小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会トップ

最高裁へ医師の声を
没後10年の中原先生過労死裁判
九鬼 伸夫

  中原利郎医師が命を絶って十年目となるこの八月、全国の注目を集めた過労死裁判は、その最終局面を迎えている。裁判の行方は、故人が遺書で訴えた「あまりに貧しい」医療現場のみならず、全業種で働く人の生命と健康を左右するものとなった。あまりに問題の大きい東京高裁判決を確定させてはならない。すべての医師の注目と支援とを強く要請する。

  昨秋の東京高裁判決は、中原医師の業務の過重性を認め、過重業務と欝病発症・自殺との相当因果関係を全面的に認めつつ、病院の安全配慮義務違反・賠償責任は否定した。精神障害を起こすおそれを具体的客観的に予見することができず、精神的異変をきたしていることを認識することもできなかった、というのがその理由だ。これは過労自殺について雇用者の賠償責任を問うことをほぼ不可能にする論理であり、自殺予防への社会の動きに逆行し、欝病に関する医療の常識を無視しており、電通事件最高裁判決など過労自殺について積み上げられてきた重要判例に相反している。

  上告受理申立が提出されてから九ヶ月、最高裁で今どんな議論がどれだけ行われているのか、うかがい知ることはできない。ある日不受理決定の通知が届けば、その時をもって裁判は終了し、東京高裁判決は確定し、判例として今後の労災裁判に負の影響を長く与え続けることになる。そうさせないために、私たちにできることは何だろうか。ただ一つしか無いのではないか。それは、東京高裁判決はおかしい、これでは医師のいのちも患者のいのちも守れない、と最高裁に伝え続けることだ。そのための回路は既に開かれている。

  「小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会」では、東京高裁判決に抗議し最高裁に公正な判決を求める署名運動と共に、一人一人の生のメッセージを最高裁に届ける活動を行っている。昨年秋最高裁に提出された「上告受理申立理由書」には、保険医協会役員を含む全国三十人余の医師たちのメッセージが約一万字にも渡って引用された。こんな上告申立理由書が、かつてあったろうか。医師の現場からの生の声を、今こそ、もっと最高裁へ。日本小児科学会の「小児科医のQOLと故中原医師に関する高裁判決に関する声明」や、全国医師連盟の高裁判決批判声明なども、裁判資料として提出された。医療関係諸団体の更なる声明や行動は、個々の声以上の力となりえよう。

  原告中原のり子さんは、毎月一度最高裁への直接要請行動を行い、事務官との面談で、月々の署名と共に国民・医師からのメッセージを伝え続けている。運動をより広げるために「いのち守る」とキャッチフレーズをプリントした特製ボールペンの配布運動も行っている。会のホームページではこうした活動の詳細を公開しているので、ぜひご参照いただきたい。

  <中原過労死事件>都内・佼成病院の小児科医・中原利郎医師は過重労働から欝病を発症し、平成十一年八月十六日、病院屋上から飛び降りて死去。遺族は労災を申請したが業務外として認定されなかった。労災認定と損害賠償を求め裁判を提起。十九年三月に東京地裁の行政訴訟判決は過労による労災と認め、国も控訴せず確定した。しかしわずか二週間後に言い渡された民事訴訟判決は正反対の判断を示し、労働の過重性、過労と自殺の相当因果関係、病院の安全配慮義務違反いずれも否定した。相反する二つの地裁判決を受けた東京高裁の民事訴訟控訴審は二十年十月、労働の過重性、過労と自殺の相当因果関係を全面的に認めながら、病院の責任は否定し、原告敗訴の判決を言い渡した。遺族は最高裁に同年十一月上告受理申立を提出。八月十八日現在最高裁第二小法廷に係属中。

「保険医新聞」(東京保険医協会発行)2009年8月25日号掲載

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