GOLDFISH
その日、朝から何かが起こりそうなそんな気がしていた。
根拠はないけど、なんとなくそんな朝だった。
ツアーも始まり、忙しくて慎吾ともお互い会えない日が続いていた。
そして、その日もやっぱり俺は1人で朝を迎えた。
少し蒸し暑い空気に目が覚めると、洗面台まで行き鏡を覗く。
そこに映っているのは、昨日となんら変わりない自分の姿。
その姿を確認して、自分に微笑みかける。
「今年もよろしく。頑張ろうな」
そう、今日は俺の29歳の誕生日。
ついに20代最後の年となった。
ピンポ〜ン
少しの間感慨にふけっていると、
チャイムの鳴る音が耳に届いた。
「はいは〜い」
慌ててインターフォンに出る。
『あ、草gさん。宅急便です』
「は〜い、どうぞ」
宅急便…何だろう。
「では、ありがとうございました。」
数分後、ハンコを確認し、配達に来た男性が帰っていった。
あとに残されたのは約50cm四方のダンボール箱。
「何だろ、これ」
差出人は…慎吾?
差出人の欄にあるのは、明らかに慎吾の字で『香取慎吾』。
何だかんだ推測してても埒が明かないので、とりあえず開けてみることにした。
「…何だ、これ」
さっきと似たような言葉を思わず発した。
しかし、さっきとは大分ニュアンスが違う。
今回は、それが何なのかは分かっていたのだから。
「金魚…?」
そう、それは丁度枕ぐらいの大きさがある金魚のぬいぐるみであった。
ふと箱の底を覗くと、1枚のカード。
そこには一言、
親愛なるつよぽんへ
誕生日おめでとう!
ぬいぐるみなら死なないでしょ?
慎吾より
そうあるだけであった。
「……あぁ!」
しかし、それで俺にもようやく慎吾の意図が理解出来た。
「慎吾らしいなぁ…」
思わずしみじみと呟く。
『夏祭り行かない?』
脳裏に慎吾の言葉が蘇った。
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