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十数年前、同じ職場で働いている六十代の女性パートさんから「五十代になると楽になるよ。六十代になればもっと楽になるよ」といわれたことがある。「楽になる」とはいろいろなことが考えられるが、このときは精神的という意味で理解した。彼女は沖縄県の出身なので、沖縄からペルーに移住した妻の両親にシンパシーを持っていたようで、僕のことも気をかけてくれたのかもしれない。 当時四十代だった僕は「そんなものかな?」とあまり信用していなかった。それから十数年が経ち、僕も六十代になり、彼女のいっていたことが何となくわかる気がしてきた。五十代の頃は「楽になった」とあまり感じることはなかったが、六十代に入り年金生活がカウントダウンになると確かに六十代というのはバラ色の日々になる可能性があるように思えてきた。 六十代に入ると先が見えてくる。そのため、仕事に対する考え方が変化する。どうでもよくなるとまではいわないが、まあ、そんな感じである。力が抜け、フラットな状態になるので、精神的には楽になる。何を言われても、どう見られたとしても、あと数年なのだから、気にすることはない。 そして、仕事を引退すると、多くの時間ができ、自分の好きなことに使える。仕事の引退、年金の支給ということを思えば、人生を楽しめる時期に入るともいえる。このような状態になるのは、六十代が最初である。もちろん二十代でも、三十代でも仕事を辞めれば、一時的には多くの自由時間を獲得できるが、常に‘次‘への不安が残る。そこへ行くと六十代は‘次‘を考える必要はないから気楽ではあるが、それは個人的な事情によって大きく変わると思われる。 現在、勤めている会社の社員の定年は六十歳である。定年退職した後、六十五歳まで嘱託社員として勤める人が大半で、六十歳できっぱり辞めた人は一人しかいない。その人は独身の男性で趣味人だった。六十五歳まで勤務を続けた人はやはり年金の支給年齢の関係だと思われるが、その後も別の仕事に就いた人が多い。 お金の問題か、健康を維持するためか、家にいても特にやることがないから働こうということになったのかはわからないが、定年後も働き続けるというのはもったいないような気がする。自分で何か事業を起こすというのなら別だが、何処か勤めて働くというのは、人生の浪費に思えてしまう。 そうはいっても実際に年金だけでは生活が成り立たず、働いて収入を得ないといけなくなるかもしれない。そうなったら仕方ないが、できれば六十五歳以降は自分のやりたいことだけをして人生を過ごしたいと思っている。年を重ねるごとに体にはガタが出てくる。僕も最近は足が痛くなったりして、若かった頃のように速くは歩けなくなってきた。 七十代、八十代…いつまで元気でいられるかわからない。となればまだまだ元気な六十代というのは人生を大いに楽しめる最初で最後の時期なのかもしれない。仕事に追われる現役時代は楽しむといってもGWとか、夏休みとか、正月休みとか長い休みが取れるのは限定的だった。仕事を辞めれば限定解除である。できることなら六十歳できっぱりと仕事を辞め、年金を繰り上げ受給して、自分の時間を作りたかったが、生活が成り立たなくなるため、最低でも六十五歳までは働かなくてはならない。 では六十五歳まで働いて、その後は年金だけで生活していけるかというと甚だ心もとない。僕の場合、六十五歳で年金を受給すると現在の年収から約五十万円のマイナスとなる。家のローンは六十五歳で完済するので、その分を考えるとトントンなのだが、余裕のある生活はできそうにない。七十歳まで繰り上げれば現在の年収とほぼ同程度になり、ローンのなくなった分、プラスにはなるのだが、家の修繕なども考えないといけない。 以前、考えていたのは六十五歳で退職した後、フルタイムの仕事を探して二年間六十七歳まで働き、家の修繕費などの貯金をし、六十七歳から年金を受給するという計画だった。この通りにして前職と同程度の賃金を得られると仮定すると、二年間の家のローン分の百二十万円くらいは貯金でき、家の修繕費に充てることもできるし、年金を二年間繰り上げたことにより、16.8%増額され生活にも多少の余裕が生まれるのではないかと思ったのである。 しかし、それだと楽しみを二年間先延ばし、大切な時間を失うことである。楽しめるのは健康な間だけだ。そう、お金以上に大切なのは健康である。健康寿命が長ければ、それだけ楽しめる時間は増える。 ネットでは平均寿命から算出して、六十七歳で年金受給するのが、合計年金額は一番多くなるというものがあるけど、自分が平均寿命通りになるのかどうかも微妙だし、金額の多寡だけでないものがあるのも確かだ。男性の平均寿命は81.05歳、健康寿命は72.57歳となっている。65歳でリタイヤすると平均的な自由時間は7年ということになる。7年を長いと考えるか、短いと考えるか、僕には短いように思える。(2025.11.30) |