をりふし短歌


〜平成20年度版〜


■年の初めに

 初売りの広告溢るる朝刊に新しき年の始まりを知る(月刊「兵庫教育」平成20年3月号掲載)

 コブクロの「蕾」を流し数え日に窓ふきながら亡き母想ふ

 王朝の歌人と競ふ時雨殿ナビを片手に札取り遊び(月刊「兵庫教育」平成20年3月号掲載)

■職員室の窓から
 

 網干せる浜に夕波千鳥鳴きめざす家島に陽の落ちかかりぬ

 春近し外を見やればプラントの白煙今日はすつくと昇る(月刊「兵庫教育」平成20年5月号掲載)

 有精卵の黄身のやうなる太陽が工場群を塗りつぶしてゆく(月刊「兵庫教育」平成20年5月号掲載)


■春間近

 
「十度越え」と予報士の声はづみたり見ればピンクのスプリングコート

 
春こぼれ光りを掬ふグランドで考査終へたる声駆けめぐる(月刊「兵庫教育」平成20年5月号掲載)

 庭先の梅一輪に日のあたり春の隣で二匹寄り添ふ


■マークが元気に

 
全身で五月の風を切りながら愛犬マークは生を楽しむ(月刊「兵庫教育」平成20年7月号掲載)


 死からの生還果たせる喜びをふりまき走る愛犬マーク


■筒井先生逝去(4/23通夜・享年50歳)

 
送信の履歴のみ残る二日後に彼逝きたりとメール届きける

 豊頬の遺影の前で眠る君竹刀抱きて仏の道へ


■姫路菓子博も終わり

 菓子博に蟻のごとくに群がりて餌にありつけず踵をかへ(月刊「兵庫教育」平成20年7月号掲載)


■母の日に

 義母が好みしもっこう薔薇の洋名を知りたる今年はもう7回忌(月刊「兵庫教育」平成20年9月号掲載)

 義母が植ゑし大山蓮華が我が丈を越えて今年も純白の花
(月刊「兵庫教育」平成20年9月号掲載)

 白濁の義父の瞳の奥底に強き姿の面影探す

■偶感

 通勤の
18分で今日もまた歌人となれず校門くぐる

 頭かかへ鉛筆滑らぬ答案の上を流るる「ささのはさらさら」(月刊「兵庫教育」平成20年9月号掲載)

 脱け殻に己が在りしを託しつつ生まれ変はるる蝉がうらめし(月刊「兵庫教育」平成20年11月号掲載)

 
車いすに浴衣姿の義父見つけ「お似合いですよ」と思はずピース(月刊「兵庫教育」平成20年11月号掲載)

 
交番に祝日国旗を見つけたり若い巡査は誇らしげに立つ(月刊「兵庫教育」平成20年11月号掲載)

■秋に想う

 
見つけたりフロントガラスをワイパーが拭ふ行く手に扇面の秋

 虫すだく声の切れ間の鼓音心取られて我寝ねられず

■ヤンク&マークの散歩

 息づかひを口髭ごしに確かめて主を気遣ひアイコンタクト

■秋祭り

 
ヨーイヤサー魂と魂とがぶつかりて裸若衆が山を動かす(月刊「兵庫教育」平成21年1月号掲載)

 
しで竹が秋天突き上げヨーイヤサー声もろともに御輿も宙へ(月刊「兵庫教育」平成21年1月号掲載)

 練り合はす人と御輿の小宇宙相対峙せるコスモスの花(月刊「兵庫教育」平成21年1月号掲載)