのためには、無権代理の相手方(以下同じ)に追認や拒絶をしたことを示さねばなりません(113条)。反対に、取引の安定性のためには、相手方が本人に代理であることを確かめる必要もあります(114条)。本人が代理と認めなければ相手方は契約を取り消します(115条)。そればかりでなく、追認した以上は、追認の効果は契約時にさかのぼるのも当然です(116条)。
本人の追認がなければ、もともと代理権はないのですから相手方に自ら履行するか損害賠償するのは当然のことです(117条)
条文の引用は煩雑になるので要点だけまとめました。条文を確かめてください。
2追認の意義
追認は無効や取消しだったものを有効にさせる意思表示です。これは無権代理と表見代理を比較すると納得できます。
無権代理のほかの代理人の条文には追認はでてきません。表見代理は、代理契約を交わした者が契約解除後に行なった行為や契約はなくても第三者に対して代理権限を授与された者が行なった行為をいいます。それは第三者である契約の相手方には本人の代理と錯覚させるモトが本人にあるからです。だから、例外的に相手方の注意力や代理人であった者の責任が問われますが、取引の安定性や互いの信頼関係から代理人の行なった行為は基本的に有効とされ、本人が責任を負うわけです。表見代理と無権代理はそこが違います。
なぜ、無効や取消しとなるものが追認されるかといえば、本人にとって有利な意思表示であるからです。詐欺や強迫でもない限り自分に不利な行為を受け入れるなど事理弁識能力がある者がすることではありません。
第4節のタイトルは「無効と取消し」ですが、取消しと追認に費やされています。無効と取消しはいずれも有効でないことです。その違いは、無効が始めから無効なことに対して取消しはそれが否定されるまではいちおう有効となることです(119条と121条を組み合わせてそう解釈されているだけでこのように書いてある条文が見当たりません)。
ここで第2節の無効と取消しを思い出してください。無効となるのは、「意思の不存在」である通謀虚偽表示と錯誤でした。また、取消しになるのは、「瑕疵ある意思表示」である詐欺と脅迫でした。そして、通謀虚偽表示と詐欺は善意の第三者に対抗できません。
第4節の条文は上記を思い出して読んでください。ということで要点だけを整理します。