CRISIS CORE 〜FINAL FANTASY7〜
互いの出身地がかなりの田舎であるという理由だけで意気投合し、一介の一般兵でしかない自分と気軽に友達になってくれた、ソルジャー・クラス1stザックス。
何時も陽気で気さくなはずの彼が、最近、変なのだ。
話しかけていても全然聞いてくれていなかったり、たまに返事が返ってきてもどこか見当外れだったり。心此処にあらずという風に、何処か遠くを見つめていることもしばしばあった。
ザックスの身辺で何かあったのは間違いないことなのだが、その詳細については判らないことだらけ。
知り合ってからそれほど時間が経っているわけではなかったから、悩みを打ち明けて欲しいなんて無理な注文なんだと言うことも判っている。判っているつもりだ。
それでも。
こうして自分が近くにいるときくらいはそんな悩みなど忘れて、いつもの笑顔でいて欲しい、なんて思ってしまう。
生まれて初めて出来た友人に対する自分の独占欲は、ぞっとするくらい強すぎて、時々そんな自分に恐くなってしまうことも正直あった。
◇
「ザックス」
これで何度目になるのか。
少し離れた場所に座り込んでいるザックスへのクラウドの呼びかけは、こちらに向けられた背中に当たってそれ以上は届かなかった。
湖の畔にただ一人座り込み、ザックスが見上げているのは、ぬけるような青い空。
その青空を、真っ白な雲が流れていく。
何故だか声のかけづらい雰囲気を漂わせるその姿に、それでもクラウドは精一杯の勇気を出して傍らに近づこうと足を数歩進めた。
ソルジャーである以上、他人の気配には聡いはずのザックスだったが、何を思っているのかクラウドの存在に気づくことなく、その唇から微かにため息がこぼれ落ちる。そして空を見上げるその横顔が、束の間、切なそうに歪められた。
誰を思い出しているのか。
うっかりそれを見てしまったクラウドの胸が、締めつけられるように痛んだ。
その痛みから逃れるように、クラウドの視線も遙か天空へと差し向けられる。
心地よい風が湖面を撫でながら対岸から渡って来て、二人に涼やかな空気をもたらした。
しばらく二人は黙然と青空を見上げ続けていたが、不意にザックスがその場に寝転んだ。手足を大きく広げて、豪快な大の字に寝転がる。
「この空、見せてやりてーな・・・」
意表をつかれてその場に硬直してしまったクラウドの耳に、そんな呟きが飛び込んできた。
それに促されるようにはっと我に返ったクラウドは、やや慌て気味に腕時計に視線を落とし集合時間までもうあまり時間が残されていないことを知った。
ちらっと視線をザックスへ戻せば、何を思い考えているのか、ザックスは青空よりもさらに遠い何処かを見つめているようだった。
一瞬、その雰囲気を壊したくないとクラウドは思ったが、それが許される状況ではなかった。
心を決めたクラウドは軽く息を吸い込み、できるだけ自然に感じられるよう注意を払いながら、ザックスの元へ歩み寄った。
「ザックス、そろそろ出発だよ」
先程とあまり違わない音量での呼びかけだったが、今度はザックスの耳に届いたのがクラウドにも判った。だがしかし、ザックスはすぐに起きあがろうとはせず、少し切なそうに青空を見つめ続けている。
「・・・・・・どうかしたの?」
心の内を少しでも教えてくれないだろうかと思いながら、クラウドは小さく呟いた。
ザックスの視線がクラウドの方に流れたが、すぐに青空へと引き戻される。
「ああ・・・・・・男の悩みだ」
返ってきた言葉はあまりにも短くて、一瞬、突き放されたような心地になってしまったクラウドの表情がにわかに翳ったが、ザックスはクラウドのそんな思いに気づくことはなかった。そして勢いよく起きあがると、
「よし行こう!」
いつものと同じ明るい調子で朗らかに言い放ち、セフィロスが待っている集合場所へと向かっていった。
無言のままザックスの背中を見送ったクラウドの視線が、ふと青空へ向けられる。
何処までも広がる青い空。
そこを流れていく白い雲。
見慣れているはずのそれらが、いつもとは違う色を纏っているように見え、クラウドは思わず瞬きを繰り返す。そして改めて見直せば。
そこにあるのはいつもと変わることのない大空。
自分が今感じた思いが何だったのか。
クラウドが理解する前に、それはするりとこぼれ落ち、青空へ吸い込まれていってしまった。
二人が二人のまま、こうして空を見上げることは二度と訪れないのだと、クラウドは露とも知らず。
集合時間が差し迫っていることを思い出したクラウドは、慌ててザックスの背中を追った。
何時もと変わらぬぬけるような青空。
そこに舞う黒い羽根の存在に誰も気づくことはなかった。
END