76 思い出に残る日本のギタリスト五人

ギターに挑戦

 日本マイクロソフト社の社長だった成毛眞(なるけ・まこと)さんの『本は10冊同時に読め!』(知的生きかた文庫、三笠書房、2008年)を読み流した。副題は「本を読まない人はサルである!」で妻に見せたら激怒するタイトルだ。でも、本ばかり読んで、他人を批評し、実行が伴わないならナンセンスである。わたしのように本を読んでもサル知恵しかないのもお粗末だろう。そこで思いついたのが日本のギタリストである。

●成毛茂

 成毛と書いて「なるも」と読むのにわたしは慣れている。成毛茂(なるも・しげる)というギタリストがいたからである。気になってウィキペディアで「日本のギタリスト」を調べたら、2007年3月29日に亡くなっていた。1947年生まれだから享年60歳であった。1960年代後半から70年代に国内のロックで活躍し、その演奏もラジオから流れたものである。シンセサイザーも駆使していたような気がするが勘違いかもしれない。彼は研究家肌のギタリストでベンチャーズのナンバーを演奏中にギターの二弦を押し上げてピッチを高くする奏法(いわゆるベンデング)を発見したほか、手のサイズが狭い日本人にあったギターの開発にも努め、「高いのは当たり前、安くて良いのが素晴らしい」という発言を残している。成毛さんはロックの名演奏家であるとともにキーボードをあわせて弾くことができた。ウィキペディアに掲載されている経歴にしてもすごいし、渡米してウッドストックにも参加したそうだ。年間1,000曲以上の作曲や編曲をしていたわりに彼の演奏が残っていないのも不思議である。

●水谷公生(水谷淳)
 
 ギターに再挑戦してから、アコースティックからエレキに興味が変わりつつある。わたしの中学時代はベンチャーズのコピーから始まるグループサウンズ(GS)が全盛だった。バカにしつつも無視できないのがエレキギターの金属的な響きである。たびたび取り上げる風の「海風」にしてもエレキでなければ出ないノリである。もっともそれで風はファンを失った(今年の4月に再結成公演があるようだ)。ともあれ、この曲は水谷公生(水谷淳)のエレキがなければありふれたフォークにとどまったことだろう。この人も成毛茂と同い年である。現在も作曲家・編曲家・ギタリストとして活躍している。アイドルに曲を提供したほか浜田省吾・南こうせつ・村下孝蔵の編曲もしていた。風の5枚のLPには編曲と演奏で参加していたがウィキペディアには載っていないのも残念だ。
 
●石川鷹彦

 1月に2週連続で南こうせつ・イルカ・伊勢正三の三人が登場するテレビ番組があった(ブログに掲載しています)。その後ろで演奏していたのが石川鷹彦さんだ。2週目にはテレビでさわりを独演するほどであった。アコースティックギターのほかにフラットマンドリン、バンジョー、エレキギター、シンセサイザーまでこなすマルチプレーヤーだ。吉田拓郎、かぐや姫、風、アリス、中島みゆき、松山千春、さだまさし、長淵剛、森田童子などの編曲をしていて、フォーク界の生き字引のような人である。イルカの「なごり雪」や風の「22才の別れ」は石川さんの編曲と演奏がなければあれほどヒットしなかったと思う。
 
●鈴木茂

 伝説になった「はっぴいえんど」のギタリストが鈴木茂だ。作曲して自ら歌った「ソバカスのある女」や「レイニーステーション」は南義孝が歌った方がうまかった。天才ギタリストといえども歌うのは苦手のようである。彼はボトルネックプレイを通したことに独自性があるようだが細かい違いはわたしにはわからない。ベーシストの細野晴臣と一緒にキャラメルママ、ティン・パン・アレーに発展し、荒井(松任谷)由実のバックを務めたことも忘れられない。はっぴいえんどのときは「花いちもんめ」などを歌っていたそうだが、あのバンドは大瀧詠一や細野晴臣という多才なボーカルがいたから目立たなかったのだろう。わたしは今でも彼のLP「BAND WAGON」を聴くこともある。
 
●寺内たけし

 日本の「エレキの神様」といわれる寺内たけしさんも忘れてはなるまい。ブルージーンズなしに日本のエレキブームやグループサウンズはなかったことだろう。加山雄三の「エレキの若大将」にも登場し、ひょうきんな顔を印象つけた。クウラッシクのの編曲も手掛けてベートーベンの「運命」やシューベルトの「未完成」まで演奏するなどジャンルの広さには驚く。「ギターは弾かなきゃ音が出ない」という座右の銘があるそうで、いつまでたっても上達しないわたしは思わずひれ伏してしまう始末だ。1939年生まれで今も活動しているのだからびっくりさせられる。工学部電気工学科卒業の経歴を生かして実業家として活躍するほか、母校で土木工学と土木建築の講座を持つというのもただのギタリストではない。
 
 このほかにも、伊藤銀次(ナイアガラトライアングル)、大村憲司(赤い鳥)、小松久(ビレッジシンガーズ)、井上尭之(スパイダース)、星勝(モップス)、布袋寅泰(ボーイ)、エディ・蕃(ゴールデンカップス)などのギタリストがいるけど疲れたので次の機会に回したい。2008/03/09