〜 ファイナルファンタジー8 〜
『何故、彼女はあんなことをしようとしたのだろう』
俺は、最近あることをよく考える。
何故、アルティミシア、あの未来の魔女は、『時間圧縮』という方法を用いてまで世界を破滅に導こうとしたのだろうか、と。
彼女との対峙はほんの僅かの時間でしかなく、その理由を知ることはできなかった。
そのせいか、俺はついついその理由とやらを推測してしまうのだ。
『過去を変えたい』と、以前ある人物に告げられたことがあった。
過去の変革を望むことはすなわち現在の不幸を暗示するのだと、そう語ってくれた人物がいた。
確かに現在の状況に不満があるからこそ、その地点にたどり着いてしまったその過程に変革を望むのだろう。
では、過去も未来も、総ての時間軸を同一線上に置こうとした彼女の意図は何なのだろう。
やはり、彼女もまた現状に不満を抱えていたのだろうか。
・・・・・・・・・・・・。
いや、もしかすると自分自身を憎んでいたのかもしれない。
もしかすると、自分自身をありのまま受け入れてくれない、そんな世界を激しく憎悪していたのかもしれない。
あの時、彼女は言った。
【おまえたちにできることは、唯一永遠の存在である私を崇めること】 と。
自分と他者の間に絶対的な壁を設けなければ、周囲に人を安心して置いておけないと、そう思っていたのだろうか。
以前の俺と同じように・・・。
人と人との触れあいによって得られる暖かい何かを、彼女は知らなかったのだろうか。
以前の俺と同じように・・・。
恐らく、魔女という特殊な力を継承したが故に、未来の世界でも周囲の人々から畏敬の念を持って敬遠されていたのだろう。
それを証明するかのように、彼女の支配する城内には人の気配はまるでなく、在るのは主人に忠実な下僕のみだった。
彼らは彼女の異能を目の当たりにしても、特に何の感慨もなく、ありのままに受け入れていただろう。彼ら自身がその異能により生じていた存在なのだから。
城内のあちらこちらから感じられる悪意はとても強く、どうしてそれほどまでに暗い気持ちを己れの内に抱え込まねばならないのか、俺には不思議でしようがなかった。
闘いの最中、彼女は言った。
【すべての時間を圧縮し、すべての存在を否定しましょう】 と。
どうして彼女はそこまですべての存在を憎悪したのだろうか。
俺にはわからない。それほど強い感情を抱けるほど周囲に執着したことがないから。
いや、自分自身の弱さを覆い隠すため、敢えて執着しないよう生きてきた俺にはまるでわからない。
彼女の最期の言葉。
あれが俺の心を揺さぶってしようがない。
【思いだしたことがあるかい、子供の頃を。その感触、そのときの言葉、そのときの気持ち。大人になっていくにつれ、何かを残して何かを捨てていくのだろう。時間は待ってはくれない。握りしめても、開いたと同時に離れていく。そして・・・】
彼女は何を伝えたかったのだろう。
時間や記憶は砂のようにさらさら流れていってしまい、その場にとどめて置くことは不可能だ。
人は時間の流れを逆行できず、また、自らの許へ時間を引き寄せることもできない。
それが真理だ。
人は、生きていくが故に、時間の流れに添って歩むことしかできないが故に、多くのもの、記憶や思いなど捨て去るしかない。
それが真理だ。
それを敢えて無視してまで、何故彼女はあんなことをしたのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
世界をあれほどまでに憎んでいた彼女は、もしかすると、誰よりも深く世界を愛していたのかもしれない。
世界を愛していたが故に、その世界に受け入れてもらえない自分を激しく憎悪したのだろう。
やがて自身に対する憎悪は変成し、いつしか世界に対する憎悪へと変質していったのではないのだろうか。
俺にはそう思えてしようがない。
彼女の憎悪は深すぎて、俺には想像もつかないけれど、多分、恐らく、彼女は誰よりも世界を愛していたのだろう。
彼女の最期の言葉はそう俺に思わせるほどに、深く哀しい響きを宿していた。
どこか俺と似た感情を宿していた彼女。
出来ることならば、俺は、彼女にもう一度会いたいと、そう思う。
もし会うことが叶うのならば、彼女に尋ねたいことがひとつだけあった。
『貴女には、貴女を貴女としてありのままに受け入れてくれる、そんな存在は、本当にいなかったのだろうか』 と。
END