図解編
法と法律の基礎知識
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法律用語を個々に説明すると、法や法律が何のためにあるのかがわかりにくくなり、断片的な知識の集積にとどまるだけでなく、牽強付会(ゴリ押し)の元になります。
そこで、法や法律の基礎的な知識(法学基礎)を整理しておきます。★は補足ですから、読み飛ばしてください。わたしの独断も含めています。
法律学辞典や用語辞典の最初にでてきますが、慣れると忘れて無視しがちな部分です。
1 法と法律
2 法の区分
3 法源
4 権利と義務
5 法の解釈
法は、人が生活する上でかかわる家族のつながりや社会のつながりに生じる約束ごとで、生まれながらに持つ権利や義務のほかに、社会的な慣習などの規範や制限が伴います。
法は、文章になっているか否かにかかわらず、社会共同体で暗黙の約束とされる決まりです。ある人にとっては煙たく映り、別の人には我が身と家族を守る根拠となります。
法律は文章でまとめ、慣習が積み重ねられた法のことです。「法典」とも呼ばれます。日本で「法律」という場合は国会の審議を経て、成立し、公布されたものです(憲法59条)。法律を運用するために「政令」「省令」「告示」が作られ、地方自治では「条例」や「規則」になります。
法の適用範囲は公法と私法に大別され、生活関係から人格権・身分権・財産権の区分、権利の内容から支配権・請求権・形成権に区分されます。
★暗黙の約束・意思表示
社会共同体には「慣習」や「慣行」という暗黙の約束があります。民法は「公の秩序に関しない規定と異なる」場合は慣習に従います(92条)。意思表示をしないで拒否し、表示を保留する「黙秘」は人が持つ正当な権利行使です。
★人格権
民法の条文は身分権と財産権が中心で、人格権はごくわずかです。人格権は、人間と切り離せない身体・生命・自由・名誉にかかわる権利です。民法でかかわるのは710条の「財産以外の損害賠償」です。
★形成権
物に対する支配権が物権で、相手に行為を求める請求権が債権です。形成権は、権利者の一方的な行為で権利関係を変更するもので解除権や取消権があります。
法は文章になったものと限らず、その中には次の内容が含まれています。
個々の法律はこの区分の中で位置づけられ、解釈され運用されます。
下の表の区分以前に自然法と実体法という大きな区分がありますが、法思想史にかかわりますので省略します。
形成過程 |
制定法 |
判例法 |
慣習法 |
|
表現形式 |
成文法 |
不文法 |
|
|
及ぶ範囲 |
属人主義 |
属地主義 |
|
|
法益・対象 |
公法 |
私法 |
社会法 |
経済法 |
拘束力 |
強行規定 |
任意規定(補充規定・解釈規定) |
||
普遍性 |
一般法 |
特別法 |
|
|
内容 |
実体法 |
手続法 |
|
|
規範性 |
社会規範 |
行為規範 |
裁判規範 |
組織規範 |
性質 |
法の目的 |
法の安定性 |
法の効力 |
法の実効性 |
★形成過程
形成過程は、法がどのように作られたかを区分するもので、目的等を基に法律としてまとめられた制定法、裁判例の積み重ねを基とする判例法、取引や社会の慣行を基にした慣習法があります。
★不文法
判例や慣習を優先するのが不文法です。英米のように民法典がない国もあります。
★法の及ぶ範囲
人を中心にまとめるのを属人主義、地域を中心にまとめるのが属地主義です。法律には適用される期間のほかに、対象となる人間や地理的範囲が決められます。
★法益・対象
法益や対象は、誰が主体で誰に影響するかの区分です。国家と国民の関係が公法、私人間の関係が私法です。
国家を「個人と別の団体」とみる考えと「個人の集合体」とみなす考え方のちがいで国家と私人の区分が異なります。国家を別の団体と考えると特別の権力や国家の規範もでてきます。
★拘束力
法が強い拘束力を持ち、義務者に従わせるのが強行規定です。任意規定はある程度の判断余地を法に持たせたものです。補充や解釈の余地が生じます。
★普遍性
一般法は普遍的に構成され、特別法はその缺陥(けっかん・穴)を補完するものです。特別法は一般法に優先するのが法律の原則です。
★実体法
権利や義務の内容を定義し、法律関係の実質部分となる法が実体法です。民法や特別法。それを運用する手続きを定めた法が手続法です。民事訴訟法・破産法・民事執行法。
★規範性
法には●●であるべきという価値判断が含まれ、これを規範性といいます。民法90条の「公序良俗」の規定がその例です。また、「規範性」は裁判の判断基準や組織行為の判断基準という使い方もします。
法が現れる形式とか、法を構成する材料といわれ法律の根拠とされます。法律学では法律に至る根拠の説明にあれこれ並べ立てられる退屈な部分です。似たような用語に「権原」と「権限」のちがいがあります。
★権原
法律行為または事実的行為を正当とする法律上の原因。法律の根拠は「法源」です。
★権限
一定の者が行なった行為が法律上正当と認められ範囲。
法律関係は法を通じた人と人のかかわり合いで、互いの行為の中に権利と義務が生じます。権利と義務は一体のものですが、権利獲得の歴史を反映して、法律は権利を中心とします。
権利や義務を発生させる行いを作為といい、権利や義務を行わないことを不作為といいます。行為は意思の反映とみなされ、意思の成り立ちで責任や賠償の範囲が限定されます。行為には行なったことだけでなく、行わなかったことも含まれます。
正当防衛や緊急非難でやむを得ず加害行為をした場合は損害賠償を免責されます(民720条)。
義務は、状況や内容に応じて、「給付」、「責任」、「返還」、「賠償」などに使い分けられます。詳しいことは用語集で触れています。
行為 |
作為 |
不作為 |
|
|
権利 |
既得権 |
期待権 |
|
|
義務 |
給付 |
責任 |
返還 |
賠償 |
★既得権と期待権
法に保護されている権利が既得権で、一定の事実により将来得られる権利が期待権です。
★給付
債務者が義務を果たす行為を給付といいます。義務の履行内容に注目した言葉です。
日本の法学は解釈学と言われます。条文に書かれていないことや判例の解釈が中心です。法律の目的や趣旨、効力、実効性、適用範囲、適用方法などが様々に解釈されてきました。
そこで、法の解釈がどのように行われるかを整理しておきます。
目的解釈、論理解釈、拡張解釈、縮小解釈で足りるのに細かいことを並べるから法律家は煙たがれるのでしょう。
有権解釈(公権的解釈) |
学理解釈 |
|
拡張解釈 |
縮小解釈 |
勿論解釈 |
類推解釈 |
反対解釈 |
条理解釈 |
文字解釈 |
文理解釈 |
補正解釈 |
論理解釈 |
目的(趣旨)解釈 |
★有権解釈
法を解釈する権限を持つ機関が行う法の解釈を有権解釈または公権的解釈といいます。
★もちろん解釈
法文に書いてあることを他に置き換えて同じ結論を引き出す解釈をもちろん解釈といいます。
★条理解釈
ものごとの道理に基づいた解釈を条理解釈といい、法が不完全な場合に補完する解釈です。
★補正解釈
法文の言葉を変更して解釈することを補正解釈といいます。
類推解釈は刑法では禁じられています。補正解釈・もちろん解釈・類推解釈はわかりにくく、説明できません。
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