久しぶりの漂流記:エンデュアレンス号大漂流
    2006年10月03日


トップページに戻る  目次ページに戻る 


 今から100年前は南極は未知の場所だった。イギリスのスコットとノルウェイのアムンゼンが極地到達争いをしたのは1911年の暮れから翌年にかけてだった。北極探検を諦めたアムンゼンが成功し、彼に先を越されたスコットは帰途に遭難死した。1901年にスコットがディスカバリー号で最初に南極探検に出向いたときの隊員だったアーネスト・シャクルトンが1907年の探検に続く3度目の探検を目指しながら漂流した記録『エンデュアレンス号大漂流』(エリザベス・コーディ・キメル著、千葉茂樹訳、光文社、2006年)を読んだ。

 エンデュアレンス号は3本マストの大型帆船で全長45m、幅8mの石炭エンジンつきの特別に頑丈に作られた船だった。船の名が「不屈の精神」というのも意味深長である。第1次世界大戦が開始されたてからの出航というのも華々しい実績を持つシャクルトンへの期待の大きさの現れだろう。

 南極点到達はすでに成し遂げられていたのでシャクルトンは3000kmの南極大陸横断を目指した。これもスケールの大きな探検である。実際に達成されたのは43年後であった。現代のようにGPSや飛行機の支援もない時代の未知の世界への挑戦だった。

 この漂流記は次の点でユニークである。
 (1)約2年にわたる漂流にもかかわらず乗員28名が全員救助されたこと
 (2)氷に閉じ込められたエンデュアレンス号の沈没から乗員が救助されるまでの写真や日記が残されたこと
 (3)シャクルトンの信望やリーダーシップが大いに発揮されて隊員に反目が生まれなかったこと
 (4)船を失ってから救命ボートで2000km離れた島まで救援を求めた決死行が成功したこと

 この漂流については、冒険譚として読んでもおもしろいし、リーダーシップの事例としても十分読みごたえがある。今回の本は楽天的でありながら痒いところにも目が届くシャクルトンの人間的魅力にスポットライトがあてられる。新潮文庫にある『エンディアランス号漂流』(アルフレッド・ランシング著、山本光伸訳、1998年)が乗員の記録をもとに漂流を詳細にたどるのと対照的である。

 興味の欠ける人に細々とした漂流の内容を紹介するのは気がひける。だから、内容についてはこれ以上立ち入らない。今回の本は200頁足らずで写真も多いから半日で読み終えた。ちなみに、新潮文庫は500頁近くあって過去に挫折している。失敗はしたけれど、全員が生還した漂流という安堵感で読めるのが嬉しい。

文頭に戻る