〜FINAL FANTASY 8 TALES vol.11〜
大国エスタで大統領を長らく務めているラグナ・レウァールは、執務室の窓から入り込んでくる風にひるがえるカーテンを見つめながら小さくため息をついた。
先日、随分と年が離れてはいたが友人だという若者が凶弾に倒れた一件以来、こうして時々何かを考えこんでいるのか、重々しいため息をついているのだ。
以前にもこのようにして少々落ち込んでいる素振りを見せたことがあったが、今回のはそれとは比較にならないくらい深刻さを帯びていて、おしゃべり好き、噂好きのはずの補佐官たちは、それをそっと見守るのみだった。
何を決意したのか、ラグナは真剣な顔つきになり、傍らで自分の代わりに執務をこなしてくれているウォード・ザバックを見つめた。
無言の会話が二人の間でしばし交わされる。
やがてウォードはこくりと大きく頷いた。
「サンキュ」
ラグナは微苦笑を浮かべて椅子から立ち上がり、そのまま執務室を後にした。
◇
何処までも続いているような錯覚に襲われそうな草原のただなかをラグナはゆっくりと歩いていた。
遙か遠方の山々の稜線がはっきり見てとれるほどに空は晴れ渡り、心地よい風が吹き抜けていく。
片田舎の静けさに包まれた村、ウィンヒルにある妻の墓前を目指し、ラグナは歩んでいた。
墓前に足をむけるのはこれでまだ三度目。
妻がこの世を去ってしまっていたという現実は、やはり心に重く、なかなか足をむけられずにいたのだ。
それでも、それでも、ここへ足を向けてしまうくらい、ラグナは煮詰まっていた。
そっけない墓標にそっと花束を添え、しばし黙祷した後、ラグナは己の心中を妻に向けて吐露しだした。
「どうしてあいつはあんなに自分に対して自信がないんだろうな。
俺にはどうしてもわかんねえ。あいつは自分をもう少し誇らしく感じてもいいと思うのに。
・・・だって、世界を破滅から救った英雄じゃねえか。あいつはよ。
それなのに、自分に全然自信が持てねえ、らしい。
大統領なんて面倒くさい立場になっちまってても、そうじゃなくても、俺は俺以外の何者でもない。
誰が何と言おうともそれは動かしがたい事実だ。
だったらそれでいいじゃねえか。
・・・・・・・・・・・・。
けどよ、あいつはそれじゃだめらしい。
SeeDの自分とそうじゃない自分。
自分のことなのに、妙にきっぱり二つに分けて考えちまってる。
どうしてだか、それがあいつにとっては当たり前のことらしいんだ。
そこんとこ、俺にはまったくさっぱりだ」
スコールにジャンクションして以来、心のうちに秘めていた思いすべてをラグナは口にしていた。
いつもは暖かい光を宿している碧翠の双眸が、寂しげに翳る。
「なあ、レイン。俺にはあいつの考えがどうしてもわからねえ。わからねえんだ。
俺、これからどうすればいいんだ?
このままずうっと、あいつのこと、わからねえままなのかな?」
草原を吹き抜ける風が、ラグナの少々長めの髪を乱す。
ふっと風に誘われるように、碧翠の双眸が遙か遠方で連なる山並みに注がれる。
すっと目を眩しげに眇め、ラグナは再び墓標に視線を戻した。
「・・・・・・・・・・・・」
ラグナのそんな独白に答える者がいるはずもなく、ラグナは寂しげに微笑んだ。
すっと、墓前に腰をおろすラグナ。
再び強い風が吹き抜け、花束の花を無惨に散らす。
舞い上がる花びらに意識を奪われ、ラグナの視線が蒼穹へと注がれた。
視線の先にあるのは、目の覚めるような青空に浮かぶ白い白い雲。
そこに何を見たのか、ラグナの口許が、ふっと綻んだ。
「でもよ、わかんねえからってあきらめてちゃ、いつまでたっても平行線のままだよな。
俺はそんなのは絶対嫌だ。
今までほったらかしにしちまってて、いえた義理じゃねえかもしれないけれど、俺は父親としての義務を果たしたいんだ。
俺はあいつが安心して休める場所を作ってやりたい。
そう、あいつが疲れちまってふと振り返った時、優しく包み込んでやれる場所になってやりたいんだ。
こんな俺がそう思っちまうことは、おこがましいことかも知れない。
でも俺はそんな風にあいつを、あいつの心を守ってやりたいんだ。
なあ、レイン、俺はあいつにとってそんな人間になれると思うか?」
ラグナが心に秘めていた思いに耳を傾ける者はなかったが、ラグナはそれをこうして口にしただけで満足だった。
明日からは、多分、今までとは違った思いでスコールを見守っていくだろう自分。
それを認識できただけでラグナには十分だった。
エスタ大統領ラグナ・レウァールは、やっぱりどこまでも前向きな性格であった。
END