をりふし短歌

2009年度


■2009年元旦

穏やかに元旦の空明けゆくに不況の風は世界を巡る

元旦の空は炭のいこるごと牛窓の地で来光仰ぐ

ここ数年喪中はがきの増えたるに今年は賀状が九枚残る


■期末考査

ギブアップ期末考査の手強さに「シャーペン回し」で対抗する君
(月刊「兵庫教育」平成21年3月号掲載)

「考へる人」のやうなる君なれど鉛筆動かず無情のチャイム(月刊「兵庫教育」平成21年3月号掲載)

鉛筆の止まるや否やチャイム鳴る書き加へたる「イ」は正解か

緊張を終了チャイムが解きほぐしクリスマスへと一気に加速す

■偶感

この柿は「さては南京玉すだれ」客の鴉がからかひつつく
(月刊「兵庫教育」平成21年3月号掲載)

曼珠沙華こぞりて咲くに足止む一茎揺れて墓参促し

朝露が芋の葉グランドでバトン受け加速をつけて一気にゴールへ

「子供などいなくていいね」に笑みつつも大きな沈黙が会話遮る

エンゼルストランペットが群青の空から我をじっと見ている(月刊「兵庫教育」平成21年11月号掲載)

秋薔薇春のそれより凛として薄暮の中に孤高の姿

一陣の風に秋桜みぎひだり気づけばしなやかに背筋を伸ばせり

■卒業式(2/26)

紅白の梅花笑へる式の朝に胸のハンケチ妻が手直し(月刊「兵庫教育」平成21年5月号掲載)

床板を蹴り立つ音が粛を呼び三年の思ひが無声映画に(月刊「兵庫教育」平成21年5月号掲載)

父母の件になりて声つまり涙で答ふる君巣立ちゆく(月刊「兵庫教育」平成21年5月号掲載)

気づいたか。「今こそ分かれめ」は係り結びだと卒業式で最後の授業(月刊「兵庫教育」平成21年5月号掲載)

式終はりデジタルカメラにおさまれる「ピースの教師」を消去しますか?

■春の一コマ

白き肌を春陽にさらす木蓮に三十年前の君を重ぬる(月刊「兵庫教育」平成21年7月号掲載)

クリスマスツリーのやうな白木蓮光を蓄へ宵に輝く

カーリングと見紛ふやうな出で立ちで泥中推挙す白き蓮根

卯月には旧と新とが入れ替は別れを惜しみて花も散るらむ

桜花ひらひらひらと肩に止まりすり足歩行の能楽師となる(月刊「兵庫教育」平成21年7月号掲載)

春宵の桜花の木の間より月影見ればまさに屏風絵(月刊「兵庫教育」平成21年7月号掲載)

散り敷ける桜花を嗅ぎながら歩く二匹の鼻にひとひら

紫の藤のシャワー戯るる蜂に戸惑ふ和気清麻呂(月刊「兵庫教育」平成21年9月号掲載)

たましひの寄り集まれる馬酔木眺め「我」振り返る瑠璃光の寺(月刊「兵庫教育」平成21年9月号掲載)

■新型インフルエンザが襲ふ

「新型」の名に奔走せる日本ではたかがマスクにプレミアの付く

「新型」はマスクの形状にも表れて街ゆく人のファッションとなる
(月刊「兵庫教育」平成21年9月号掲載)

マスクせず車内で咳の出たる瞬間衆人環視の的に我なる

休校中時もてあまし子ら向かふカラオケルームで旧交温め

■ジェイズヒルガーデン(丹波)にて

雨続き真夏を見ずに夏が往くこのまま秋では淋しくないか

丹波では「ゐのしし注意」の標識の向かうに稲穂頭を垂れたり(月刊「兵庫教育」平成21年11月号掲載)

ふくふくと真白き薄の穂間から童謡世界が現れ来たり(月刊「兵庫教育」平成21年11月号掲載)

■ヤンクとマーク

マークちゃんうんちの形は感嘆符 色・艶確かめぬくもりをしまふ

ヤンク君「ハウス」と言へばお腹見せサーモンピンクは元気な証拠

畑半分をドッグランにして犬放ち夫婦は畝を耕し汗流しをる

村山翁のやうなる髭に朝日受けシュナの影絵をまた垣間見る

■秋祭り

肩を入れ屋台を上ぐる練り子には金木犀の香のふりかかり

新調せる屋台を押し上ぐる熱と気を紅き紙手竹さらにかき立て

■再び丹波の秋に

黒豆の安きを求めてと見かう見丹波街道秋を見ずして

黒豆に美ら海の塩をふりかけて一番搾りで味はふ至福

立ち寄れる栗農園の主人から講釈聞きてやつと手に入れ

蒸かしたる栗の皮を剥くたびに旅の断片香りとともに

懐かしき「五右衛門風呂」に「おくどさん」丹波の秋に古民家再生す

丹波蕎麦篠山里山丸山に突如出現すフレンチの店