北海道旅行記 2004 その1


盛り上らない気持ち

 修学旅行で1回、自転車で2回、車で2回、列車で1回、バイクで9回、今まで合計15回北海道に行っている。高校野球ふうに表現すると今回は2年振り16回目の北海道ということになる。しかし、いつ頃からか、北海道旅行前の高揚感がなくなった。

 始めて北海道に自転車で行くことを決めたときなど、それこそ数ヶ月前からわくわくどきどき、かなり入れ込んだ。しかし、今年は暑さのせいもあるのかもしれないが、全くテンションが上がらない。その影響が直接的に現われたのが、フェリーの予約だ。

 北海道に行くことは、早くから決めていたのに、なかなか気が乗らず、フェリー会社に予約の電話を入れたのが約1ヶ月前だった。そのため行きは夜便しかとれず、苫小牧着が19時45分なので、もうその日は動きようがない。夕便だと苫小牧着が13時15分なので、半日は行動できる。帰りはさらに酷くて、大洗までの予約は全ていっぱいになっていて、八戸までしかとれず、そこから東京まで自走しなくてはいけなくなってしまった。旅行慣れしたといえばそれまでだけど、準備も1週間くらい前になって、やっと本腰を入れ出す始末だった。こんな状態で行って楽しいのだろうか?と不安になった。

 7月26日、23:59大洗発―苫小牧行きのファリーに乗るため、3時に自宅を出発した。前回は高速を使ったが、今回は時間的にも余裕があるし、一般道を使って大洗までいくことにした。都心で迷うことが多いのだけど、この日はそれもなく、渋滞でかなり苦労したけど、国道6号に乗ることができた。あとはこの道を淡々と進むだけだ。

 途中で1回バイクにガソリンを給油し、石岡市の恋瀬橋辺りの中華屋で夕食の回鍋肉をとり、大洗に着いたのは8時少し前だった。もうすでに乗船手続きが始まっていたので、それを終え2階のベンチで一段落して、これから乗り込むサンフラワーをぼんやりと眺めた。この段階になっても、気持ちは盛り上って来ず、考えてみれば釧路行きのフェリーが休止になり、大洗まで走らなければいけなくなった頃から、ずっとこんな感じだったように思う。

 10時30分くらいからフェリーへの乗船が始まった。今年は時期がやや早いせいか、バイクがかなり少なく思える。乗船していつものようにまずは、展望浴場に向かう。バイクは最初に乗船できるので、すぐに行くと空いていて、ゆっくりと入ることができる。お風呂はサウナも付いている大きなもので、湯船に浸かるより、サウナの方が楽しみだったりする。1年のうちでこの時くらいしかサウナに入れる機会がないためである。

 お風呂から出た後、自分の2等寝台に戻ってみると、2段ベッドの上が空いていて、それは自分のところだけでなく、部屋の3列すべてそうだった。やはり人はかなり少ないようで、出航時間が近くなったのでデッキに出てみても、それこそ自分以外に2〜3人くらいしかいない。そんな中、僕は大洗港の光りが小さくなるまで、そこにいた。潮風にあたりベトベトになるのはいやだから早く自分のベッドに戻りたかったのだけど、何故か、足が動かなかったのである。

 ベッドに戻ってからは地図を見て、とりあえずの予定をたてようとしたけど、何も思い浮ばず、ただ紙面を上に視線を落しているだけだった。いい考えがうかばないときは無理をしない方がいいと思い、眠ることにしたけど、なかなか寝つけなかった。

 7月27日、朝早く、目が覚めるが、二度寝をした。朝食をとるつもりは始めからなく、昼くらいまで寝台でうだうだしていた。昼のレストラン営業の放送が入り、すぐに行ったが、人はあまりおらずちょっと拍子抜けしてしまった。ただ、レストランのメニューはかなり改善されていて、種類も増え、値段も下がった。僕は肉より魚が好きなので、焼き魚定食をたのんだ。時期はずれのサンマだったけど、船の中なのだから仕方ない。昼食をとると、元気が出てきて、展望浴室に行ったり、デッキに出て海を見たりとにわかに活動的になった。

 フェリーは定刻の19時45分に苫小牧港に着岸した。下船のアナウンスがあるまでホールで待っている間、とりあえず今日どうしようかと考えた。苫小牧周辺にはいいキャンプ場はないようだし、かといって夜間に長い距離は走りたくない。野宿できる公園があればいいのだけど、それも思い浮かばないし…と視線を動かすとその先に、ビジネスホテルのパンフレットがあった。あてがあるわけではないし、とりあえず、ここに電話をしてみようと思った。

 バイク・車で乗船の人は車両甲板に降りてくださいとのアナウンスがあり、バイクに向かった。その途中、僕の後から歩いてきた男性に声をかけられた。年齢は20代前半くらいだろうか。
「北海道は何回も来ているんですか?」
そのときは正確に何回だか、わからなかったので
「ええ、かなり」と曖昧に答えた。その男性とはたまたまバイクが隣同士だったので、さらに話が続いた。
「今日はどうするつもりですか?」
「どうするも、こうするも、この時間では…。苫小牧周辺はいいキャンプ場もないし…」
「宿とか予約はしてないんですか?」
「ええ、何とかなると思ったものですから。苫小牧市内で何処か泊めてくれる宿を見つけるつもりですけど、あなたは?」
「ええ、僕はウトナイ湖の近くにあるユースに泊まります。予約も入れてますよ。明日の予定とか?」
「うーん。富良野辺りかな…」
「富良野!キャンプですか?」
「ええ。あなたは?」
「僕もいつか富良野に行く予定なんですが、キャンプ用品は持ってきてないんです。何を用意していいのかも、わからなかったし。北海道も今回が始めてで…」
と甲板が開くまで、話を続けたが、何故かあまり気が乗らず、物憂かった。

 フェリーから降りた後、時計を見るとすでに8時を回っている。駅まで行って、もっといろいろな情報を得ようかとも思っていたのだけど、こうなっては先程の計画の通り、パンフレットのビジネスホテルに電話をすることにし、フェリーのターミナルビルからかけた。

 宿はあっさりと決まった。料金は一泊4500円なのだけど、パンフレットを持参した人は3600円にまけてくれる。フェリー乗り場からバイクで5分くらいで着き、荷物を下ろした後、真正面にあるコンビニで今日のデザート用のみかんゼリーを明日の朝食用のパンとコーヒーを買った。つづく…


TOP INDEX NEXT