2008 日光旅行記


その1

 6月13日、仕事を終え、夕方5時に妻と川崎駅の改札で待ち合わせ、宇都宮に向かった。ゴールデンウィークに何処にも行けなかったので、仕事も暇になってきたし、久しぶりに妻と旅行することにした。珍しくダービー、安田記念と競馬で連勝したことも後押ししてくれた。

 東海道線で東京まで行って、そこから山手線で上野、上野からは宇都宮線に乗った。東京から新幹線でということも考えたのだけど、「お金がもったいない」という妻の一言で立ち消えになった。上野から宇都宮まで在来線ではきついような気もしたが、運のいいことに18時22分発の通勤快速に乗ることができた。

 仕事帰りということもあってか、電車の座席に腰を下ろすと疲れが一気に出てきて睡魔に襲われ、体力を温存する意味もあり寝ることを妻に提案して目を閉じた。そうは言ったものの、僕はもともと電車の中ではあまり眠れない性分で時折り目を開けては車窓から流れる景色を見ていた。

 横を見ると、妻は軽い寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていた。この差は何なのだろうと考えると、結局は人間性の違いのように思えてきて、軽い劣等感を覚えた。

 それにしても日が長くなったと思った。7時近いというのにまだ明るさが残っている。梅雨ということを除けばこの時期は旅行に向いているのかもしれない。その梅雨にしても天気予報では今日からの3日間は晴天が続くようだから運がいい。

 8時、電車は終点の宇都宮に着いた。宇都宮で泊まるのは今回で3回目だ。初めは20代前半の頃、東北を自転車旅行したときの1泊目だった。2回目は30代前半の頃、仕事の出張で来た。そのとき以来である。暗いからよくわからないが、駅前の雰囲気は約10年前に来た時とそんなに変わってはいないような気がする。

 さて、まずは今夜の宿だ。宇都宮は大きな街だから旅館やホテルはいっぱいあるはずで、それほど心配することはないのだけど、時間が遅いだけに不安になる。とりあえず、駅にある案内版のようなものを探すが、宿泊施設の載っているものが見つからない。駅の構内とぶらぶらと歩いていると東横インの看板が目に入った。

 宿泊料も適当だし、これから街に出て探すのも面倒臭い気がして妻に「ここにしよう」というと、「もっと見てから決めたい」という。駅の構内をまたブラブラと歩いた。しかし、ホテルや旅館の案内板や広告はほとんど見当たらない。駅の外に出て歩道橋の上から街を見渡して見るといくつかホテルの看板が見えた。

 時間に余裕があれば街中を歩いてホテルの外観や値段を見てから決めるのがいいのだろうけど、時計を見るともう8時30分を過ぎているし、何よりお腹が減っていたので独断で東横インに電話を入れ、部屋をとってしまった。そのことをちょっと離れたところで辺りを見回していた妻に言うと、不満顔だったが彼女も疲れていたのだろう納得してくれた。

 すぐにホテルに行き、部屋に荷物を置いて夕食を取りに街に出た。宇都宮といえば餃子である。しかし、ラーメンと餃子というのも、夕食としては寂しい気がする。そこで中華料理屋を探すことにした。しかし、これがなかなか見つからない。餃子の専門店やラーメン屋はあるのだけど、中華料理を食べられるところがない。かなり歩いたが、不案内の街で好みの食べ物屋を見つけるのは難しい。駅周辺ならあるのではないかということで、そこいら辺を集中的に探すことにした。

 少し歩くとJRの線路沿いに中華料理屋さんの看板を発見した。メニューの写真を見るとエビチリや麻婆豆腐など中華料理も揃っている。「ここにしよう」と言うと、妻はちょっと不満げだった。あまりお客さんが入っている様子がないという。確かに店に繋がる階段からはお客さんでいっぱいという感じは伝わってこないし、何となく寂びれた雰囲気だ。

 しかし、また店を探しに夜道を歩くのも億劫だったので、その店に入ることにした。とにかく空腹だったのだ。時間の遅かったせいだろう、店内は閑散としていて客は3人の中年サラリーマンだけだった。

 「いらっしゃい。奥の方、涼しいよ」と中国の方なのだろう、おかみさんが窓際の席に案内してくれた。厨房を見るとおかみさんの旦那さんと思われる中年の男性と若い男性がふたりいた。メニューを見ると、本格的な店は何処でもそうなのだけどやたらに種類が多くて迷ってしまう。漢字の苦手な妻は写真を見ながらアレコレと悩んでいる。

 結局、僕は麻婆茄子、妻はエビチリといっていたのだけど炒麺にし、それに餃子をひとつ注文した。初めに餃子が出てきたが、蒸すとき、水に小麦粉を加えたのであろう、薄皮がついていて全部が繋がっていた。初めてそれを目にする妻は驚いたようであるが、食べてみると薄皮もパリパリしていて美味しく、満足したようだった。

 しかし、次に出てきた炒麺は味は悪くなかったが、夕食としては物足りなかったようで「やっぱりエビチリにしておけばよかった」と悔いていた。少し時間をおいて、麻婆茄子が出てきて。見た目はあまり美味しそうに見えなかったが、食べてみるとなかなかいい味だった。妻も「茄子がジューシーで美味しい」と言い、どうしたらこういう風にできるのだろうと考えていた。

 そして、この店の良さはなんといってもおかみさんの明るさだと思った。今の日本人の持っていない天然の明るさがあった。出来上がっていた3人組の会社員のだじゃれにも陽気に付き合っていたし、日本には長くいるようで笑いのツボもわかっていた。

 帰り道、宇都宮の中心を流れる田川の遊歩道を歩いた。風が気持ちよく、食事後の熱くなった体を程よく冷やしてくれた。途中にあったコンビニで缶入りのカクテルとポテトチップスを買った。東横インの横には旧篠原家があり、まじまじと見物した。(2008.7.25)

―つづく―


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