「あれ?」

仕事を終えて帰ってきた中居はある異変に気付いた。

「俺、鍵閉めたよな…」

そう、部屋の鍵が開いていた。

いや、正確に言えば、中居が開けようとして鍵を回したために閉まってしまったのである。

「まさか、またタムラか?」

中居以外に部屋の鍵を開けられるのは、マネージャーかタムラしか思いつかなかった…いやもう1人…

「ハハ、まさかな」

思い浮かんだ顔を消すように軽く頭を振ると、もう1度鍵を開けて部屋へ入った。



「マジかよ…」

中へ入ると、奥の部屋、リビングのドアが少し開いていて、そこから明かりが漏れていた。

音を立てないように近づき、そっと中を覗く。

そして中にいる人物を確認すると、勢いよくドアを開けた。

「木村?!」

「あ、お帰り〜」

悠々と人のうちでコタツに入りTVを見ていた、通称『日本一の男』―木村拓哉はまんべんの笑顔で振り返って言った。

「おまっ何でここに…あっ」

言いかけて、何かを思い出した中居は慌てて時計を見た。

午前0時32分。

「……ゴメン」

「ん?何が?」

木村が立ち上がって中居の方へとゆっくり歩いてくる。

「いや、日付け変わる時に一緒にいられなかったから…それで来たんだろ?」

「あぁ、まぁそれもあるけど…」

「けど?」

中居が小首を傾げて聞き返す。

「一番に中居に言ってもらいたかったから。『ゴメン』じゃなくてさ」

「あ…」

「ん?」

「…おめでと、木村」

「うん」

「誕生日、おめでと」

「ありがと、中居」

そこで中居の目の前まで来ていた木村はそのまま腕を伸ばして中居を抱き寄せた。

「プレゼント…何が欲しい?」

中居が大人しく抱かれたまま言った。

「くれるの?」

「まぁ、俺ももらったし」

東京に戻ってきてから改めて木村がくれたものは、中居のためだけに作った手料理だった。

「あれ、うまかった」

「なんだ、広島であげた方じゃないんだ」

「バカ」

「ん〜そうだなぁ、じゃさ、キスして」

木村は少し身体を離して言った。

「キス?」

「ん」

木村の言葉に中居は少しの間無言になったが、



チュッ



つと顔をあげると、木村の唇に触れるようなキスをした。

そして、慌てたように木村の左肩に顔を押し付けた。

「中居?」

声をかけても中居は顔をあげようとはしない。

すると何かを悟ったように、木村の顔が緩んだ。

「何?恥ずかしくなった?」

「っるせぇ!今日だけ特別だからな」

「分かってる。すっげぇ嬉しい。ありがとな、中居」

右手で中居の頭をなでながら言う木村の言葉は、肩に頭を持たれかけている中居の耳に心地よく響いた。