をりふし短歌

2007年度版

■年賀状から

去年に比し喪中欠礼のあまたきて無常身にしむ年の暮れかも(月刊「兵庫教育」平成19年3月号掲載)

九十五の恩師の手なる年賀状今年は左に流れて届く(月刊「兵庫教育」平成19年3月号掲載)


■2度目の嵯峨野(1/4・5 マインドゲーム泊)

デジタルの世界に遊ぶ時雨殿眼つぶれば宮廷絵巻

王朝の歌人と競ふ時雨殿ナビを片手に札取り遊び

笑ふ泣く口開く上向く苔かぶる愛宕の羅漢に我見つけたり

日溜まりに苔むす羅漢の微笑みてなぜかはんなり心澄みゆく

化野に比べ愛宕の羅漢たち愛嬌まさりて思わずシャッター


■偶感

寒河に雪纏ひたる五位鷺に蓑笠の翁の重なりて見ゆ

西空に傾き落つる月影にいにしへ人の心をぞ知る

二月尽卒業証書は手にしても補習の日々に合否を待てり

点滴の鼓動に合はせて落つる見て生きよ生きよと聞こえてきたり(月刊「兵庫教育」平成19年5月号掲載)

教え子がまた一人立つ教壇に教師の卵が五つ孵化せり

紅白の梅香飛びゆくその先に瀬戸の小島の光り輝く



■網干高校に転勤

網干せる浜に夕波千鳥鳴きめざす家島に陽の落ちかかりぬ

八年間東に通ひし我がゐて今日より西に赴く我あり

今日からは向かひ側なる電車にて定年までの七年通ふ

縁欠けし湯飲み茶碗の茶渋落とし清しき緑を眺めつつ飲む

思ひ出が茶渋となりてこびりつく湯飲み洗へば茶柱の立つ(月刊「兵庫教育」平成19年7月号掲載)

チョーク持つ手を休むれば緑萌え波頭の先に家島の見ゆ


■「ヤマサ蒲鉾」芝桜見物

芝桜桜のあとを引き継いで黄金週間主役に座る


■高校点描

「おはよう」の次に「ボタンを止めなさい」通過儀礼の今日が始まる(月刊「兵庫教育」平成19年9月号掲載)

考査中鉛筆走らす音止まり我と目合はすこと多くなる(月刊「兵庫教育」平成19年9月号掲載)

答案を睨みをりしが気がつけば白旗上げて机上に降参

薫風が答案用紙をさらってく救ひ求めて君が手を挙ぐ

女生徒が散髪したての我見つけ駆け寄り来るにわれハイタッチ(月刊「兵庫教育」平成19年9月号掲載)

飛び乗れば本校生徒の視線刺さり動くに動けず「やぁ」の一言(月刊「兵庫教育」平成19年11月号掲載)

空白の解答欄を秋の陽が優しく照らせどチャイムは無常

首傾げやがて項垂れ突っ伏して額に残れる日の丸の跡

国Bのテストの前に広げたるノートを見れば二限の保健


お城祭りでジャズを聴く

黄昏に白鷺の城の見え隠れジャズのリズムに鷺浮かれ出づ(月刊「兵庫教育」平成19年11月号掲載)


叔母の逝去に(8月23日)

叔母逝きて子孫の顔を合はすれど通夜式まるで同窓会場

四半世紀叔母の葬儀で顔合はせ面影あるも名前出てこず


■安倍首相の突然の辞任に

「職賭して」に気概感じたる三日後に「職を辞して」の号外配らる(月刊「兵庫教育」平成19年11月号掲載)


■ヤンク&マーク

日溜まりで寄り添ひ寝たる二匹眺む癒されてゐると感ずるひととき

会話なき夫婦の溝を二匹して埋めたる上に一隅照らす



■母の三回忌に

コブクロの「蕾」を流し数え日に窓拭きながら亡き母想ふ