〜 ファイナルファンタジー8 〜

 

【温もり】

 

 土砂降りの雨のなかを疾走する二つの影。
 気象予報官があらかじめ警告していた大雨を除けて早々に人の往来がすっかり絶えてしまった通りを、うっかり雨を避ける手段を持たずに外出した二人はずぶ濡れになるという手痛いしっぺ返しを喰らいつつ、走っていた。
「どうしてあんたはそう無計画なんだ!」
少々先を走る若者が冷たいと言える口調で叫ぶ。
「んなこと言ってもよぉ〜、ここまで大荒れな天気になっちまうなんて、思ってなかったんだ!」
きちんと予報官の言っていることに耳を傾けていれば、これからの天候が大荒れになることは判っていたはずなのに、それをすっかり忘れた自分のことをしっかり棚に上げて男はきっぱり言い切った。
 そんな男の態度に若者は盛大なため息をつくと、それ以上言葉を重ねようとはせず、帰路を急いだ。

 

 やっとの思いで辿り着いた玄関には二人の帰宅を歓迎するように明かりが灯っており、それを認めた二人はほぼ同時に表情を緩ませた。
「たっだいま〜、今、帰ったぞ〜」
男はそう叫びながら勢いよく玄関を引き開ける。
 若者は呆れ気味に肩を竦めながらその後に続く。
 ぱたぱたと軽い足音とともに奥から一人の女性が走り出てきて二人を出迎えた。その手には大きめのタオルが二枚。どうやら二人がこうしてずぶ濡れになって帰ってくることを予想していたらしい。
「とりあえずこれで身体を拭いて頂戴。お風呂も用意できてるわ」
やや乱暴に男にタオルを手渡し、その後ろに佇む若者の頭にタオルをぽんとのせる。
「お風呂はおじさんから使ってね」
どうしてだと目線で問うてくる男に、女性は“年功序列なの”とよく判らない理由を説明する。
 男は首をひねりながらも女性の言うことに逆らう気はまるでなく、タオルで身体を拭き拭き浴室へと足を運んでいった。
 男が素直に浴室へ向かったのを確認した女性は、タオルを頭にのせたまま硬直している若者に気づき目を丸くする。
「早く拭かないと、風邪、ひいちゃうわよ?」
そう促され、若者ははっと我に返ると、彼にしては珍しく慌てた様子でタオルを使い始めた。

 

 若者は硬直していた訳ではなく、気軽に渡されたタオルから感じられた温もりが心地よくて、ついついそれを楽しんでいただけなのだ。
 若者としては、人と関わりを持つことを極力避けてきた自分がこうした何気ないことに感動しているなどという格好の悪いことを、相手に知らせるつもりは毛頭なかった。
 ただ時々こうして、優しい温もりが感じられれば満足だと、思った。そして、それを感じ取ることのできる自分がいれば満足だと、思った。

 それは、雨の降りしきるありふれた日常のワンシーンだった。

 

END

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