8月28日 横浜〜神戸 二年振りに、夏休み、旅行をすることにした。昨年は、家を買ったりして、所謂、‘自粛’をしたのだけど、あまり‘自粛’を続けると退嬰的になり、精神的にも、肉体的にもよくないという思いがあった。当初は、青春18きっぷを使って、まだ行ったことのない広島に行こうと思っていた。原爆ドームを見たことはなかったし、安芸の宮島にも行ってみたいと思っていた。安芸の宮島へ行けば、松島と天橋立には行ったのだから、日本三景完全制覇ということになる。そのついでに前々から行ってみたいと思っていた尾道に寄ろうと考えていた。 そこで、旅行ガイドを買いに行ったのだが、広島と尾道の両方の載っているガイドはなく、倉敷・尾道というセットになっているものばかりだった。旅情の強く感じられる尾道の懐かしい町並みに、憧れを持っていたので、尾道を中心にしようかなという思いが強くなった。広島はガイドがなくても何とかなりそうだったので、倉敷・尾道のガイドを買った。 家に帰って、ぺらぺらとページを繰っていくと、倉敷美観地区の美しい風景にすっかり参ってしまった。倉敷は通過するだけの予定だったが、これはぜひにでも行程に入れなればと思い、時刻表を見ていくと、倉敷、尾道、広島と周れないことはないが、かなり慌ただしい旅になりそうで、それだったら、倉敷と尾道をゆっくりと周った方がいいのではないかという結論になった。 朝六時半に家を出て、最寄りのバス停から駅にむかった。朝も早いので、空いているかと思ったら、大間違いで、バスの車内は混んでいて、座れないくらいだった。七時過ぎに駅に着き、熱海行きの東海道線に乗った。熱海からは運よく浜松行きに乗れたのだが、途中で僕が腹痛に見舞われ、蒲原で途中下車し、トイレに駆け込むということになった。幸い、大事には至らず、蒲原駅のベンチに座って、ぼんやり次の電車を待っていると、忙しなかったそれまでの気分が一変し、心地いい旅情を覚えた。 次に来た電車に乗り、島田まで行き、浜松、豊橋と乗り継いでいった。問題は、名古屋からの行程だった。米原に向かって、東海道本線で琵琶湖南岸を通って、京都―大阪―神戸といった方がいいのか、関西本線で亀山−木津―尼崎―神戸といった方が早いのか、という問題である。地図上でみると距離的は関西本線を使った方が早そうだったが、東海道本線だと米原から姫路行きが出ており、一本で神戸まで行けることから、琵琶湖南岸を周るコースを取ることにした。 米原で駅弁を買って、ホームのベンチに座って食べた。電車が横座りだった場合、電車の中で食べられないと思ったからだが、米原に入線してきた電車をみると、座席はボックス型だったので、これだったら電車が走り出してから車窓から外を眺めながら、ゆっくりと食べればよかったなと少し後悔した。 電車は、順調に京都、大阪と過ぎていった。車窓から見る大阪は、高層ビルが立ち並んだ想像以上の大都会で、ぞくぞくした。今は通過するだけだけど、今度、ゆっくりと周ってみたいと思った。17時半頃、神戸に着いた。駅舎の意外と小さいのに驚いた。どうも神戸市の中心は、神戸駅ではなく、三ノ宮駅の方らしい。しかし、関東在住の僕たちはそんなことは知り由もなく、神戸駅周辺が最も栄えているところだと思っていたのである。 まずはホテルと探さないといけないが、観光案内所も見当たらないし、駅周辺のホテルや旅館の載っている地図もない。止むを得ず、バスの案内所に入って訊いてみると、観光案内所はないという。案内所のおばさんは、かわいそうに思ったのか、以前に紹介したというホテルの電話番号とだいたいの場所を教えてくれた。価格もそれほど高くなかったので、そこに連絡を入れようかと思っていたら、東横インの看板が目に入った。ダメもとで、飛び込みで入ると、部屋は空いているという。あっさりとホテルは決まった。 ホテルで少し休憩した後、散策に出かけた。横浜に住んでいる僕としては、神戸という港町を見ておきたかった。函館や長崎は、何回か旅行したが、その二か所に比べて横浜から距離的にも近い神戸は、まだ訪れたことがなかった。今回の旅行は、倉敷・尾道がメインで、神戸は残念ながら立ち寄るだけだが、少しでも街の香りを嗅いで起きたかった。 バスの案内所でもらった地図を参考に、ハーバーランド地区へ行ってみることにした。妻から「どんなところ?」と訊かれたので、「横浜でいえば、みなとみらいのようなところかな?」と答えたが、それほど的外れでもなかったように思う。 JR東海道本線の高架下には、古い飲食店が軒を連ねており、以前に住んでいた鶴見駅付近を思い起こさせた。高架下をくぐり、反対側にでると今度は阪神高速の高架があった。その高架下を通る歩道橋があり、そこを歩いて行くと、万葉倶楽部なども入居しているプロメナ神戸というビルの二階エントランスに出た。中に入り、一階に降りて、道路に出た。神戸ガス燈通りである。 神戸ガス燈通りには、ガラス張りのumieなどの近代的なビルが立ち並び、多くの人が行き交っていた。周囲を見回しながら歩いて行くとエルビス・プレスリーの銅像があった。プレスリーの銅像のところを入っていくと、左右に持ち上がるはね橋が見えた。このはね橋は小さなもので、人が一人通れるくらいの幅である。ガス燈通りは混雑していたが、はね橋付近は閑散としており、海から気持ちいい風が入ってくる。 はね橋の横には芝生の広場があり、男性の従業員が散水をしていた。その先に、赤レンガ倉庫があった。赤レンガ倉庫は、横浜のものに比べると小振りで、平屋で中にはレストランなどが入っていた。はね橋から続く埠頭の岸壁は、ボードウォークになっており、対岸には三基のタワークレーンが見えた。ボードウォーク先には、ガス灯を模した照明が一列に並んでいて、レンガ造りの土台の上にミントグリーンの美しい塔の建つ神戸港旧信号所が見えた。 岸壁には、所々に石のベンチが設置され、夕涼みがてら犬を散歩させている人も多く見かけた。神戸港旧信号塔のところ回り込むと、大観覧車があり、対岸には六甲山地を背景に、神戸ポートタワーや神戸海洋博覧館などの神戸らしい風景がみえた。また、横浜のヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルを彷彿とさせるオリエンタルホテルもみえた。埠頭には多くの人で賑わっているMOSAICという商業施設があり、その二階に上がり、デッキに腰かけのんびりと神戸港の景色を楽しんだ。 MOSAICにはいろいろな飲食店が入居しており、妻はかき氷を買いに行ったが、何かあったのか、なかなか帰って来なかった。僕の周りは、中国語で溢れていて、スマホでお互いの写真を撮りまくっている。しばらくすると、妻は手ぶらで帰って来た。「かき氷は?」と訊くと、氷をかく機械の調子が悪く、しばらく時間がかかるらしい。結局、かき氷は、注文してから十五分くらい経って、やっと出来上がって来た。 かき氷を食べながら、妻と神戸港の風景をぼんやりと見ていると、客船が入港してきた。コンチェルトというレストラン船で、明石海峡大橋の方まで遊覧するらしい。徐々に日も暮れて来たので夕食をとりに、中華街の方へ行ってみることにした。 中華街、南京町は、神戸港から比較的近い。横浜中華街は、いつも人で溢れているが、神戸の中華街は平日ということもあったのだろうが、歩いている人もまばらで、どの店もあまり客は入っていなかった。横浜に比べて、かなり規模は小さい印象を持ったが、暗くなってからの散策なので、はっきりとしたことはわからない。 どの店の呼び込みもさかんに、980円の点心セット勧めてくる。横浜では食べ放題が全盛のようだが、神戸では格安の点心セットが流行りなのかもしれない。通りの端から端まで歩き、妻が一番客の入っていた店にしようというので、そこに入ると一組しかテーブルにはついていなかった。どうも妻は店を間違えたらしい。しかし、もう入ってしまったので、そこに決めることにした。 メニューをみると、いろいろとセットがあり、僕は八宝菜と酢豚のセット、妻はエビチリを注文した。どちらにもフカヒレスープが付く。酢豚はやや味が濃くて、甘みが強かったが、八宝菜はさっぱりした塩味で美味しかった。辛い物が苦手の妻は、美味しそうにエビチリを食べていたので、やや甘めだったのかもしれない。料理人、給仕係りとも中国人で、暇になると楽しそうに談笑を始めた。 食事の後、再び神戸港をぶらついた。夜の港は、独特の風情があり、いい気分になった。(2017.10.15) ―つづく― |