〜 ファイナルファンタジー8 〜
しんと冷える夜気のなか。
若者が一人、武器も携えずにゆっくりとした歩調で歩いていた。
若者は。
人の気配の絶えた街中を一人、脇目もふらず歩んでいる。
街の外れまで辿り着いたとき、その足がふと、止まった。
若者は、ゆっくりと視線を夜空へと投げかける。
青灰色の瞳が捉えるのは、真の姿を顕した冷徹なる夜の女王。
感情の色の伺えない瞳から、つうっと一筋、流れ落ちるモノがあった。
涙。
青白い月の光を受けて、若者の頬がきらり輝く。
無言。
自分が涙を流していることに気づかないのか。
若者は黙したまま、天空を見上げ続ける。
今日、若者の指揮下にいた人間が一人、命を落とした。
それは。
若者の再三の退去命令に背いた末の落命であった。
ゆえに。
若者に咎を負わせるモノは一人として存在していなかった。
だが。
それでも若者は、自分の責任であることを理解していた。
己の判断ミスで、命が喪われた。
その事実が、若者の心に重くのしかかり、その心を責め苛もうとも。
若者は、それを面に出すことを許されていなかった。
それが、若者が選んだ指揮官という道。
だから。
若者は、人前で涙を流すことを良しとしなかった。
涙は他人に不安を与えかねない存在だから。
心の琴線を震わす哀しみという感情。
それを封印することを、若者は良しとした。
天空に煌々と輝き渡る銀盤。
それを見上げる青灰色の双眸に感情の色はなく。
ただ、その頬を伝い落ちる涙が。
若者の思いを夜空へと解き放つ。
END