空から雪の結晶が舞い降りてくる。
何気なくそれに手を差し伸べ、掌に舞い落ちてきた結晶を見つめる。
素手で受け止めたそれは、体温の前にあっけなく融けていく。
あまりにもあっけないその最後。
それが少し残念な気がして、もう一度、手を差し伸べる。
それを幾度か繰り返してから、スコールはふと、自分のしていることに苦笑を浮かべた。
数年前まで、こんな風に雪を眺めたことなどなかった。
雪は、空気中の水分が気象条件により結晶化したものに過ぎず、それ以上何の意味ももたないものだった。
降れば視界を悪くし、積もれば足をとられる。降り積もった雪面は明らかな足跡をその場に残し、一度凍結してしまえばこの上もなく厄介な存在だった。
雪という存在は、およそ戦闘において支障を来すばかりで、正直スコールはその存在を疎ましいモノとして捉えていた。
それが今はどうしたことだろう。
何気なく戯れてしまう程度には、その存在を許容している。
地に降り積もる雪の純白に、視線を向けたくなるくらいには気に入っている。
そんな自分の変化が少しおかしくて、スコールはついつい苦笑を深めていた。
いつの間に、自分はこうして周囲の些細なモノにも心を傾けられるようになったのだろう。
理由が気になったスコールは、その場に佇んだまま顎に手を当てて少し考えこんだ。
思索に耽るように青灰色の双眸が長い睫毛に閉ざされる。
その途端、スコールの脳裏に色々な人々の顔が思い浮かんだ。
それは総て、スコールにとってかけがえのない絆を有する人々。
スコールがスコールであることを認めてくれている温かい人々。
そんな人々のことを思うと、胸の内がふわっと温かみを帯びてくる。
そんな自分はなんて幸福なんだろうと、スコールはしみじみ思った。
自分が今この場所にこうして存在している。
その奇跡を、スコールは感謝したい気分になった。
彼らの前で口に出してしまうのは、気恥ずかしくてとてもできないことだけれども。
彼らに対するこの想いは本物だから。
両の目を閉じたまま、スコールは天空を仰ぎ見る。
この感謝の念が空を通して遍く人々に降り注ぎますように。
常に自分のことを気遣ってくれる人々が温かい思いで満ち足りますように。
空から舞い落ちる雪に己の思いを託すように。
スコールはしばらくの間、空から降り注ぐ雪の只中に佇んでいた。
END
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素敵すぎるイラストを『D−Side』のかなさまより頂いてしまいました。
クリスマスに記念としてUPしたこのお話を読んでくださり、何か描いてみたくなったとか。
文字書きさんとしてこれほど嬉しいことはありません。
サイトへの転載許可まで頂いてしまって、ホントありがとうございました。<(_ _)>