北海道旅行記 2005


苫小牧上陸まで

 昨年の旅行記で‘いつ頃からか、北海道旅行前の高揚感がなくなった’と書いた。夏にはバイクで北海道に行くということが、惰性になっていた。しかし、今年は違った。それは今までとは違う旅の形、つまり‘滞在型の旅’という新しい姿を求めたからだ。

 北海道は正にそれには最高の舞台になりそうだった。北海道には無料のキャンプ場がたくさんあり、街に近く、温泉に隣接しているところも多い。これらの条件は長期の滞在に向いているということだ。ただ、とりあえずの心配は、現在南の海上にあり、やがて関東に上陸し、北海道方面までやって来そうな台風7号の動きだ。

 その台風の影響のせいか出発日の7月25日、東京の空はどんよりと曇っていた。しかし、雨さえ降らなければ、かえって好都合で多少なりとも暑さが和らぐ。荷物をバイクに付け終え、午後2時半に出発した。フェリーの出航時刻は23時59分なのでかなりの余裕がある。

 銀座辺りで車の波に埋もれてしまったが、その後は時々渋滞につかまりながらも道を間違えることもなく、順調に走れた。土浦辺りで道路が濡れ始めた。どうも通り雨があったらしい。バイクの場合、雨が降っていなくても道路が濡れていると、前輪が跳ね上げる水によって膝から下がびしょびしょになってしまう。それほど酷く濡れているわけでもないので、休憩をかねてコンビニに入り、コーヒーゼリーを買って食べた。

 20分くらいしてから、走り出したが、しばらくすると、また道路の濡れは酷くなり、さらに雨まで落ちてきた。どうも僕が雨雲を追いかける形になっているらしい。雨雲が遠くに行くまで、また休憩することにした。また、適当なコンビニに入り、今度はお茶を買ってのんびりと飲む。フェリーの出航までは余裕があり、焦る必要は全くないし…。

 待っていると雨は完全に止み、道路の水もかなりはけてきたので、また走り出す。午後7時頃、去年も夕食を取った石岡市の恋瀬橋辺りの中華屋さんで回鍋肉を食べた。店を出る頃、外は完全に陽が暮れていて、夜の闇に包まれていた。そして、大洗のフェリーターミナルに入るくらいにまた小雨が落ち始め、それは徐々に激しさを増していった。

 乗船の手続きを終え、ロビーでTVを見ていたら、東京の方でも台風の影響が出ているようでかなり激しく雨が降っている光景が映し出されていた。窓から外を見ると、こちらも激しい雨…。

 実はこの手続きのとき、「レストランの営業についてです。読んでおいてください」と用紙を渡された。ちょっと目を通すと、3食予約券を2000円で販売するから、希望者は乗船後、案内所で購入するように、また予約しなくても自動券売機でもカレーライス・ラーメンなどが求められるというようなことが書かれていた。しかし、僕はそれほどこの紙に書かれていることを入念に読まなかった。それが、後の悲劇に繋がってしまったのだ。

 10時30分をかなり回った頃からバイクの乗船が始まる。激しい雨が降っていたが、フェリー積み込みまでは、ほんの少しの距離なので合羽は着ないで、がまんした。乗船した後はいつものように、まずお風呂に急いだ。風呂から上がり、ベッドで横になっていると船長からのアナウンスが入った。台風に関するもので、初めは若干揺れるかもしれないが、そのうち落ち着くとのことだった。台風の影響はほとんどないようで、安心した。

 7月26日、6時ちょっと前くらいに目が覚め、トイレにいって小用を済ませた後、またベッドについた。ベッドの中でぐずぐずしていると、朝食のアナウンスが入った。
「昨日、3食予約券をお買い求めいただいたお客様、案内所上のイートインに朝食の準備が整っています。お早めにお越し下さい。なお、朝食の利用時間は今から1時間後の9時までとなっています」

 3食予約券を買わなかった人はどうなるのだろう?という疑問が浮かんだ。僕は改めて昨日、乗船時にもらった用紙に目を通してみた。自動券売機と読んでいたところは僕の読み違いで自動販売機だったのだ。ということは3食予約券を買わなかった人の食べ物はインスタントしかないということになる。券売機で食券を買って注文できると僕は思っていたのだけど、それが勘違いであることがわかった。

 そして、昼…同じようなアナウンスが入り、その後に「3食予約券をお求めにならなかったお客様でも、イートインの自動販売機でカレーライス、ラーメン、うどん、お握り、スパゲティなどがお求めになれます。どうぞ、ご利用ください」と付け加えられた。

 僕は早速イートインに行ってみた。僕と同じように3食予約券の意味がよくわからず、自動販売機を利用している人が結構いた。しかし、この自動販売機で売られているものは酷いものばかりだった。僕はきつねうどんにしたが、ほとんど最悪で、機械から取り出して、どんなにゆっくり食べたとしても3分あれば完食できるようなものだったのだ。油揚げは小さく信じられないほど味は濃く、麺は3口くらいで全部なくなった。他の人の中には、うどんとお握りとかカレーライスとそばとかを組み合わせて食べている人もいたが、僕にはそれがただお腹をとりあえず満たす行為以外の何ものでもないものに思われて、止めた。

 それにしても、フェリーの中で飢えることになるとは思わなかった。帰りの便では必ず、3食予約券を買おうと心に誓った。食事を終えた後は、サウナでも入ってという優雅な気持ちは消え、ひたすらベッドの上で空腹をしのぐことになった。空腹のせいか、何となく気分も悪くなり、辛い時間が続いた。

 フェリーは定刻通りに苫小牧港に着いた。天気は雨。今回は全日程キャンプにしようと思い、初日は苫小牧から20kmくらいのところにある鶴の湯温泉のキャンプ場に泊まろうかと考えていたのだが、この雨、それも台風が接近中ということを考えると止めた方が賢明であるように思えた。

 市内のホテルにでも泊まって、状況を見たほうがいい。荒れるようだったら、そのホテルに連泊ということも覚悟しないと…と考え去年と同じビジネスホテルにフェリーターミナルから電話した。シングルの部屋は空いていなかったが、ツインの部屋にシングルの料金で泊めてもらえることになり、強い雨の中。バイクで向った。

 ホテルの駐車場にはすでにバイクが3台止まっていた。みんな‘非難’ということなのだろうかと思った。つづく…(2005.8.17)


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