「戦略的倒産」で約束を反古
    2006年11月10日


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 日本では民事再生法や会社更生法などを申し立てるには企業が「支払不能」や「債務超過」に陥っている必要がある。でも、アメリカ連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)では申し立ての要件が何も要求されていないため「資産超過」でも可能だという。つまり、経営に行きずまっていなくても企業を意図的に倒産させて、組合との協約を反古にしたり損害賠償の支払を回避する「戦略的倒産」の事例もあるようだ。日本とアメリカでは倒産という考えに大きなズレがある。

 目まぐるしく変わる倒産関連の法律を確かめるために藤原総一郎さんの『企業再生とM&Aのすべて』(文春新書、2005年)を読んだ。弁護士による法律の解説であるが具体的事例に基づく手続きや再生技法も紹介されていて参考になった。ちなみにM&Aというのは企業の合併や買収である。アメリカの例はこの本で知った。

 日本の場合は行きづまった企業をいかに立て直すかにあるが、アメリカでは経営の選択肢のひとつとして資産超過の企業が倒産を申請できるようだ。アメリカのやりかたは損得計算に基づいて守るべき約束を破ったり、賠償額を値下げさせる方法として使う。

 倒産や再生は債権者や株主のほかに労働者を巻き込む例外的な痛み分けと考えていたが、経営の選択肢となると痛みの一方的押しつけや約束の無視に至るだろう。いずれ日本でもそういう考え方がもてはやされ正当化されるのだろうか。


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