〜FINAL FANTASY 8 TALES vol.3.5〜

【筆頭補佐官と学園長】


 さてどうやってスコールをエスタまでやってこさせようかと考えつつ、キロスは自室にある専用回線の端末をオープンにした。
 デスクの引き出しから手帳を取りだし、バラムガーデン学園長と連絡をとるべく直通回線にアクセスする。その傍ら、今年度の予算が明記された書類を忙しくめくりだした。
 スコールが所属する組織『SeeD』はとびきり優秀な傭兵集団なのだが、雇用するのにかなりの費用が、ごく一般の人がその金額を知ったら驚きのあまり目を見開くこと間違いなしの巨額がかかるのだ。
 『SeeD』、つまり『スコール・レオンハート』を“雇う”ために必要なその費用を捻出するため、予算案を隈無く調べる。
 やがてある項目に気づいたキロスは、実に満足げな笑みを浮かべ、嬉々としてバラムガーデン学園長シド・クレイマーとの交渉に乗り出したのである。

  ◇

 

 「しばらくぶりでしたが、いかがお過ごしでしたかな?」
モニターの前で実にリラックスした表情で、キロスは画面に映る相手に話しかけた。
「その節は、ご協力ありがとうございました。お陰様で、こちらも大分落ち着きを取り戻しています」
学園長シド・クレイマーはいきなりの通信に動じた様子もなく、至極穏やかに応対する。
 キロスも余裕の笑みを浮かべて、さらりと告げる。
「早速で恐縮なのだが、実は折り入って頼みたいことが・・・。勿論、その見返りは充分させて頂くが・・・・・・」
 眼鏡の奥でその目を輝かせた学園長だったが、すぐにそれを消し去ると、人の良さそうな笑みを浮かべ、
「私にできることであればなんでもお受けいたしますが・・・。それで、頼みとおっしゃるのは?」
穏健、実直の鑑とでもいうべき口調でそう受け答えをする。
「単刀直入に言わせて頂くが、これからしばらくの間、SeeD『スコール・レオンハート』の身柄を借り受けたい」
あまりにも端的な申し入れに、シドは意味が掴みきれず、困惑した表情を浮かべた。
「スコール君の?身柄を借り・・・受ける・・・・・・、ですか?」
そしてその一方、素早く頭のなかでスコールという駒が動かせない状態にガーデンが受けるであろう被害を計算し、言を継いだ。
「それは、ちょっと・・・。何しろスコール君はSeeDのなかでもとびきり優秀な人物なので、彼に是非と思われる依頼は多数ありまして・・・、その・・・・・・」
しどろもどろの口調でそれだけ言う。しかし、その目は落ち着いた光を孕んでいる。
 キロスはふっと苦笑を浮かべ、
「彼をずっと拘束する・・・という訳ではなく、こちらが彼を望んだ時に少々融通を利かせてもらえないかと・・・つまり、そういうことなのだが」
ここで一旦言葉を句切り、シドの顔色を窺う。
 相手に観察されていることを重々承知しながら、シドは忙しく頭のなかで計算を繰り返す。
 もともとガーデンは運営するのに非常に費用がかかる組織なのだったが、最近その資金提供をしてくれていた人物と運営方針に関して決定的な相違が生じ、援助を受けられなくなってしまったのだった。
 現在は何とかなっても、近い将来それが破綻することは目に見えていたので、シドにとってキロスからのこの申し出は非常にありがたいものだった。
 それでもシドは躊躇った。
 SeeDを含むガーデン生徒たちは総て、自分の子供に等しい存在なのだ。いくら資金調達の為とはいえ、SeeD派遣業も本来ならばシドの本意ではなかった。しかし、ガーデンを管理維持していくためにはどうしても資金は必要で・・・・・・。
 シドの躊躇いを見透かしたのか、キロスは不意に、
「学園長には伝えておいてもよいと思われるので、お伝えしておくが、我がエスタ大統領ラグナ・レウァールとSeeDスコール・レオンハートは正真正銘、『親子』だ」
低い声音でそう告げた。
「は?」
己の考えに没頭してシドがキロスの爆弾発言の意味を理解するまでに数秒を要した。
「『親子』?スコール君とエスタ大統領が、『親子』?」
鸚鵡返しに呟かれた言葉にキロスは重々しく頷く。
「余計なこととは思うのだが、何せあの不器用な親子では、いつまでたってもラチがあきそうにないことは明白。そこであなたにも少々手伝って頂きたいのだが、どうだろうか?」
キロスの言わんとしていることをやっと納得したシドは柔らかく微笑んだ。
「それでしたら、私にも一切異存はありません」
シドの返答にキロスは満足げに微笑んだ。
「ご理解頂けて大変よかった。早速だが、こちらの我が儘でスコール君を束縛してしまう代償として、この程度でいかがかな?」
端末に装備されているキーボードから『充分な見返り』を提示する。
 それを見たシドの双眸が大きく見開かれた。
 想像以上に凄い金額だったのだ。この金額であれば、精鋭のSeeDを複数人余裕で雇える。それをいくら優秀とはいえたった一人のSeeDの為に支払うというのは少々行き過ぎなような気がした。だから、
「いくらなんでも、これでは多すぎませんか?」
シドはそう尋ねていた。
 提示した金額であっさり交渉成立だと思っていたキロスは一瞬呆気にとられたが、すぐさま気を取り直し、
「スコール君には色々と危険な仕事を頼むつもりでいるので、その保険も兼ねてのことなのだが、問題がおありかな?」
キロスの言葉にはっと我に返ったシドは経営者としての仮面を被り直し、
「お話は了解させて頂きました。それでは、これからスコール君にはエスタからの依頼を最優先して貰うことにいたします。それでよろしいですか?」
モニター越しにキロスが大きく頷く。
「では、早速、スコール君専用の通信回線をお教えしますから、ご自分で交渉して頂けますか?」

  ◇

 

 手元に転送されてきたスコール専用回線へのアクセスコードを一瞥したキロスは満足げに微笑み、早速、スコールをエスタへ呼び出すための作業を始める。
「・・・・・・というわけで、至急、君たちSeeDの派遣を要請したい。この依頼は、無論、我がエスタ大統領もそちらの学園長殿もすでに了解済みだ」
モニターに写しだされているその容貌は、昔、とある田舎で知り合った女性によく似ているものだった。
 派遣されるSeeDがスコールに決定したことにキロスは満足し、通信を切る。
「さてと、戒厳令をしく必要、ありだな。それと、予算委員会の方をまるめこまないと・・・・・・。やれやれ、ラグナ君のお陰でこちらも一苦労・・・だ」
口では迷惑げに言っているが、きらきら輝く双眸がそれをみごとに裏切っていた。

 キロス・シーゲル。
 自分の趣味に対してその努力を惜しまない性分だった。
 そんな彼の趣味とは、“ラグナ・レウァールで遊ぶこと”だった。

 

END

 

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