8 息子が開放弦でドレミを弾こうと試みる

ギターに挑戦


 アルバイト休みの息子がギターをいじり始めた。娘が左指を押す位置を教えたら、その位置をつまんで音を出すのに度肝を抜かれた。確かに音は出るが開放弦の部分はつまんでも変な音である。教則本には目もくれない奴だからやることも奇抜である。

 さっそく左指と右指の使い方を教えるとそれなりに弾きこなすのも左右の指を鍛えているゲームマニアの強みだろう。昨日はDVDの『フォークギター入門』を一緒に見た娘はいったいどんな教えかたをしたのだろう。それはともかく思わず吹き出す始末だ。

「やっぱり左指で押して右指で弾くしかないのね、開放弦の意味がようやくわかったわ」と娘が言い出すのも呆れた。ギターを話題に親子で騒いでいると相変わらず関心を示さない妻がけげんな顔つきであっけにとられている。(2006/12/29)



       【もしもギターが弾けたなら】

 もしもギターが弾けたなら道楽三昧をしないですんだにちがいない。不器用だから楽器は一切いじれない。音楽の授業でハーモニカやリコーダを習ったはずだが身に付かなかった。でも、独身時代には部屋にギターを置き、ドライブに持ち歩いた。ともだちに演奏させて唄うためだった。

 カラオケルームが流行る前は小さなスナックにもピアノやギターが置いてあって、酒の勢いでのど自慢が始まった。楽器が弾けなくても唄えたからフォークソングをがなりたてた。週末には丹沢や八ケ岳のキャンプ場で焚火を囲んで互いの持ち唄をわめき散らした。

 ギターに挑戦したことも何度かある。コードを覚え、テンポも真似たが右手と左手を同時に動かせないからあえなく頓挫した。C、Am、Dmまではなんとか押えられたが、FやD7が出てくるとお手上げである。特に、セーハーを強いられるFにはてこづった。演奏ができないから作詞に手を染めたが、プロテストソング風で煙たくなるからすぐ飽きた。聴くのと作るのは別物だと実感した。同世代には井上陽水や吉田たくろうを始めとして作詞、作曲、演奏をすべてこなす唄い手が多いのに口惜しい。

 ギターに限らず、楽器が弾ける人が羨ましい。言葉で伝わらないことでも音楽で共感しあえることもある。言葉は飾るほど空虚に響くものだ。文字に残せば後片付けも面倒だ。大切な人の前ほど黙っていることも多い。ギターが弾ける人が羨ましい。(2005/02/19)