をりふし短歌


2005年版


 ■雪中吟(中国・黄山)

  肩ごしに息をひそめて待つ5分「冬天暁光」をシャッターで描く
  
(月刊「兵庫教育」平成17年3月号掲載)

  
霧流れ瞬時見えたる雲海の墨絵の世界に引き込まれゆく
  
(月刊「兵庫教育」平成17年3月号掲載)


  天人の忘れしものか飛来石雪をかむりて立ちていませり

  アイゼンで雪のきざはし踏みしめて仙人住める始信の峰へ

  雪の声をフード通して聞きながら一歩を踏み出すもうあと二キロ

  
前をゆく妻のかかとの歩幅見て呼吸を合はせ頂上めざす(月刊「兵庫教育」平成17年3月号掲載)

  
息を詰め思ひ描ける構図なり雲海見えて「黄山」となる(月刊「兵庫教育」平成17 年3月号掲載)

 
■スマトラ沖地震の日に

  
つゆ知らず 銭塘江を渡れるにスラトラ沖で海嘯襲ふとは

  「海嘯」の文字を電視で見るたびに異国で味はふ生死の分かれ目

  濁流に人飲み込まるる映像に海の嘯く恐ろしさを見る

  海外で津波は「TSUNAMI」と表記され英語なんだとあらためて知り

 ■偶成

  
駆け込みて座るや否や取り出してほおばるおむすび妻のぬくもり

  七時前東の空のかぎろひて車内で一首今日の始まり
 
  憂き顔が話しせしより笑みこぼれこの瞬間に「教師でよかった」

  
散歩せる見知らぬ人から「おはようさん」返して残る清々しさよ

  
我が前にいつも立ちゐる老人に二駅手前で席を譲れる(月刊「兵庫教育」平成17 年5月号掲載)

  未読あり迷惑メールのその中にあの人からの「お元気ですか」

  
足踏み機で息切らしする八百歩も妻と一緒の散歩に如かず

  
「問三」とカナ入力したはずが「SEXY」と出てひとり赤面す

  
画面では「花粉多し」が眼射てただ人さへも花むづがゆく

  
ローマでは新法王を選びをり言ひ得て妙なるコンクラーベ

 
■漢文の複合語の読み  

  何為幾何何如如何生徒にとっては漢字のパズル(月刊「兵庫教育」平成17 年5月号掲載)

  以為所謂所以是以庶幾避けて通らん


 ■クラス文集が出来上がり


  文集のページが語る思い出に我も溶け込み駅乗り過ごす

 
■卒業式(57回生)で

  
「セカチュウ」が流るる中を巣立ちゆく彼らに微笑む紅白の梅

 ■高校入試の日に

 
鉛筆を走らす音が耳につき思考を妨ぐ高校入試

 鉛筆の机上を歩むこつこつが最後にもの言ふ高校入試

 ■信貴山に春を求めて

 
10日後の花の盛りを想ひ見て湯煙りごしに仰ぐ信貴山

 信貴山に花咲かなむと鶯のひときは高くせきたてて鳴


 ■4月1日という日

 
遅くまで片付けしたる教頭も一夜明くればめでたく校長

 日めくりを一枚めくれば学校も職場も変はる教師の世


 ■新しき年度を迎へて

 
新クラス恙なかれと手を合はす通勤途上の長田の杜に(月刊「兵庫教育」平成17 年7月号掲載)

 春の使者が入学式に間に合ひて花のまつりとともに祝へり


■桜の季節の訪れに

 
花の下水面に城を映し出し波ゆらめきて白鷺の舞ふ

 はかなきはかげらふに似て桜花この一週間に命を燃やす

 桜花無常の思ひこめて散るそのひとひらの胸に留まる

 ■尼崎列車脱線事故のあと

 加速せる列車の車輪軋むなりいつにもまして身体こはばる(月刊「兵庫教育」平成17 年7月号掲載)

 ■55回生の同窓会にて

「センセイの鞄」を期して飲む我を映す鏡の我苦笑ひす

 卒業後3年ぶりの再会は5月5日の5時55分

 ■二人の校長の退職の会に出席して

 退職の祝賀の会に300余人教師の世界が政治の世界に

 
師を慕ふ70余名の集ひ来て過ぎし日肴に心地よく酔ふ

 ■ハナミズキの開花に

 ほころぶをためらふ白き顔(かむばせ)に紅をさしきてハナミズキとなる

 ■学校終えて受験モードに

 
部活終へコンビニ袋ぶらさげて塾へと急ぐこの子らいとほし(月刊「兵庫教育」平成17 年7月号掲載)

 ■登校時の風景

 しっかりと手をつなぎゆく2人追ひ抜くに抜けないこの5メートル

 ■偶感

 
朝5分畑の野菜と対話して元気をいただき「今日」も駆け出す(月刊「兵庫教育」平成17 年9月号掲載)

 目に映るすべてのものを言の葉に換ふる歌詠み人に我はなりたし

 赤・青・黄今日も一粒飲み忘れ注意信号また点滅す

 
葉隠れに忍者のごとき西瓜玉われ匍匐して三個捕らへぬ(月刊「兵庫教育」平成17 年9月号掲載)

 ホームでは傍若無人の意味知らぬ若者たちが車座になり

 六時過ぎ右肩下がりの老人の散歩姿と出あはなくなり

 頑張れと我声張り上ぐるその裏で負けてほしいと願ふ吾ゐて

 点滴を受くる間の40分来し方行く末脳裏を巡る

 ■トルコの旅(8/2〜13)

 
日めくりを帰国の日までそっと剥ぎまだ見ぬ異国へ妻と旅立つ(月刊「兵庫教育」平成17 年11月号掲載)

 ベルガマの劇場跡に腰おろし風のオペラに耳傾ける

 
トロイヤの丘に涼風通り過ぎ見ればガイドの声も止まれる(月刊「兵庫教育」平成17 年11月号掲載)

 
午前5時コーランの声で目を覚ます我いま確かに異国の地にゐる(月刊「兵庫教育」平成17 年11月号掲載)

 テレビなき洞窟ホテルの2日間解散選挙知る由もなし

 
熱気球カッパドキアを独り占め我はカメラで大地切り取る(月刊「兵庫教育」平成17 年11月号掲載)

 「ギュナイドン」使ってみれば皮肉にも「おはようさん」の笑顔返され

 「しかと見よサフランボルの家並みを」横で子猫が自慢げに鳴く

 
■人間ドックにて

 
バリウムを今年も飲みて去年より美味しく感じる五十路を過ぎて

 ■秋に想ふ

 
居待ちよし寝待ちもよしと思へども切に見たきは望の月かな

 秋分に合はせて咲く花曼珠沙華父の墓前の片隅に咲く

 
秋の夜はすだく虫の音聞きながら夢の底へと我は落ちゆく(月刊「兵庫教育」平成18年1月号掲載)

 
■灘のけんか祭りに(10/16)

 
屋台上ぐる裸若衆の赤き肩に金木犀の勲章ひとつ(月刊「兵庫教育」平成18年1月号掲載)

 
■時代祭の日(10/22)

 
木枯らしに身体震はせ2時間半時代祭は目で見る日本史

■クリスマスのイルミネーション

 聖夜前光のロープをハートにし点灯せるに妻小躍りす

 ■ヤンク(ミニュチュア・シュナウザー)が家族に

 ガラス越し君の瞳に魅入られて一週間後には住人となる