たかがクルマのことだけど

自転車の運転で問われる責任〜故意と過失の間に〜


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 自転車による死亡事故や重傷が増えて取り締まりも厳しくなるようだ。手軽ゆえに安易な利用がまかりとおり、ぶつかっても詫びもせず通り抜ける身勝手さは目を覆う。クルマの運転免許保有者が自転車で法規無視するのも腹立たしい。この際だから民事、行政、刑事の3つの責任をおさらいしよう。ここにあげるのは概要ですから詳しいことは専門書を読み直してください。

 第1に民事責任。損害賠償の問題である。幼児から老人まで幅広く利用されている自転車は無保険が多いという現実がある。自動車賠償責任保険の適用がないから、ぶつけられても被害者を救済できるものがない。これは加害者も同じことで自腹をきって弁償するしかない。加速がついた自転車が人間にぶつかれば死やケガと結びつくことを忘れてはなるまい。相手に与えた損害は子どもであれ大人であれ償うしかない(保護者や事業者に及ぶ場合もある)。保険の勧誘はしたくないが、何千万円の損害賠償が請求される時代であるからバイコロジー保険をかけて自転車を使うのが当たり前のようだ。

 第2は行政責任。道路交通法の責任が問われることだ。自転車は「軽車両」に含まれるりっぱな車両であって道交法が適用されるのを忘れてはなるまい。免許がなくても運転できるが、交通法規に従うことに変わりはない決められた通行区分帯を走行し、信号を守り、合図をし、灯火をつけ、歩行者を傷つけないことが求められる。自動車には弱くても、人間には凶器に変わる乗り物である。違反した場合は、クルマと違って「反則金」(いわゆる青キップ=これは行政罰である)がなくて、「罰金」(赤キップ=これは刑罰である)になることも無視できない。「飲酒運転」、「無灯火運転」それに「信号無視」などは道交法の取り締まりの対象になることは忘れてはなるまい。お父さん、お母さん自転車だから何でも許されると勘違いしていませんか。

第3が刑事責任。罰金だけでなく交通刑務所に入ることもある刑罰である。これは刑法や道交法の条文をあげて説明したい。自転車は、自動車の運転ほどの厳しい罰則はないと思い込んでいても、けっこう厳しい処分がある。ちなみに、「故意」は意図して罪を犯す意思がある行い、「過失」は不注意によって犯罪事実を防止できなかった落度ある態度とされている。この間に、結果が予想できるのに放置して死にいたらしめる「未必の故意」もある。

過失障害罪(刑法209条)

 これは「過失により人を傷害させた」場合に自転車も責任が問われる。被害者の告訴がなければ公訴されない。罰則は30万円以下の罰金または科料である。

過失致死罪(刑法210条)

 これは「過失により人を死亡させた」場合に自転車も責任が問われる。罰則は50万円以下の罰金である。

重過失致死傷(刑法211条後段)

 ここで忘れてはならないのは「重過失」という用語である。上記の2条よりも過失の程度が重く、信号無視や飲酒運転など運転者の振る舞いに重い責任が問われることだ。「重大な過失により人を死傷させた」場合に自転車も責任が問われる。罰則は、5年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金である。懲役や禁固がつくのに注意しよう。
ちなみに、この条文の前段はドライバーにはおなじみの「業務上過失致死傷」である。「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷」させた場合に問われ、遊びでクルマを運転しても適用される条文だ。罰則は同じである。

酒気帯び運転の禁止(道交法65条1項)

 この条文には「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の2つがあることに注意しよう。罰則も違いがある。自転車が含まれるのは前者で、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれにある状態」といわれ、強度の二日酔いで運転した場合も含まれる。罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金と重い。

 後者は自転車を含まないが政令で定める「血液」または「呼気」に含まれるアルコール保有状態で適用される。酒に強いとか弱いとかでなくアルコール残量が問われる。罰則は1年以下の懲役または30万円以下の罰金である。

 法律の専門家でないからこれ以上触れる気はない。起きてから悔やむのではなく、知っておかなければ他人に迷惑をかける現実を忘れてほしくないだけである。自転車だから許されるといういうのは身勝手な思い込みだろう。


5月14日追加分

 おどすつもりはありませんがご家族に教えてあげたほうがいいので追加します。

 警視庁のホームページの「ご存知ですか、自転車の正しい乗り方」には道交法関係の罰則が次のように掲載されています。(抜粋)

 ○「一時停止」の標識のある場所や「見通しの悪い交差点」では、必ず止まって安全を確認しましょう。
 
   一時停止違反・・・・・3月以下の懲役または5万円以下の罰金・過失罪あり

 ○「自転車通行可」のある歩道では、歩行者の通行に迷惑にならないようにしましょう。
 
   歩行者通行妨害・・・・2万円以下の罰金または科料

 ○信号は、絶対守りましょう。

   信号無視・・・・・3月以下の懲役または5万円以下の罰金

 ○二人乗りや、携帯電話で話しながらの運転は危険ですからやめましょう。

   二人乗り・・・・・2万円以下の罰金または科料
   携帯電話で話しながらの運転は、安全運転義務違反になる場合があります。

 ○夕暮れどきは、早めにライトを点灯しましょう。

   夜間無灯火・・・・・5万円以下の罰金・過失罪あり

 ○酒を飲んだら、絶対に乗らないようにしましょう。

   酒酔い運転・・・・3年以下の懲役または50万円以下の罰金


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