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先日、洗濯機が壊れた。この洗濯機は妻がペルーから来日したときに親戚の人に買ってもらったもので、当時は一人暮らしだったため容量は少ないものにして、さらに比較的早くペルーに帰るという前提だったから、最下級機種を選んだらしい。 それに反してこの洗濯機は長い期間、働き続けた。実に三十年近く動き続けていたのである。しかし、今年に入って脱水の時に洗濯槽が回らないということが起き始めた。そんなとき、昭和の家電の対処法で洗濯機を揺すったりすると動きだしていた。最近ではまた調子よくなっていたのだが、こんどは排水ができなくなってしまった。 これはさすがに揺すっても叩いても直らなかった。洗濯機という緊急性の高い家電のため、すぐに自宅から比較的近いY電気に行った。白物家電は二階のようで上がっていくと洗濯機売り場があった。家の洗濯機置き場が広くないため、ドラム式洗濯機は置けず、必然的に縦型になってしまう。脱水時に洗濯槽が回らないという現象が起きて久しいから、妻は常々、洗濯機を見て周っていたようで必要な機能は熟慮しているようだった。 まず、洗濯機の容量は8キロがほしいという。前の物は4.8キロだったため、必然的に洗濯回数が多くなり、大切な休日の時間が削られていた。一度に処理できるキロ数が多くなれば、回す回数が減り、それだけ時短できるというわけである。さらに梅雨時のことも考えて、できれば部屋干し機能があるものがほしいといった。 洗濯機売り場を見て周ると価格も数万円から十万円を超えるものまであり、僕としてできるだけ安いものにしてほしいところだが、妻の希望を叶えるものとなると7万円以上になりそうだった。しばらくぶらぶら見ているとA社製のちょうど良さそうな機種があった。 「これ良さそうだね?」などと話しながら、妻と見ていたらY電気の制服を着た白髪の恰幅のいい店員さんが近づいて来て「洗濯機ですか?」と声をかけられた。「ええ、家の物が壊れてしまって、見に来たんです」というと「それは大変ですね。これだったら、古い洗濯機の回収も含めて79000円でいいですよ」と言ってきた。79000円というのは、値札の金額である。ということは実質回収費が無料というわけだ。かなり気持ちが動きほとんど決めようと思っていたら、その店員さんは何処かに行ってしまった。 しばらく待っていたが、なかなか戻ってこないので、他の物を見ていたらT社製で部屋干し機能が付いている物があった。A社製には部屋干し機能はなかったのである。こちらは83000円の値札が付いており、大特価のおすすめ品になっていた。妻は部屋干し機能に心が動いたようで、「これがいい」と言い出した。僕としてはすこしでも安い方がいいのだが、洗濯機を使うのは主に妻なので彼女の好みに従うしかない。 店員さんを探したが何処にもいない。売り場面積に対して、店員さんの絶対数が少ないように思った。少し離れたところにS社のジャンパーを着た販売員さんがいたので声をかけた。「何でしょう?」と彼が近寄ってきた。S社のジャンパーを着ていることからY電気の店員さんではなく、S社から派遣された販売員さんのようだ。「これ、もう少し安くなりませんか?」と妻が訊くと、「えーっと大特価でこの値段になっているのでちょっと難しいかもしれませんね。訊いて来ますね」といって離れていった。 5分くらいしてようやく販売員さんが戻ってきて、「この値札の価格はかなりがんばった額なので、これ以上の値引きは難しいですね…」と申し訳なさそうに言った。妻はさらに「もうちょっと何とかなりませんか?少しでも値引きしてくれるとうれしいんだけど」と粘ったが、「すいません。これ以上はちょっと厳しいですね」と販売員さんは同じこと繰り返した。 もうこれ以上は難しいかなと思ったので、「在庫はどうでしょう?できるだけ早く欲しいんですが」と言った。「わかりました。訊いてきます」と言って、販売員さんはまた何処かに行ってしまった。在庫を確認するだけだから、すぐに戻ってくると思ったがなかなか姿を見せなかった。どうしたんだろうと思っていたら、始めに声をかけてくれた店員さんが近寄ってきて「どうされました?」言った。 「今、他の店員さんに訊いてもらっているんですけど」というと、「ああ、僕が引き継ぐからね」と言った。妻が「これ、ちょっと値引きしてもらえるとうれしんですけど」というと「ちょっと待ってくださいね」といって電卓を取り出して何か計算を始めた。そうしているうちに販売員さんが戻ってきた。店員さんは彼に対して「僕が引き継ぐから」と言った。販売員さんは素直に頷いて調べてきた在庫状況を伝えて離れていった。 これ以上の値引きは難しいのか、店員さんはしきりに電卓で計算を続けていた。「そうですね…」といって提示された額は79000円で、古い洗濯機の処理費用は別途ということになった。この初めに対応してくれた店員さんはその貫禄のある見た目から、かなり権限を持った人なのかもしれないと思った。もし、あの販売員さんだったら、値札のままの金額だったわけである。 対応する店員さんによって、価格の値引きに差の出ることがあることがわかった。それまではあまり考えたことはなかった。そして「洗濯機が壊れてしまった」といったことがよかったのかもしれないと思った。「このお客さんはいい条件を提示すれば、確実に買うだろう」考えたのだろう。 対応する店員さんによって価格が変わるというのは、人によって意見が分かれそうである。値引きを打診された場合、普通なら「ちょっと待ってください」といって責任者に訊いて来てきて決済するのだろうから、どの店員さんでも同じになりそうなものだが、そうでもないようである。となると決められる人に当たるかという運になる。まあ、それはそれで面白いような気にする。(2026.1.6) |